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第5章  流来

第61話  転入

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 ノアの拠点でサイネはゲームに興じる。特に対戦アクションゲームがお気に入りだ。

 今もモルトと白熱の対戦の真っ最中だ。

 レベルは下手の横好き程度だが、十分過ぎるほど満喫している。

 ノアがエルフの里から戻り一ヶ月が経った。

 目の前のローテーブルにはポテチがカゴに盛られ。

 ポテチトングと琥珀色の炭酸ジュースが用意されている。

 戻ってきたノアは協定の最終攻略である八〇階層で、あらゆる武器を使い訓練をしていた。

 なまった身体を慣らしていると言いながら。

 それに納得がゆけば、近い将来この街を出て行くのだろう。

 その時、このくだらなくも、楽しく穏やかな日常がどうなるのか、考えないようにしていた。

 だが、もはや、友人とも呼べるノアとの別れを寂しくも覚悟はしている。

 シャイなサイネは、刺激的で渦のように巻きこみ楽しませるノアへ感謝しつつ、その言葉を口に出せずにいた。

 そのサイネに、タイミングを見計らいノアが声をかける。

「サイネさん。――もうすぐ。私はこの街を離れます。その後の事なんですか。今よろしいですか?」

 とうとう来たかと、サイネは心を落ち着かせる。

 同意を口にしようとしたサイネに異変が起こる。

 ノイズのような神武かみたけの叫びが届く。

(――神武かみたけ? どうしたの? 返事をして?)

 そして、彼と絶えず繋がっていたパスが途切れたのだ。

 数年前のあの時を同じように、もとから白い顔が色を無くすほど悪くなる。

 それに気づいたノアが尋ねる。

「サイネさん。どうしました?」

神武かみたけと連絡が取れなくなったの」

「それなら、一旦――ダンジョンに戻ったらどうでしょう?」

「そうね。――戻ってみる」

 サイネは地下室の階段を駆け下りる。

 そして、この家に設置された転移門に触れた。


 ――沈黙する転移門。

「――転移できない。どうなっているの?」

 直ぐにノアが代案を提示する。

「――街を出て、直接、ダンジョンへ戻りましょう。確認するのが一番です」

 ノアがサイネを外に連れ出す。

 路に出るとアネリアが姿を現し、サイネを守るように背に隠す。

「どうも。アネリアさん。いつもお疲れ様です。やはり、サイネさんの関係者でしたか」

 ノアはにこやかに声をかけた。

(アネリアさんは、サイネさんが家に居る時は、いつも近くで待機していた。この場を守るようにね)

 アネリアは、ノアの言葉を無視してサイネに語りかける。

神武かみたけと応答が取れなくなりました。あの時と同じ状況です。サイネ様は私の側にいてください」

「――神武かみたけのところに行かないと。助けを待っているかもしれないから」

 サイネはそう叫ぶ。

 その時、ノルトライブの都市内。

 数多あまたの転移門が黒い光とともに生み出される。

 通常の白色とは異なり、禍々しい漆黒をしている。


 そして――ダンジョンのモンスターが都市へ転移を開始した。

 警鐘も警笛も鳴らない穏やかな日常に、毒華だいかの悪意は放たれる。

 そのあだばなを舞い飛び、おもねるは、ファギティーヴォという名の蝶だ。
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