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第6章  罪咎

第44話  掣肘

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 最後の一撃に賭け、ジョシュアさんの唸る剣撃を躱し、距離を縮める。

 俺は槍杖を肩に担ぎ両手を載せた。

 霞段かだん。――俺が放てる最速。最強の一手。そして、続く段撃の初手だ。その一撃は無限に変ずる。

 左からの打ち下ろしは、ジョシュアさんのガードをぬるりとすり抜け鎖骨へと三度目の斬撃を見舞った。

 続く横薙ぎは楯でいなされる。次は上段打ち。それは剣で受けられた。俺は剣に絡めるように槍杖を回し腕ごと外へと弾く。

 四撃目はしなやかに軌道を変えて突きへとなりジョシュアさんに迫る。

 それを素早く受けにきたジョシュアさんの楯を、俺は、


 ――貫いた。

 一度目の霞段かだんで作ったひびを今までも何度か狙って攻撃している。それが実を結び左腕へと斬撃が通る。

 鎧で覆われた鎖骨への斬撃も伏線だ。左半身にダメージが通るように同じ場所を定めて攻撃していた。この日初めて鉄壁の楯が泳いだ。

 その隙を見逃さず、独特な歩法で転調し俺の体が、ブレるようにぬるりと懐へ跳びこむ。――崩身くずしみ

 今日二度目のそれに対し、ジョシュアさんは身体が霞むほどのシールドバッシュをカウンターで被せた。

 高速の思考の中。壁のような圧力で凶悪な一撃が眼前へと迫る。



 それは、――何度も見たよ。


 ――俺は空間すら弾き潰すそれから身を捩り反転して躱しにかかる。

 ジュボッ! 空気が削られる音がした。オゾン臭を伴った、大気が焦げた匂いがする。

 表面をかするだけで吹き飛ばされるバッシュの脅威をギリギリですり抜けた。

 そこは楯も剣も届かない。空白域だ。
 
 そして訪れる千載一遇の好機。俺は背中から勢いに任せて飛び込んだ。

 極限の集中により冴えわたる感覚。音すらも凍る静寂しじま



 ――奥義裏壊乱うらかいらん

 相手に背を向けて放つ零距離の打突だ。ジョシュアさんの瞬間移動の力も利用したカウンターとなった。

 鎧の鳩尾みぞおちにヒビが入り。ジョシュアさんが吹き飛んだ。

 さっきまでの集中が嘘のように急激に時間を引き戻される。腰の抜けるような疲労感。――限界は近い。

 俺は倒れたジョシュアさんに近づくと喉笛へ突きを放つ。

 勝ち判定が何かは分からないが、死に殉ずるものでなければならないだろう。

 後は運任せだが、霊薬の大量投入で命を繋いでもらうしかない。

 勝負を決めるべく打ち下ろした渾身の一撃は。



 ――ジョシュアさんの楯に阻まれた。

 朦朧とする意識を何とか繋ぎ止めている俺は、その後に続く剣の払いで簡単に身体が泳ぐ。

 その隙に逆回転のように、素早く、だが、不自然に立ち上がるジョシュアさん。そして、放たれたシールドバッシュをまともに喰らった。

 俺は血反吐をまき散らし、吹き飛び転がる。内臓をかき混ぜられたみたいだ。

 一瞬の意識混濁の後。覚醒すると視界に少年の姿が映った。

「お父様。どうしたのですか?」

 思考の飛んでいるジョシュアさんは動いている者を優先する。

「ぐっ! モルト!」

 モルトにはサシで闘うから見守ってくれるように頼んでいる。俺の叫びを察してモルトが蔦でジョシュアさんを縛った。

 だが、二度目の戒めを慣れたように逃れたジョシュアさんは、そのまま少年へと迫る。

 そして、シールドバッシュと凶刃が少年に向けて放たれた。
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