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第6章  罪咎

第48話  佇者

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 久しくは無かった天恵が煌めき瞬いた。

 その瞬間、聖女は悟る。その結末を。慈愛を帯びた微笑みで寂し気に微笑む。

「――納得出来る生を選べましたか?」

 ――奇跡は届いた。――微かに。

『選び取った。――すまんが、先に逝く』

 見えない筈の瞳には笑顔のジョシュア。その最愛の遺言が間違いなく聞こえた。

 青く光る目から涙が一滴ひしずく

「こちらの事は心配要りません。――安心して待っていて下さいね」

 覚悟を決めたその瞬間に、聖女は聖騎士との約束を思い返す。

「バルデラスの家名はシルビィーには継がせたくない。君のネメシオを名乗らせよう」

 聖女の真名はシェステニル・ネメシオ。職業が判明してから帝国の名門ネメシオ家へ縁組されていた。

「王国でネメシオは珍しく目立ちます。それに、バルデラス家が途切れてしましますよ」

 聖女はその来歴により姓に執着がなかった。それよりも、信念の為に命を賭す武の名門を継がせたいと願った。

「――バルデラスの名は確かに王国では珍しくないが、死にたがりが多くて縁起が悪い。特に俺の一族の血はな。シルビィーに厄が繋がらないようにしたいと思う」

 眉間に皺を深くしてそう述べるに留める。

「あの子は貴方に憧れていますから、悲しみますよ」

「それでもだ。俺も長生きは出来ないようだ。呪いが心臓まで届いている。一族のやくは俺が墓場へもってゆき断ち切るよ」

 回想を終え聖女は決意する。まだ伝えていない息子の家名を今日伝えようと。


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 エステラは超高度の上空で引き絞っていた弓を緩めた。彼女が到着したのは最終局面。少年が吹き飛んだ後だった。

 周りにはツンツクとオナイギが風魔法でホバリングしている。手を出さないように言われていたが心配してずっと見守っていた。

 二羽は彼女がノアの仲間であることを知っている。畑にも良く遊びに来ていたからだ。彼の後ろを雛鳥のようについて回っていた。

 ツンツクたちは、干渉を禁じられた自らの代わりに攻撃して欲しいと願っているのだ。促すように舞い飛んでいる。

 地上のやり取りは彼女に一語も漏らさずにタラリアが届けてくれる。

 相手は、いつかノアが恩人と嬉しそうに語っていた人物のようだ。命のやり取りの最後の攻防でこと切れる。

 命の危機を乗り越えたその姿へホッと息を吐いた。

 呆然と立ち尽くすノア。表情は無い。

(ダンナの虚無感と悲しみにあっしの心も潰されそうだ。行くぞ。オナイギ)

(はいよ)

 二羽はその心へ寄りそうべく急降下して近くの木立へ降りた。

 エステラもゆっくりと降下する。
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