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第4章  飄々

第36話  終章Ⅱ ~種は旅立つ~

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 驚きの声を上げたエミリアを見つめ、レオカディオは思う。

(エルフの方々との争奪戦なんてシャレにならない。菓子に熱を上げてるジージェッジリオン師なら起こしかねないからな)

 レオカディオはため息交じりの苦笑いでエミリアを待合室から連れ出す。

(王妃様の分も融通してもらうようエルフの方々と交渉だな。作る量を増やせば問題あるまい)

 レオカディオが弁明と状況報告をエルフに行った時に確かにリオンはピリッとしたが一番冷汗をかいたのがウェンの一言だった。

 彼女はこう言った。

「自由な鳥を籠に囲うならそれは監禁ね。それに弟子の一門に手を出したら報復するのが師匠の権利よ」

 にこやかな笑顔だったが目が笑っていなかった。

(王宮で召し抱えることは本来名誉なことだが、今回は相手が悪かったな)

 王都の平穏を守れたことにレオカディオは安堵した。

 時が流れケィンリッドの鶏舎で卵が順調に獲得できるようになると徐々にエミリアの活躍の場は増えてゆく。

 そんな彼女の元に一通の招待状が届く。


§


 メイリンに店番を頼まれたリラは店を気にしつつ応接室のお客様へお茶を出す。

 ノックをして中に入ると甘いような美味しそうな匂いが漂っている。

 メイリンとガンソ。

 そしてパオラが美味しそうにそれを飲んでいる。

 リラはそれが何か興味深々に見ていると少年から声をかけられる。

「リラさんも宜しければ店番の合間に召し上がって下さい」

 そう言ってアイテムボックスからカップに入ったスープを差し出される。

(ジロジロ見てはしたなかったかな?)

 頬に血がのぼるのが分かった。

 リラはそそくさと部屋を出てゆく。

 そしてバックヤードでカップに口を付けてスープを飲む。

 食べた事の無い甘味と塩味が口の中に広がりふくよかな風味が鼻から抜ける。

(おいしいぃ~♪ キッチンにパンがあったはず。どうせお客も来ないし良いわよね)

 楽し気にキッチンへと向かった。

 メイリンとリラは従妹だ。年はメイリンが二つ上だが小さいころから姉妹のように育った。

 神から啓示された職業も錬金術師と同じだった事もありこの店の手伝いを始めた。

 だが、メイリンの店は来店客も少なく経営は上手くいっていないようだ。

 たまに思いつめた表情をしていることが多くなってきた。

 腕はいいのに営業が苦手で今回のお客も心配した大学の教授が紹介してくれたらしい。

 リラも店に住まわせてもらっているから店が軌道にのるまで給料はいらないといっているが真面目なメイリンはガンとして聞き入れてくれない。

 今日の商談が決まると良いなそう思いながらリラは店番をしていた。

 そして――この日メイリンの運命が変わる。

「っらっしゃいっ!」

 来店客に威勢の良い声をかける。

 呆れたようにリラは聞く。

「……メイリンそれ続けるの?」

 少し頬を赤くしたメイリンが言う。

「だってこの掛け声をかけたときにしか魔道具が売れないんだもん」

 始まりはメイリンの兄が心配して店を見に来た時。

「威勢良く声かけないと売れる物も売れねぇっ!」

 そう言って入って来たお客へ声を掛けた。

「っらっしゃいっ!」

 兄の仕事は魚屋だ。

 だがその日初めてメイリンの店の魔道具が売れた。

 普通に声をかけても売れない日々に物は試しと半ば自棄になって声を掛けたのがノアだった。

 毎日のように来店して何かを買って行く。

 見積りをと言われて作ってしまった魔道具も苦笑いしながら全部買い上げてくれた。

 ノアのおかげで今月はなんとか乗り切れそうだ。

 もはや「っらっしゃいっ!」はメイリンのジンクスになった。

 ノアが来るようになってからは魔道式脱穀機の王都からの受注に始まり。

 数々の料理魔道具の注文が入るようになる。

 極めつけは上部冷却式の冷蔵魔道具の大ヒット。目が回るほどの忙しさだ。

 ある日ノアが提案する。

「メイリンさんが真面目に全部作る必要はありません。特許パテント料を払えばどこでも買える魔道具がこの店に集中するのは、発明王メイリンの店だからです」

「……考えたのはノアさんですが――」

「細かい事はいいんです。これから”紋”の習得に巻き込む――協力してもらうために時間を取ってもらわないといけません」

「今……巻き込むって言いましたよね?」

「気のせいです。心の声が聞こえたのでしょう」

「……」

「今のメイリンさんに必要な事はブランド化です。クオリティを維持して名前で売るんです」

 そう言ってノアは手始めに年季の入った重たい色のレンガと暗い色の重厚なドア。

 そしてペラッペラでポップな看板というアンバランスな外観の入りがたい店舗から手直しした。

 そうして出来上がったのは純白の漆喰の壁に角だけオレンジのレンガが見えるおしゃれな外観。

 看板は厚みが足されて、扉は明るい木目に変えられてカフェのような印象だ。

 小さかった窓も大きく広げられ通りから商品をディスプレイする。

 それは瞬く間にそしてパオラの叫び声とともに行われた。

 その後に王都の魔道具錬金術師と専属契約を行い商品を卸させ。

 メイリンのブランドロゴを作り商品に取り付ける。

 従業員を雇って商品の検品と納品を任せるようになると目も回る忙しさだったメイリンは時間が取れるようになった。

 もっともその時間は”紋”の習得に始まり、習得後は王民事業体イーディセルの講師としてとられてしまうのだが。

 リラはノアに振り回されるメイリンを気の毒そうに眺めていた。

 ――その日までは。
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