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第5章 流来
第4話 引率
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ダンジョンマスターのサイネさんを外へ引っ張り出した俺は、いつも通り一人で出口から出てゆく。
サイネさんは神武さんから目立たない別の場所を用意されていて、そこからこっそりと外に出るそうだ。
あとで合流するという約束だ。
当初の敵対を考えると会ってから二年半程の間で随分と仲も良くなった。
卵と料理が繋いだ縁かな?
まぁ。実際には誕生の瞬間を聞いて同情したっていうのが大きい。
サイネさんにとっては迷惑な感情かもしれないけどね。
いきなり目覚めてあんたダンジョンよろしくねっ! って冗談じゃねぇよ。
――なんてクソな罰ゲームだ。
考えたヤツがいるなら、ぶん殴ってやりたい。
それから三万五千年もやりたくもない事をやらされて、ずっと引き籠ってたなんて聞くとね。
俺の見た目はまだ若造だが。
大人として少し手伝いをしてあげたくなったんだ。
ダンジョンに籠るのが悪いとは言わないが、選択肢……この場合可能性かな?
選べる未来を増やしてあげたかったんだよ。
偽善で結構。
少なくとも俺は恩人の優しさで生き延びてここまで来られたんだから。
ダンジョンの門を潜ると声がかかる。
「おうっ! ノア。今日は早いなもう上がりか?」
「お疲れ様です。ええ。今日は仕舞にします」
警備のおっちゃん連中とも仲良くなったんだ。
「今日も五〇階層へ行ったのかい?」
「はい。なかなか厳しくて足踏みですよ」
まぁ。本当は七九階層を攻略中だが、なんか五〇階層ぐらいからギルドが騒つき始めたんで目立たないようにそう言っている。
空気をちゃんと読めるんだよ俺は。はっはっはっ。
おっ! 都市の入り口にサイネさんが立ってる。
っていうか! ――目立つな。
こっちには真っ黒な髪の人間がほとんどいないからな。
格好も真っ黒で装飾のほとんどないシンプルなゴスロリ風ドレスだし。
そもそもびっくりするほで色白で美人さんだしね。
深緋の瞳も目立つ要因かな。
「お待たせしましたサイネさん。……その格好だと目立ちますね。これを羽織ってフードも下ろしてはどうでしょう?」
一般的なベージュのフード付きスプリングコートを渡す。
「うん。ありがとう。――どう?」
怪しさは満点だが……そもそも雨でも無いのにフードを下ろしっぱなしの人がいない。衛兵に職質されちゃうよね。
「あ。え~と。いいんじゃないでしょうか」
やらないよりはマシだしね。
「じゃぁ。街を案内します」
「ええ。――お願い」
§
サイネは生まれて初めてダンジョンから飛び出した。
空気が層となり進むのを邪魔する抵抗がありそれでも進むと今度は排除されるように背中から押し出された。
眩んで目が開けられないほどの光と頬を撫でる風に驚く。
ゆっくりと陽の光に目を慣らすあいだに嗅いだことのない匂いが辺りに溢れていることに気付く。
そしてたくさんの音の波が耳朶を打つ。
凍った世界で無反応に生きたサイネに世界は刺激的過ぎた。
サイネさんは神武さんから目立たない別の場所を用意されていて、そこからこっそりと外に出るそうだ。
あとで合流するという約束だ。
当初の敵対を考えると会ってから二年半程の間で随分と仲も良くなった。
卵と料理が繋いだ縁かな?
まぁ。実際には誕生の瞬間を聞いて同情したっていうのが大きい。
サイネさんにとっては迷惑な感情かもしれないけどね。
いきなり目覚めてあんたダンジョンよろしくねっ! って冗談じゃねぇよ。
――なんてクソな罰ゲームだ。
考えたヤツがいるなら、ぶん殴ってやりたい。
それから三万五千年もやりたくもない事をやらされて、ずっと引き籠ってたなんて聞くとね。
俺の見た目はまだ若造だが。
大人として少し手伝いをしてあげたくなったんだ。
ダンジョンに籠るのが悪いとは言わないが、選択肢……この場合可能性かな?
選べる未来を増やしてあげたかったんだよ。
偽善で結構。
少なくとも俺は恩人の優しさで生き延びてここまで来られたんだから。
ダンジョンの門を潜ると声がかかる。
「おうっ! ノア。今日は早いなもう上がりか?」
「お疲れ様です。ええ。今日は仕舞にします」
警備のおっちゃん連中とも仲良くなったんだ。
「今日も五〇階層へ行ったのかい?」
「はい。なかなか厳しくて足踏みですよ」
まぁ。本当は七九階層を攻略中だが、なんか五〇階層ぐらいからギルドが騒つき始めたんで目立たないようにそう言っている。
空気をちゃんと読めるんだよ俺は。はっはっはっ。
おっ! 都市の入り口にサイネさんが立ってる。
っていうか! ――目立つな。
こっちには真っ黒な髪の人間がほとんどいないからな。
格好も真っ黒で装飾のほとんどないシンプルなゴスロリ風ドレスだし。
そもそもびっくりするほで色白で美人さんだしね。
深緋の瞳も目立つ要因かな。
「お待たせしましたサイネさん。……その格好だと目立ちますね。これを羽織ってフードも下ろしてはどうでしょう?」
一般的なベージュのフード付きスプリングコートを渡す。
「うん。ありがとう。――どう?」
怪しさは満点だが……そもそも雨でも無いのにフードを下ろしっぱなしの人がいない。衛兵に職質されちゃうよね。
「あ。え~と。いいんじゃないでしょうか」
やらないよりはマシだしね。
「じゃぁ。街を案内します」
「ええ。――お願い」
§
サイネは生まれて初めてダンジョンから飛び出した。
空気が層となり進むのを邪魔する抵抗がありそれでも進むと今度は排除されるように背中から押し出された。
眩んで目が開けられないほどの光と頬を撫でる風に驚く。
ゆっくりと陽の光に目を慣らすあいだに嗅いだことのない匂いが辺りに溢れていることに気付く。
そしてたくさんの音の波が耳朶を打つ。
凍った世界で無反応に生きたサイネに世界は刺激的過ぎた。
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