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第5章  流来

第84話  震動

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 この状態の神武かみたけから働きかけは何も出来ない。しかし、外の様子、――ヌクレオ迷宮核が監督している内容は把握が出来た。

 そして、ひとえにサイネを案じる。

 神武かみたけになってから、感じていた言葉に出来ない感情の発露。

 その根源的な意味を知った。

 死んだように生きるサイネへの、心を揺さぶられる衝動だ。

 新たな人生をと願った。

 愛した女性の生まれ変わりは、自分が望み願ったせいを楽しんではいなかった。

 共に歩めたのに、それを手助けさえ出来ていなかった。

 悔恨かいこんが、慚愧ざんきが、呵責かしゃくがドロドロと魂を溶かす。

 今を楽し気に生きるサイネの姿が、唯一の免罪符だ。


 ――と。

 彼の閉じ込められた青紫あおむらさきの空間を割く様に、巨大な瞳が一つ現れ、神武かみたけをジッと見つめる。

 その瞳はすぐに楽し気な半月型に変わる。

「――思い出したのかい? 因果乱数普遍体の影響力は、本当に面白いな」

「――あなたは、あの時の神ですか?」

「神? この世界に神はいないよ。知っているだろう? ここは神から見捨てられた世界だ」

「では、貴方は何者なのでしょうか?」

「くすくす。そんなのどうでも良いだろ? 眺める者とでも、呼んでくれ。それより面白い変化をしたね? それでは、まるで――」

 神武かみたけはノアに取り込まれていた時に感じた、圧倒的な上位者のを感じていた。

 眺める者と名乗った何かは、言いたいことを言うと、興味を失ったように消えた。

 青紫の空間を静寂が支配する。

 不意にコアルームの本来は何もないはずの壁に入口が現れる。

 そして、そこからボロボロのノアが慌てるように出て来た。

(ノアさん? どうやってここへ?)

「あれ? 本当に入れた。もう少し嫌がらせされるかと思ったんだけど」

 ノアが、珍しく独り言を呟いた。

 そして真っ黒なヌクレオ迷宮核を見つめる。

(――やはり『暴走くん』状態か? これをどうにかすれば、スタンピードは解決かな? ぶっ壊す訳にもいかないよな?)

 ゆっくりとヌクレオ迷宮核に近づく。

 すると、別の入り口から、サイネとアネリアが入って来た。

「ノア。どうやってここへ入ったの? それに、その格好は何?」

 その声でノアが振り返る。

「ノア。――そこから離れなさい」

 それにノアが答える。

「いや。色々ありましてね」

 にへらと疲れたように笑った。

「良いから、そこから離れなさい。敵対禁止協定は機能していないの?」

(まずいか? 少し距離を取ろう)

 ノアは、距離を取るべく動き出す。

 ――すると。

 ツイストバングルが、意思を持つようにノアの右腕を引き上げる。

 虚を突かれて、素早く力強い勢いに引きずられるように、ノアは一歩踏み出し、その右手は漆黒のヌクレオ迷宮核に触れた。

 瞬間。



 ――ダンジョンが震えた。
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