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第5章  流来

第91話  終章Ⅱ ~種は目指す~

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 ネビルはノアから受けた言葉を思い出していた。

「ネビル。大根を白く美しく茹でるなら、米ぬかと一緒に茹でろ。なければ、米のゆで汁でもいい。それすらなければ、米を入れて茹でろ」

「それだけで、白さが際立つ。時間が無ければ、隠し包丁を入れても良い。だが、お前が煮方を目指すなら、そのままの大根で箸を入れたときピンと真っ二つに割れる塩梅を覚えろよ」

 そこへ醸造部門代表のもう一人。弟のヘイモがやって来る。

「ネビル。仕込んだ味噌持って来たよ。ここに置いておけばいいかな?」

「あぁ。そこでいい。後はこっちでやっとく」

「この大鍋の白いのは、何だい? 何を作っているの?」

「んっ? これか、茹でているのは大根だ。ふろふき大根を作っている」

「白くて不思議な形だね? 美味しいの?」

(――まずい物をつくるわけねぇだろ)

 ネビルはニヤリと笑うと挑戦的に聞き返した。

「――喰ってみるか?」

 ヘイモは思い通りことが運び、小躍りする。

「やったぁー。そう言うと思った」

 いつもの事だ。

 この味見こそ、ヘイモがネビルへの配達は率先して行く理由だ。


§


 バルサタールが帰宅すると醸造部門のヘレナから酒が届いたと妻から伝えられる。

 ヘレナから届けられたのは穀物やジャガイモが原料の醸造酒。

 ウォッカだ。

 王都で作られている。

 直接飲むのはきつい酒だが、バーではブラディマリーという名のカクテルとして出されている。

 バルサタールはシェイカーという道具をノアから貰い。

 その時にカクテルの作り方を聞いて知っている。

 昨日、また、昔の馴染みから酒が届いた。

 自慢気な手紙と共に。

 その酒の名はテキーラ。

 どうやらノルトライブの特産品らしい。

 飲んでみたが、これもきつい酒だ。

 ウェンから男を追っていると説明されたバルサタールは、エステラに預けたニホンシュがいつ迄も届かないのを知っている。

 前の酒の返礼もかねて、急ぎ他の酒を贈ろうとヘレナに頼んでおいたのだ。

 昔の馴染みの手紙には、面白い事が書いてあった。

『きつい酒だが、カクテルにすると飲みやすくなる。やり方と道具を贈る』

 贈られてきたのは、見た覚えのあるシェイカー。

 カクテルの名は『ストローハット』テキーラをベースにしたカクテルだ。

 その材料がおかしくて、バルサタールは頬を緩める。

 テキーラとトマトジュース。柑橘のしぼり汁だ。

(兄弟。知っているか? テキーラをウォッカに変えるとブラディマリーって名になるんだぜ?)

 親戚の様なカクテルを広めたのは、おちょくるのが好きなノアのいたずらだろうか?

 バルサタールはそう想像する。

 実際には、ノアは野菜を普及させる酒を作りたかっただけだが。
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