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第6章  罪咎

第43話  窮鼠

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 ジョシュアさんは『精霊さん』を放つ前と変わらぬ速度で迫りくる。

 杖術は両手の武術だ。利き手に依存しては流れるような攻撃に至れない。

 右前腕欠損の今の状態では、その術を十全に発揮できるはずもない。

 俺は既に戦闘開始の段階で、痛覚を遮断する霊薬を服用していた。だから、痛みには何とか耐えられる。

 そして、息もつかせぬ瞬撃の戦闘中に霊薬を飲むことなど出来ない。

 俺だって、相手に飲ませる隙も時間を与えない。当たり前だ。

 だったら、どうするか?



 ――備えるのだ。

 俺が奥歯の脇に忍ばせた霊薬のアンプルを噛み砕く。濃縮タイプで味は最悪だが、それにより欠損した腕が復活する。

 身体のダメージも完全復活。『増昇くん』の負荷も一反リセットの反則技だぜ。

 まぁ。その分動けなくなった時のダメージは増すんだが。。。

 復活の狡いアンプルはもう一つ左の奥に仕込んでいる。

 俺は生えたての右手を使い、直ぐに『集束くん』の乱れ打ちを始めた。――ただの時間稼ぎにしかならないが。

 そして、最後のギアを上げる。

 俺は笑顔を浮かべて『増昇くん』の制限リミット解除した。アンキーレの複楯ふくじゅんがあってもどうにか伍するのが精一杯だった。

 だったら、――踏み込むしかないだろ!

 感じない筈の幻痛が脳に走る。眼窩が重く視界が一瞬赤く染まった。

 そして、ゆっくりと流れる世界。

 迫りくるジョシュアさんを前に、俺は腰の後ろで槍杖そうじょうを構え、肩幅より少し外を握る。



 ――弧月こげつ。そう呼ばれる技だ。

 下からの払い上げと流れるように上段からの打ち下ろしへ移る、デザインされた二連撃だ。

 その軌道は美しい三日月を描きジョシュアさんへ襲い掛かった。

 ジョシュアさんは払い上げを楯で受けるが、それにより、その強力は推進力を殺すことに成功する。

 ほぼ同時に振り下ろされる上段がジョシュアさんの鎖骨を打ち抜いた。

 一撃を加えた間と呼ぶほどもない瞬間に、ジョシュアさんの剣が振り抜かれる。

 俺は、片足で踏切るルーザーウェブスターで回転してそれを避けた。

 そして、その回転を利用してもう一度鎖骨へ打撃を加える。

 空中で足場のない俺にジョシュアさんのシールドバッシュが放たれた。

 それを足裏で受け、飛ばされながら、躰を捩じることで力を逃がし距離を取った。

 無茶と無謀の重ねがけでどうにかスピードは競り勝ったようだ。

 俺は『涙煙くん』をジョシュアさんに放り投げる。

 名前の通り催涙と煙幕がその周りに漂う。息をしてもむせる極悪仕様だ。

 煙にまかれたその場所に『昏倒くん』と『電撃くん』をダースでぶち込む。

 まぁ。『集束くん』でも平気な人に効くとも思えないが、やっぱりね。

 それが当たったはずの本人が得意の瞬間移動で爆煙の中から現れた。

 俺はもう膝から力が抜けるのを感じる。少しのインターバルを欲したのは二個目のアンプルを噛み砕く為だ。

 バカの一つ覚えだが、一番自信のある技に賭けよう。
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