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第6章  罪咎

第61話  継承

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 俺の殺害の告白にシェリルさんは問いかける。

「私が知る。ジョシュアは誰かに負けるような人物ではありません。今は身体を患っていましたが、それでも強く気高い英傑です。ジョシュアは貴方より弱かったのですか?」

 ――強かったです。どうしようもない位。黒狼くろおおかみにも勝つ程です。

「いえ。とんでもなく強かったです」

「それに、どのように勝ったのでしょうか?」

「――運よく心臓を刺せました」

「……運? ジョシュアが一番嫌いな言葉です。強さに運は介在しない。運が左右するのは弱いからだ。強い者は必ず勝つと言っていました。貴方は彼より強いのですか?」

「――いいえ。弱いです」

 言葉を絞り出す。俺が不甲斐ないから不幸が生まれた。ボンクラの器用貧モブ乏だ。

「――ジョシュアはを選び取ったのでしょうか?」

 凪の水面を思わせる瞳でシェリルさんが唐突にそう問いかける。

 俺は今の去来した悲しみを否定する。その権利は俺には無い。この悔恨を肯定する。それは俺が背負い続けるべきものだからだ。

 だが、シェリルさんのその言葉がジョシュアさんの遺言と重なる。

 奥歯を噛みしめて、この湧き立つ感情を磨り潰す。そして涙の権利を拒絶する。

「――自分の人生を選び取った、とっっぉ……」

 そう吐き出した。

「そうですか。――それが彼にとっては最良。人生を見取ってくれてありがとうございます」

 堪えていた感情が溢れ出す。俺は恨んで欲しいんです。憎んで欲しいんです。なじって欲しいんです。それだけの事をしたんだから。

 そこからは、促されるままに闘いの状況をポツポツと伝えた。

 ジョシュアさんが暴走していた事。手も足も出なかった事。

 そして――俺の槍杖で心臓を貫いた事。

 シルビニオンがつかえながら補足をしてゆく。

「――ジョシュアは貴方に救われたのですね。もう無理に背負いこまなくて良いのです。助けてくれてありがとうございます」

 再び、ジョシュアさんと重なる言葉。

「私達は貴方を恨みません」

 シェリルさんは最後にはっきりとそう言った。

 伝える事が終われば、亡骸を渡して家族の別れの時間だ。他人は邪魔なだけだ。

 俺は匂いさえ残さぬように、その場を後にした。


§

 ジョシュアはベッドに安置された。その顔は穏やかで微笑みさえ浮かべている。それをシェリルが見る事は出来ないが、最期に届けられた満足気な笑顔を思い出していた。

 シェリルはシルビニオンが落ち着くのを待って決めていた決意を伝える。

「シルビニオン。貴方の父親は偉大な英傑です。家名はバルデラス。義を重んじ、仁に生きてきた一族の末裔すえです。その名に恥じぬように貴方も励みなさい。少しの努力では背を見る事すら出来ませんよ」

 少年は決意の瞳で母を見返す。今際いまぎわの父から受け取った遺言。母を頼むの言葉を胸に。強くなり約束を果たす為。
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