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第6章 罪咎
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穏やかな別れの時間。
ノアの下へ農家部門のまとめ役のクラウスがやって来る。彼は支所の農業部門で始めに集まった四人の中で一番土魔法に長けていた人物だ。
「ノア。本当に行ってしまうのか? もっと色々教えてくれよ」
「クラウス。ここはもうお前に任せるよ。宜しくな。誰でも気兼ねなく卵を食べられるようになったのはお前がいたからだ。」
「――ノルトライブだけのブランド化を進めれば良いんだろ? あの鳥。……モミジって品種のさ」
ノアは微笑むと宜しくと言った。
ノルトライブでは、国産赤鶏のもみじが採卵用に飼育されている。黄身が大きく卵白ですら濃厚な旨味を持つ一級品だ。
ここでも撒かれた種はしっかりと芽吹いた。
幸せの宴は続く。
~~~
――翌日
城門の前でノアを見送りに支所から三名が来ていた。
支所の代表者のイェルダ。調整役のコンラート。農業部門のまとめ役クラウスだ。
「……何か。今日は人が多く無いですか? 誰か来るのかな?」
ノアが不思議そうにそう言う。イェルダは微笑んだ。
城壁の上には二,〇〇〇人を超える市民が静かに並ぶ。誰一人として声を洩らす者はいない。
(――大先生。皆が見送りに来ているのですよ。魂の恩人を)
ノアは散歩にでも出かけるように軽い別れの挨拶をするとトラクターへ乗り込み東に向って進みだした。
その姿が見えなくなるまで、誰もその場を離れなかった。
その日はノルトライブのそこかしこで、祝杯があげられた。
掛け声は一つだ。
――慎ましやかな、我らの英雄に。
回想を終えたイェルダは思う。
誰一人歓声を上げること無く見送られたノアの事だ。
それは名を上げたくない英雄に何と相応しい餞だろう。
事を成し、それを誇るでもなく当たり前のように走り出す、かの者へ市民から最大限の拝謝の形だ。
市民は知っている。食事が少しずつ豊かになり、卵が一般市民でも手に入るようになった。キノコや蜂蜜をはじめとした様々な食材が街に増えてゆく。
街に遊園地が出来て、他の都市から遊園客が訪れ経済が動き出した。
全て王民事業体イーディセルが起こした事柄だが、その中心にいた大柄な青年の事を。
心の声を表すようにコロコロと表情を変えて、偶に皮肉気に笑う。そういう青年だ。
彼がポーカーフェイスになったら、被害者が出る。悲鳴が上がるのはいつもそういう時だった。
そして――魂の恩。
イェルダは東を見つめ次に訪れる長い別れに覚悟を決める。そして、唱えるように声を発した。
「――慎ましやかな。我らの英雄に」
――ボォヴゥン
信仰値が加算されました。
ノアの下へ農家部門のまとめ役のクラウスがやって来る。彼は支所の農業部門で始めに集まった四人の中で一番土魔法に長けていた人物だ。
「ノア。本当に行ってしまうのか? もっと色々教えてくれよ」
「クラウス。ここはもうお前に任せるよ。宜しくな。誰でも気兼ねなく卵を食べられるようになったのはお前がいたからだ。」
「――ノルトライブだけのブランド化を進めれば良いんだろ? あの鳥。……モミジって品種のさ」
ノアは微笑むと宜しくと言った。
ノルトライブでは、国産赤鶏のもみじが採卵用に飼育されている。黄身が大きく卵白ですら濃厚な旨味を持つ一級品だ。
ここでも撒かれた種はしっかりと芽吹いた。
幸せの宴は続く。
~~~
――翌日
城門の前でノアを見送りに支所から三名が来ていた。
支所の代表者のイェルダ。調整役のコンラート。農業部門のまとめ役クラウスだ。
「……何か。今日は人が多く無いですか? 誰か来るのかな?」
ノアが不思議そうにそう言う。イェルダは微笑んだ。
城壁の上には二,〇〇〇人を超える市民が静かに並ぶ。誰一人として声を洩らす者はいない。
(――大先生。皆が見送りに来ているのですよ。魂の恩人を)
ノアは散歩にでも出かけるように軽い別れの挨拶をするとトラクターへ乗り込み東に向って進みだした。
その姿が見えなくなるまで、誰もその場を離れなかった。
その日はノルトライブのそこかしこで、祝杯があげられた。
掛け声は一つだ。
――慎ましやかな、我らの英雄に。
回想を終えたイェルダは思う。
誰一人歓声を上げること無く見送られたノアの事だ。
それは名を上げたくない英雄に何と相応しい餞だろう。
事を成し、それを誇るでもなく当たり前のように走り出す、かの者へ市民から最大限の拝謝の形だ。
市民は知っている。食事が少しずつ豊かになり、卵が一般市民でも手に入るようになった。キノコや蜂蜜をはじめとした様々な食材が街に増えてゆく。
街に遊園地が出来て、他の都市から遊園客が訪れ経済が動き出した。
全て王民事業体イーディセルが起こした事柄だが、その中心にいた大柄な青年の事を。
心の声を表すようにコロコロと表情を変えて、偶に皮肉気に笑う。そういう青年だ。
彼がポーカーフェイスになったら、被害者が出る。悲鳴が上がるのはいつもそういう時だった。
そして――魂の恩。
イェルダは東を見つめ次に訪れる長い別れに覚悟を決める。そして、唱えるように声を発した。
「――慎ましやかな。我らの英雄に」
――ボォヴゥン
信仰値が加算されました。
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