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第5章  流来

第62話  凶刃

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 ――ノルトライブ

 ダンジョンの頸木くびきから“脱獄“し、”暴走“したモンスターが次々と転移してくる。

 一般市民はその巨躯と迫力に、ある者は固まり、ある者は腰を抜かした。

 冒険者は魂の反射で武器を構える。

 都市内へのスタンピードという異常事態も、ダンジョンで日常的に研ぎ澄まされた覚悟が、その判断を早める。

「なんてこったっ! おい。隊列を組むぞっ! 協力しろ」

 冒険者はダンジョンでは、パーティー単位の少人数で行動する。

 二人から四人程が平均だ。

 だが、難易度の高い階層へ挑むときや、モンスターが集団で現れたときは、協力し合い集団で対応することがある。

 冒険者は、半円を描き隊列を組む。

 前列は戦士職者や楯を持った防御力に自信がある者達だ。魔法と弓を得意とするものはその後ろに立ち攻撃を準備する。

 斥候を得意とする動きの素早い者が、逃げ遅れた一般市民をその囲いの中へ投げ飛ばし、内側の冒険者が衝撃を殺して受け止める。

 そして――モンスターと冒険者が激突する。

 モンスターの唸り声と、防具がぶつかる鈍い音が辺りに響き渡る。

 冒険者は剣を振るい、モンスターを倒す。

 また、あるところでは、モンスターのかち上げを喰らって吹き飛んでいた。

 指揮官不在の局地戦が、そこかしこで展開される。

 この場のように、近くに冒険者がいた市民は幸福だった。

 法則性すら無い、転移門の出現は、逃げ惑う一般市民へ容赦なく襲い掛かる。

 一五階層のマナナンガル。

 漆黒でビロートの皮膚をした、人型の牛だ。

 背にはコウモリの羽が畳まれており、空を飛ぶことが出来る。

 一〇〇体を下らない程に出現したそいつらは、両手に強大な肉切り包丁を持ち、混乱する市民に襲いかかった。

「――ひっ!」

 無力に腕を顔の前で交差させる市民へ、その凶刃きょうじんは振り下ろされる。


 ――まさにその時。

 市民の前方へ薄ぼんやりと光る、白い板が現れた。

 その板はマナナンガルの攻撃を受け止める。

 と同時に数多の風刃が一瞬で、数十体のマナナンガルの首を切り飛ばし、黒煙へとその姿を変えさせた。

 羽音すらさせず無音で飛翔するは、ツンツク。

 秒の間でマナナンガルを殲滅した。

(ダンナ。転移の柱は、破壊できますが、直ぐ別の場所に現れます。キリがありやせんぜ)

 ツンツクはノアに状況を報告する。

(分かった。ありがとう。無理せず引き続き宜しく)

『普段のんびりやらせてもらっている身としちゃぁ~。こんな時でもねぇと、いつも頂く美味しい焼肉のお返しにもならねぇってもんよ』

 気合を入れたツンツクは、天空の覇者の力を発揮する。





 サイネさんとアネリアさんのやり取りを眺めている俺の探知魔法に、あり得ない異常が現れる。

 複数のモンスターの気配だ。

 忽然とそこかしこに出現する。

 俺は自分の目で確認すべく、慌てて一番近くの異常地帯へ走る。
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