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第6章  罪咎

第54話  保護

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 想像以上の速さで空を舞う、黒い毬――黒狼の子供――は、危なげなくこちらへとやって来た。

 犬用のミルクでちゃんと育つかな。トラの赤ん坊は二倍の濃さの猫用ミルクで育てるという。

(まんま。まんまぁ~)

 ん? 声が聞こえる。子狼の声か? 腹が減ったという直接的な感覚も伝わってきた。

 支配エリア以外では初めての感覚だった。

 黒い毬がゆっくりと地面に下ろされる。

(ありがとう。ツンツク。ご苦労様)

(ダンナ。これくらいどうってことありやせん。いつでも言って下せぇ)

 俺は仲間に恵まれて助かっているよ。オナイギはゴブリンを監視してくれていた。

 そういえば、土地神様の亡骸もあったな。黒狼も犠牲者だ。ねんごろに弔ってあげないとな。

「エステラ。済まないが奥にこの子の親が亡くなっている。亡骸を回収して来てくれないか?」

 他の獣に荒らされないように拝像での保管が必要だろう。ツンツクが敬う位の相手だからエステラの方がいい。あの大きさをツンツクが運べるか分からないしね。

「――了解」

「ありがとう。一〇時の方向だ。ツンツク。戻ったばかりで済まないが、場所のフォローを頼めるかい?」

 ピーヨロ! (がってん承知の助)

 ツンツクが先導するようにゆっくりと飛び立った。

 それをエステラが飛んでついて行く。

 ……エステラさん。それエルフの神器。タラリアじゃないの? アレ? ウェン師から貰えたの?

 俺でも見せてもらっただけなのに。神話の空飛ぶ靴がモチーフの装備だ。

 あの人基本的に女性に甘いからな。俺は自分で何とかしろってことか。

 ――ずっちぃーの!!

 息を吐き捨てて、切り替える。さて、この小さくて丸っこい”きゅーん、きゅーん”鳴いているのの対応だ。

 取り敢えず、犬用の粉ミルクを召喚する。そして開封する。パカッとな。

 直感が働くが、既に俺の勘が報せてくれているよ。それに逆らわずに、俺は味見用のスプーンを取り出してミルクを口に含んだ。

 器用な俺は食材を適切にレシピ化できる。貧乏な俺は一度口にしたものしか、その勘が働かない。

 そして、毬状態の子狼を凝視した。

 はいはい。降りてきました。いつものように、導かれるままにレシピを書き殴る。

 レシピにはこう書かれていた。虎狼のミルクレシピ。――三倍濃縮液。

 ……腹。――壊さないのかね。
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