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第5章  流来

第75話  護傘

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 エルフは人間の世界に不介入。

 子供でも知っている、世界の常識だ。

(――何が起きているのかね? 俺の頭じゃ分からんし、やることをやるまでよ)

 敵を探し縦横無尽に突き進むオリヴェルの前に、見た事もない物が現れる。

 それは、白い光の板を身に纏い、モンスターへと突貫する。

 そして、それらを煙に変えるとドリフトで急旋回すると、瓦礫が折り重なった場所へと戻って行く。

 オリヴェルは思わず呟く。

「なんだ? ……ありゃ?」

 剣を構え警戒しながら、オリヴェルはそれに近づく。

 白金の体と大小不揃いな大きさの丸いタイヤ。


 ――――シュイーン。

「要救助者発見」

 オリヴェルには伝わらない日本語で、ドローンが音声を発する。

 外部スピーカーからトラが、オリヴェルへ確認する。

「救助が必要ですか? シェルターの場所が分かりますか? お手伝い出来る事はありますか?」

「……なんだぁ? ありゃ?」

 オリヴェルは二度目の呟きを、思わず口にした。

 その間もトラは、せっせと瓦礫をどかし、市民が外へ出て来た。

 それを目の当たりにして、オリヴェルは思う。

(変ちくりんだが、味方のようだな。……とんでもで、妙ちくりんだが)

「――お前は何者だ?」

 オリヴェルは、簡潔にそう問う。

「このような、見た目ですが怪しい者ではありません」

 その言葉は、怪しさ全開で、突っ込みどころ満載だ。

 その後、トラが伝えた、何者かを示す、日本語の品名、品番、愛称のウッドは全く伝わらない。

 唯一伝わったのは、ノアからの指示で救助を行っていること。

「ノアっていう、兄ちゃんの関係者か?」

「はい。ノアさんが、私の所有者です」

「そうかい。なら身内だな。宜しく頼むよ。その白い板はあんたが出しているのかい?」

「いいえ、違います。――秘匿事項に抵触します。発言を控えます」

「あっ! いいんだよ。気にすんな。変な事聞いて悪かったな」

 オリヴェルは、面識のないノアを良く知る。

(兄貴の弟子なら、俺の弟分だよな?)

 オリヴェルは、絶界バルサタールの唯一の舎弟だ。

 ――思想の違いで、過去に袂を分かったが。

 古い糸は、確実に綻ばず、その胸にまだある。

(変な奴だとは、叔父貴に聞いていたが、想像以上のようだな)

 兄貴分のバルサタールと五分の兄弟。ギルド長マティアスが叔父貴だ。

 人並み外れた兄貴分を思い出し、懐かしく笑う。

 そして、ノアと会う事を楽しみに笑う。

 底抜けに明るく、タガ無しに優しい。

 慈愛の護傘ごさん。人民をその手で守る優しく大きな傘だ。

 すると、上空にヒョウ頭の生首、ペナンガランが唸り声を轟かせながら、大挙して集まって来た。

 オリヴェルは、空気を蹴り上空まで飛び上がると、その剣を一閃した。

 その剣域は20m。――傘のように広がった一撃で、ペナンガランは霧散した。

 傷顔スカーフェイスのオリヴェル。――その笑顔は、暗闇を吹き飛ばす。
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