農家は万能！？いえいえ。ただの器用貧乏です！

第５章 流来

第９話 約束

　――安息日の二日目

　サイネさんが楽しそうに朝から遊びに来た。

　悪いが今日の俺は用があるので操作方法を教えて勝手に見てもらう。

　今日は俺だけで大丈夫だよ。モルト。

　サイネさんと一緒に家で見ていな。

　それにしてもこの二人案外いいコンビになった。

　交互に見たい映画を選んでいる。

　今日の予定は、俺がノルトライブの王民事業体で進めている事の進捗確認だ。

　一つはレンゲ畑。

　田んぼのレンゲは開花してすぐ緑肥として耕耘してしまうから種が取れない。

　だからレンゲは種の採取用の畑で輪作している。

　畑を休ませる意味も兼ねてね。

　今はまだ五月だから生育状況の確認だ。

　種が取れるのは八月くらいかな。

　レンゲはマメ科だから小さなサヤができて真っ黒に完熟したら採取時期だね。

　去年も行ったからもう慣れたものだろう。

　レンゲの種の採取はスラム層のチビ達に小遣い稼ぎ代わりにお願いしているんだ。

　もう一つはこの辺りの荒野に竜舌蘭りゅうぜつらんを見つけた。

　竜舌蘭はアロエに似た多肉植物だ。

　アガベって言った方が通りが良いかな？

　低ｇｉで有名なアガベシロップが作れる。

　低ｇｉっていうのは食後の血糖値の上昇が緩やかな食品ってこと。

　それとアガベといえばあれだ。


　――テキーラの原料として有名だ。

　王都と同じようにノルトライブでも醸造部門を立ち上げている。

　ノルトライブ独自の酒を売り出す。

　鶏にしろ、卵にしろ、その方がずっと面白い。

　そしてそれは酒でも同じだ。

　地域ごとの特色があり多様性が生まれたらと思って計画している。

　そして最後の一つがエルフの森へ行くのに重要なもの。

　――キノコの栽培だ。

　王都でも実践してエルフの方々に好評を博している。

　キノコ栽培で才能を開花させたのがベルント。

　初めに集まったノルトライブの四人の農家の一人だ。

　王都では原木栽培をしていたが、この都市ではさらに進めた菌床栽培に挑戦している。

　キノコの栽培は腐生菌の系統のキノコで行われる。

　原木やおが屑やらを分解できる種類のキノコだ。

　シイタケ、ブナシメジ、ナメコなどスーパーに良く並んでいるのがそうだ。

　マツタケは菌根菌という分類で生きた根に寄生して生育する。

　生きた根がないと栽培できないから人工栽培が難しい。

　本シメジも菌根菌で栽培できなかったが一部でデンプンを分解できる特性が分かって人工栽培できるようになった。

　良く聞く、薫りマツタケ、味シメジのシメジは本シメジの事を言っていてあんまり食べた事がないはずだ。

　普通にシメジとして食べているのはブナシメジかヒラタケだからね。

　本シメジは大黒シメジとも呼ばれ、太く丸みを帯びた白いジクとこげ茶の頭巾のようなカサが特徴だ。

　他にも栽培しているものは和名ではツクリタケ。

　耳馴染みがないかもしれないが、世界で一番食べられているキノコと言われているマッシュルームの事だ。

　マッシュルームは騎獣の堆きゅう肥を原料に作っている。

　この各種キノコ栽培をパッケージ化してエルフの森へ持ち込み栽培指導するのだ。

　何しろ俺の組み上げたパッケージは魔道具全振りの完全環境制御型栽培システムだ。

　――これで約束を一つ叶えられたかな。