182 / 403
第5章 流来
第17話 無頼
しおりを挟む
いつまでも城壁に到達しないスタンピード。その報告をユスティスは受けていた。
「――はい。信じられない事ですが一人の冒険者がそれを成しているという事です」
領主は判断に苦しみ、ユストゥスを見る。
それに頷きユストゥスは口を開く。
「――エステラ君が闘ってくれているのでしょう。その力があったという事です」
「それが本当なら我々は徒労だな。何千人ものいい年をした大人が雁首を揃えて見ているだけなのだからな。だが、清々しい。この上ない空足だ」
領主の言葉にユストゥス続ける。
「我々は今まさに英雄の誕生の瞬間に立ち会っているのかもしれませんね」
報告を受けたユスティスは身振いをした。
(矢で境界を切り取り、城壁を飛び降りて助けに行く。絶界の最終戦にそっくりじゃないか。だが、こちらは師匠の元を離れたデビュ-戦なんて……やはり見に行くか?)
呆れるほど強かったと言われている絶界。
ギルド長の中では若輩扱いのユストゥスは話の中でしかそれを知らない。
今まさにその強さを見せつけている絶界の弟子エステラ。
(そして、――それがもう一人いるなんて、ノルトライブの最高傑作。侵不のノア。ノルトライブ五〇階層最年少攻略者タイ記録。絶界の記録に並んだ男)
新しい世代の台頭は冒険者を引退したユストゥスには眩しい輝きだ。
「領主様。スタンピードも膠着状態のようですので私は西門へと視察に向かいます」
ユストゥスは欲望を満たすためにそう切り出す。
「随分と楽し気ではないか? ――腰が軽くて羨ましいよ」
領主は苦い笑みを浮かべてそう言った。彼が前線に出るなど絶対に許されない。
安全な場所で自身の責任で指示をするのだ。
領主が最前線に出るのは最終局面。
民草の退却時間を確保するときのみ。
――つまり、負け戦の時だ。
ユストゥスは、バレましたかというように人好きのする笑顔を浮かべた。
§
「――おい。……おいっ。おいっ! ……なんだよ。あのネエちゃん。鬼っ強じゃねぇか! 久しぶりに王国での任務だってぇのに。はぁ~。俺はナニかに憑りつかれていんのかねぇ~」
男は双眼鏡でエステラの戦いを観察する。
「まぁいいや。スタンピードが潰れようが俺の任務には関係ない」
スタンピードが起これば男の任務はひとまず成功。
「ゲートキーパーを外に引きずり出せれば目的任務は完了。出てこなければファギティーヴォの開発失敗だ。どっちにしても俺の責任じゃねぇ~。――ペュッッェッ」
そう独り言を絞り出し、苦い物を捨てるように青く濁る唾を吐く。
後は作戦の成否を見定めれるべく静かにその場で気配を殺した。
「良き所で退場しないとなぁ。――見つかったら厄介だ。まだ他も回らんといかんしね」
男は隠密に長けるが戦闘はからっきしだ。
「それにしてもあのネエちゃんの武器? 魔法? ありゃなんだ? 風颶をテイムしたノアって言うクソガキも居たし、ネエちゃんにしろ、王国は変なのが生まれるなぁ。あぁ~面倒くせぇ~」
男は一人なのに悪態をつき続けた。
眼球は定まらず視線が絶えず動き、親指の爪を噛んでいる。
片膝を付け、いつでも動き出せるように踵を上げて迷彩の布をかぶり観察を継続した。
「あぁあ。あの女。――魔物にやられてお死んでくんねぁかなぁ~」
男は呪いの言葉を呼吸と同じに垂れ流す。
ゲートキーパーが外に出てくるか否かを見定めながら。
「――はい。信じられない事ですが一人の冒険者がそれを成しているという事です」
領主は判断に苦しみ、ユストゥスを見る。
それに頷きユストゥスは口を開く。
「――エステラ君が闘ってくれているのでしょう。その力があったという事です」
「それが本当なら我々は徒労だな。何千人ものいい年をした大人が雁首を揃えて見ているだけなのだからな。だが、清々しい。この上ない空足だ」
領主の言葉にユストゥス続ける。
「我々は今まさに英雄の誕生の瞬間に立ち会っているのかもしれませんね」
報告を受けたユスティスは身振いをした。
(矢で境界を切り取り、城壁を飛び降りて助けに行く。絶界の最終戦にそっくりじゃないか。だが、こちらは師匠の元を離れたデビュ-戦なんて……やはり見に行くか?)
呆れるほど強かったと言われている絶界。
ギルド長の中では若輩扱いのユストゥスは話の中でしかそれを知らない。
今まさにその強さを見せつけている絶界の弟子エステラ。
(そして、――それがもう一人いるなんて、ノルトライブの最高傑作。侵不のノア。ノルトライブ五〇階層最年少攻略者タイ記録。絶界の記録に並んだ男)
新しい世代の台頭は冒険者を引退したユストゥスには眩しい輝きだ。
「領主様。スタンピードも膠着状態のようですので私は西門へと視察に向かいます」
ユストゥスは欲望を満たすためにそう切り出す。
「随分と楽し気ではないか? ――腰が軽くて羨ましいよ」
領主は苦い笑みを浮かべてそう言った。彼が前線に出るなど絶対に許されない。
安全な場所で自身の責任で指示をするのだ。
領主が最前線に出るのは最終局面。
民草の退却時間を確保するときのみ。
――つまり、負け戦の時だ。
ユストゥスは、バレましたかというように人好きのする笑顔を浮かべた。
§
「――おい。……おいっ。おいっ! ……なんだよ。あのネエちゃん。鬼っ強じゃねぇか! 久しぶりに王国での任務だってぇのに。はぁ~。俺はナニかに憑りつかれていんのかねぇ~」
男は双眼鏡でエステラの戦いを観察する。
「まぁいいや。スタンピードが潰れようが俺の任務には関係ない」
スタンピードが起これば男の任務はひとまず成功。
「ゲートキーパーを外に引きずり出せれば目的任務は完了。出てこなければファギティーヴォの開発失敗だ。どっちにしても俺の責任じゃねぇ~。――ペュッッェッ」
そう独り言を絞り出し、苦い物を捨てるように青く濁る唾を吐く。
後は作戦の成否を見定めれるべく静かにその場で気配を殺した。
「良き所で退場しないとなぁ。――見つかったら厄介だ。まだ他も回らんといかんしね」
男は隠密に長けるが戦闘はからっきしだ。
「それにしてもあのネエちゃんの武器? 魔法? ありゃなんだ? 風颶をテイムしたノアって言うクソガキも居たし、ネエちゃんにしろ、王国は変なのが生まれるなぁ。あぁ~面倒くせぇ~」
男は一人なのに悪態をつき続けた。
眼球は定まらず視線が絶えず動き、親指の爪を噛んでいる。
片膝を付け、いつでも動き出せるように踵を上げて迷彩の布をかぶり観察を継続した。
「あぁあ。あの女。――魔物にやられてお死んでくんねぁかなぁ~」
男は呪いの言葉を呼吸と同じに垂れ流す。
ゲートキーパーが外に出てくるか否かを見定めながら。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,582
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる