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第5章 流来
第8話 霧散
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「えぇ。今は熱中しているようなので大丈夫ですよ」
目隠し代わりのパーティションで区切られて姿は見えないが、ソファーに座り映像に集中している。
あと一時間はあのままだろう。
「この頃。良く一緒にいるみたいですがどういった方なんですか?」
「へっ? ――取引き相手で友人でしょうか?」
「本当に友人ですか?」
「どういう意味でしょう?」
「ノアさんが今までこの家に入れたのは私と王民事業体の錬金術師と調合師だけでした。――」
「――それ以外で初めて招き入れた。今居る方はノアさんにとって特別な方ではないですか?」
「――特別というと?」
イェルダは少し目線をきつくした。
「では。はっきり聞きます。お付き合いしている恋人ですよね?」
「えっ? ――違いますけど。って言うか。どうしてそんな話になっているんですか?」
「数々の目撃情報があります。見つめ合って笑っていたとか。手を繋いで歩いていたとか。そして――今。家に連れ込んでいます」
(……言い方。目を見て話す延長で笑っただけだろ。ぼーっとして危ないから手を引っ張ったこともある。泊めたわけでも無いし昼間に家にいるだけで恋人って発想がないわ)
「どれも誤解でしょうね。私はそっち方面の感情が淡泊なので……。で今日はどういったご用件で家に来たんですか?」
「本当に恋人では無いのですか? 嘘をついても調べれば分かりますよ」
「はい。ただの友人です。でも、恋人だとしても関係ないでしょ?」
「誤魔化さないではっきりと言ってください。真実が知りたいんです」
「恋人ではありません。――何の時間なんですか? 要件をお願いします」
イェルダはスッと目線を外した。
「まさか……そんな。どうでもいい事で来たわけではないですよね?」
黙るイェルダ。
(あぁ。イェルダさん。こう見えて結構な奥手だから、それに恋愛初心者だ。中学生の発想で疑ってここに来たのか? 王都でもみんなにバレバレなのに告白も出来ていなかった。相手もそっち方面が鈍いから気付いていないし。ウェン師が良くちょっかいかけていたっけ)
「家に入れたから恋人ってないわぁ。子供じゃないんだから。でもなんでそんなに私の事を気にするんですか?」
――イェルダは思う。
(エステラさんの事は内緒だ。本人が頑張っているのに私が教えるなんて筋違いだし。ノアさんを驚かせるために知らせずに王都を出ると聞いている)
「――ウェン師にノアさんに恋人ができたら相応しいか確認するように言われていまして……」
(あぁ。言うな。あの人なら。ひとの恋バナが大好きだからな。それでちょっかいかけて何組か結婚させていた。世話焼きおばっ……殺気がっ!)
ノアは気配を感じて背後を振り返る。
何も無くてホッとするとイェルダに答えた。
「分かりました。良い人がいたらイェルダさんにも紹介しますよ」
「絶対に――絶対ですよ」
イェルダは安心してそう言うとシャルロットを片付けにかかった。
ふわっふわのスポンジと甘さ控えめのクリーム。
甘酸っぱいベリーの渾然一体となった味に感動する。
「おいしいぃ~」
ゆったりした気持ちでスイーツを楽しむ。
恋人騒動が老婆心であったことを喜びながら。
目隠し代わりのパーティションで区切られて姿は見えないが、ソファーに座り映像に集中している。
あと一時間はあのままだろう。
「この頃。良く一緒にいるみたいですがどういった方なんですか?」
「へっ? ――取引き相手で友人でしょうか?」
「本当に友人ですか?」
「どういう意味でしょう?」
「ノアさんが今までこの家に入れたのは私と王民事業体の錬金術師と調合師だけでした。――」
「――それ以外で初めて招き入れた。今居る方はノアさんにとって特別な方ではないですか?」
「――特別というと?」
イェルダは少し目線をきつくした。
「では。はっきり聞きます。お付き合いしている恋人ですよね?」
「えっ? ――違いますけど。って言うか。どうしてそんな話になっているんですか?」
「数々の目撃情報があります。見つめ合って笑っていたとか。手を繋いで歩いていたとか。そして――今。家に連れ込んでいます」
(……言い方。目を見て話す延長で笑っただけだろ。ぼーっとして危ないから手を引っ張ったこともある。泊めたわけでも無いし昼間に家にいるだけで恋人って発想がないわ)
「どれも誤解でしょうね。私はそっち方面の感情が淡泊なので……。で今日はどういったご用件で家に来たんですか?」
「本当に恋人では無いのですか? 嘘をついても調べれば分かりますよ」
「はい。ただの友人です。でも、恋人だとしても関係ないでしょ?」
「誤魔化さないではっきりと言ってください。真実が知りたいんです」
「恋人ではありません。――何の時間なんですか? 要件をお願いします」
イェルダはスッと目線を外した。
「まさか……そんな。どうでもいい事で来たわけではないですよね?」
黙るイェルダ。
(あぁ。イェルダさん。こう見えて結構な奥手だから、それに恋愛初心者だ。中学生の発想で疑ってここに来たのか? 王都でもみんなにバレバレなのに告白も出来ていなかった。相手もそっち方面が鈍いから気付いていないし。ウェン師が良くちょっかいかけていたっけ)
「家に入れたから恋人ってないわぁ。子供じゃないんだから。でもなんでそんなに私の事を気にするんですか?」
――イェルダは思う。
(エステラさんの事は内緒だ。本人が頑張っているのに私が教えるなんて筋違いだし。ノアさんを驚かせるために知らせずに王都を出ると聞いている)
「――ウェン師にノアさんに恋人ができたら相応しいか確認するように言われていまして……」
(あぁ。言うな。あの人なら。ひとの恋バナが大好きだからな。それでちょっかいかけて何組か結婚させていた。世話焼きおばっ……殺気がっ!)
ノアは気配を感じて背後を振り返る。
何も無くてホッとするとイェルダに答えた。
「分かりました。良い人がいたらイェルダさんにも紹介しますよ」
「絶対に――絶対ですよ」
イェルダは安心してそう言うとシャルロットを片付けにかかった。
ふわっふわのスポンジと甘さ控えめのクリーム。
甘酸っぱいベリーの渾然一体となった味に感動する。
「おいしいぃ~」
ゆったりした気持ちでスイーツを楽しむ。
恋人騒動が老婆心であったことを喜びながら。
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