農家は万能!?いえいえ。ただの器用貧乏です!

鈴浦春凪

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第6章  罪咎

第53話  始末

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 始めに感じたのは、何処か遠くでサラサラと頬を撫でる風。その後、自身を知覚し、額に感じる冷たさで、浮かび上がるように意識を取り戻した。

 その眼に飛び込んできたのはエステラ。どうやら膝枕をしてくれていた。水魔法で手を凍えさせ、額を冷やしてくれている。

 俺は上体を起こす、頭はまだ軋むほど痛く、身体は全身筋断裂でもしたかのようだ。

「すまん。――どの位の間、俺は気を失っていた?」

「――六〇分位?」

「ありがとう。少年。――シルビニオンはどうしている?」

「泣き疲れて、今は寝てる」

 見れば近くの日陰に簡易ベッドが用意してあり、タオルを掛けられたシルビニオンが横になっていた。枯れた涙の跡が色濃く残っている。

「ジョシュアさんは?」

「遺体保管用の拝像ボックスに預かった」

 あぁ。あれか魂の安寧を祈るエルフの聖者の像、亡骸を入れる為だけのアイテムだ。

 錆びついたかのように、渋い関節をなんとか動かして立ち上がる。

 近くには少年を守り力尽きたアンキーレの楯とジョシュアさんの命を奪った槍杖――今は杖に戻っている――が置かれていた。エステラが回収してくれていたのだろう。

(ダンナ。――森の奥にピーピー鳴いている狼の子供がいやしたぜ。どうしやす?)

 俺が気付いたのを感じたツンツクから連絡が入った。

(狼? 親はどうしたんだ?)

(巣に残る雰囲気から察するに、あの土地神様の子供じゃないかと思いやす)

 ツンツクの視界を借りて見てみると、眼も開いていない真っ黒でまん丸な子狼がきゅーん。きゅーんと鳴いていた。

そうか。お前も犠牲者か。放っておいたら餓死するだけだな。

(どの辺りかな? 保護したい。そっちへ行く)

(それにはお呼びやせん。アッシがそちらまで運びやす)

 そう伝えるとツンツクの風魔法で子狼を優しく包むと宙へと持ち上げた。

(ありがとう。頼むよ。――森の様子はどうだい?)

(へい。走り回っていた動物達は小康状態でやす。身を潜めてジッとしてるようでさぁ)

 混乱と興奮状態から危険を回避する身竦みに移行したか?

(ゴブリン達はどうだい?)

(へい。あいつらは森の端っこでかたまっていやす。一人だけ住処へ戻ってきたようでさぁ)

 ゴブリンの仕来り通りなら、それが長老か、一番の戦士だ。手紙はモルトに届けたてもらったが、もっと詳しい説明も必要だろう。

 覚醒後から、かけ続けたミドルヒールのお陰か、酷い倦怠感は若干薄れてきた。

 ――猛スピードで空中を移動する。黒い毬が彼方から近づいてきた。黒狼の子供だ。
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