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第5章  流来

第54話  旅情

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 安置された男性の右の長袖は半分から破れ血に染まり黒く変色している。

 胸元も大きく血が流れた跡がある。

 だが、その顔は満足気で眠っているようにも見える。

 男性は最期の瞬間、モンスターが興味を失ったかのように、家の壁をぶち壊し外へ出て行ったのを目にした。

 モンスターに穢された傷もエステラによって癒えている。

 クラーラは走り寄ると、父が起きるように揺さぶる。

 そしてその絶望的な冷たさに一瞬身を引くと、直ぐにすがって泣き出した。

 エステラは少女の背中をゆっくり叩く。

 今かける言葉はない。

 クラーラが父と別れるのに必要な時間だ。

 静寂の廃墟にクラーラのむせび泣く声がこだまする。


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 エステラは、クラーラと旅をする。

 自身がビビアナやクローエにしてもらったように、夜は一緒のベッドで眠り、一般的な教養を教えながら男を追う。

 うなされている夜は優しく抱きしめ、クラーラの安寧を願う。

 クラーラと出会い一年が経ち、今は料理の手ほどきもしている。

 今やクラーラは、ネスリングス仕込みの最先端料理の継承者だ。

 クラーラが啓示を受けた職業も料理人だった。

 彼女の父の職業は炊事兵だったそうだ。親の職業は子に影響を与える。

 クラーラの父は衛兵に所属していた時に炊事を担当しており、いつの間にかその職業になっていた。

 クラーラの母が亡くなってからは、衛兵をやめて娘の側に居られるように料理屋を営んでいた。

 二人が一緒に旅をする理由。

 村の亡骸を荼毘だびし、その処理を領主の兵に任せたエステラは元の街に戻った。

 スタンピードを起こしている男を追っている。

 エステラがクラーラにそう伝えると、連れて行ってほしいと頼まれた。

 父に結末を見せてやりたいと、形見のペンダントを握るクラーラを、足手まといと分かりつつ保護するように連れて歩く。

 父に何もしてあげられなかった過去の自分が、クラーラへのエンパシーを感じていると理解している。

 二人が旅をするその期間も、男は王国の東の果てを目指すように進む。

 差出人不明の手紙は、徐々に精度を増し、男を更に追い詰めている。

「スティねぇ。──今晩もあっちで食べるの?」

「──ララはどっちがいいの?」

「えへへ。──スティねぇのごはんが食べたい」

「──了解」

 ウェンがエステラに用意した訓練施設は、手のひらサイズの深緑の半球体だ。

 その中に広大な空間が広がっている。

 中にはバルサタールの動きをトレースした、有機ゴーレムが備えられており、近接の訓練を行える。

 その他、クレーが複数打ち出される、矢の訓練設備も配置されており、遠近の訓練をこなせる場所だ。

 そして、その空間には快適に過ごせるように邸宅が設置されている。

 そこには、ノアが生み出した広い温泉を完備する。
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