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第5章  流来

第53話  一変

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 少女がテントの中で目を覚ますと、美味しそうな匂いが漂っている。

 初めて見る布の壁に困惑しながらも、外から漏れ入る光を目指し少女はゆっくりと陽の下に歩み出る。

 眩しさに目が慣れると、──息を呑む。

 見慣れた村は瓦礫に変わり、廃墟となっていた。

 混乱で頭がついて行けず動けない。

「──気が付いた。この村はスタンピードに襲われたのよ」

 エステラが歩み寄り少女を落ち着かせるように語り掛ける。

 彼女は、村に残る亡骸を生き残った冒険者達と一所に集め終えた。

 その後に炊き出しをして、冒険者達に振舞っている。

 作った料理は、野菜のごった煮。チャンボッタ。

 トマト、ズッキーニ、ジャガイモ、パプリカを炒めて煮浸しにした料理だ。

 通常よりスープを多くして、ペンネ・リガーテを加えている。

 ペンネ・リガーテはソースが絡むように、筋の付いた筒杖のパスタだ。

 冒険者達は無表情か、悲しむかしながら無言で食べていた。

 悲しみと絶望は腹を満たせば、少しマシになる。

 そう教えてくれた人がいたから。

 料理人は人生に寄り添い、力づけることが出来る、そう称賛してくれた人がいたから。

 だから、エステラはこの場所で明日につなげるために料理を作った。

「――あなたも食べて。──話はそれから」

 そう言ってエステラは皿を差し出した。

「──お父さんとみんなはどこですか?」

 エステラは少女の心を見極める。

「──あなたのお父さんは、あなたを守る為に勇敢に戦って亡くなった。そして、この村での生き残りはあなただけ」

「……嘘っ! いやっ! お父さんはどこ? お父さんに会わせてっ!」

 エステラは少女を胸元に抱き寄せ、落ち着かせるようにゆっくりと背中を叩く。

 始めはむずかった少女も、やがて落ち着きシクシクと泣き出した。

 エステラは少女の気持ちが整うまでどれだけでも待つ。

「──あなたの為に命がけで戦ったはずよ。誇りなさい」

 少女が落ち着くとエステラはもう一度食事を勧める。

「空腹のときの悲しみはその深さを増す。──まず。食事をして。後の事はそれから」

 エステラは再度チャンボッタ・ペンネ・リガーテを差し出す。

 少女は人形のように受け取ると、食事をとり出した。

 食休みを取りながら、少女に話しを聞く。

 少女の名はクラーラ。七歳だ。

 エステラは、こういう事が起きた場合に使うようにウェンから渡されたアイテムボックスを取り出す。

 純白の祈る女性の像だ。エルフの口伝に登場する聖人を模している。

 その姿は、中に収める亡骸の安寧を祈っていると伝えられた。

 エステラはもう一度ジッと見つめ、少女──クラーラの父親を安置する。
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