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第4章  飄々

第30話  名産

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 この世界で希少なこの卵。

 なんか料理に使うのがもったいなく感じる。

 元から食べられている五,〇〇〇ベルの卵は白い卵だ。

 赤卵だと見てすぐ違う鳥だと区別がつくからこの鶏を選んだんだが。

 有精卵だからと言って俺が育てると嫌な予感がする。

 なにしろ野生の鴨だかダチョウだかも田んぼで喋り出した。

 さすがに話す鶏の卵を食べる好みは俺にない。

 いくら経済動物とはいえ鶏肉なら尚更だ。

 しょうがない。あいつらに頼むか。

 はぁぁ~。玉素たまもとはまた今度か。

 俺はレオさんに手紙を書く。

 王都での畜産は非常に原始的だ。

 猪豚を広大な森で育てて肉食動物の数を狩人が調整して畜産士とともに食肉にしている。

 放牧と言う名の森の恵みに頼るだけの無管理とも言える。

 その為ダンジョン産の肉の方が安定して流通している位だ。

 卵はどうかというと。

 鳥を広大な土地に放し飼いにして、ただでも産卵数の少ない鳥の卵を探し回っている。

 だから卵が高い。

 猪豚と卵の生産性に共通して関係している問題が食料不足だ。

 人間が食べる分もカツカツなのに動物に飼料を分けられる訳が無いのだ。

 それ故の放し飼い。そして非生産的な現状だ。

 王都でケンちゃんの農業部門に紐づける形で発足させた事業がある。

 ――採卵事業だ。

 ちょうど良い職業の人材も確保できた。

 広大な土地を走り回りエサを探すこの世界の鳥は、運動にエネルギーを使うから産卵数が伸びないのではないかと仮説した。

 行動範囲を狭めて飼料を用意すると仮説の通り産卵率は上昇した。

 結果はおよそ三割増しだ。

 ケンちゃんが耕作面積を増やし米とトウモロコシの余剰が出る程作ってくれたのが大きい。

 長期的には鳥を品種改良して行く計画だったが、大きく軌道修正だ。

 ふ卵器も開発済みだし養鶏場を発足してもらおう。

 卵が確保できれば菓子職人エミリアの料理も日の目を見るぞ。

 エルフ向けにひっそりこっそり作っていたからな。

 それにもう一つ計画する。

 鶏肉の地域ブランド化だ。

 王都とこの都市で違う地鶏を育てて都市毎の独自色を出すのだ。

 きっと面白い事になるぞ。

 俺が手紙を書き終えて顔を上げるといつものモルトがいる。

 制帽風のブカブカのキャスケット帽を斜めにかぶり。

 いそいそと鞄の口を開けている。

 いつもありがとう。モルト頼んだよ。

 モルトは俺から手紙を受け取ると鞄にしまい込む。

 そして――卵をアイテムボックスに入れた。

 そう――モルトは手紙を鞄に入れる必要はない。

 少し手間取りながら鞄に手紙を入れるのはあざと可愛さの様式美だ。

 じゃぁ。モルト配達員よろしくな。

 モルトは敬礼をすると掛け声を上げて消えて行った。

 ラ――――♪
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