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第6章 罪咎
第73話 罪咎
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モルトが抱きつき、信愛を伝えてくれた。
だが、俺はその大好きを奪ったんだ。これは罪だろう。だから受け入れよう。俺は罪人だ。背負う覚悟も持てと言い聞かせながら、そんなもの始めから持っていなかった。間抜けだ。
嗚咽を押し殺す。その権利を放棄するために。
何を為すんだ? 何を償うんだ? どうすれば未来を満たせる? ボンクラな頭を回せ! バカが気取るな! こういう時どうするんだ?
――――笑え!
俺は泣き笑いの顔で無理やり笑う。不幸の中でこそ笑え。悲しみの中でこそ笑え。そうしてきただろうがっ!
――ははは。滑稽だ。今の感情を持つ権利も俺には無いのに。悲しむ事は罪だ。浸ることは醜悪だ。
そうだ。――――自分を笑え。
ぐふっ! えぐっ! ぶふふ!
お前に相応しい。クソな笑いだ。手を眼に当てて、資格の無いそれを拭いとる。
そうだ。俺は悲しみに浸りたいんじゃない。罪を背負いたいんだ。納得のゆく答えを掴んだ。
俺は恩人ジョシュア殺しの咎人だ。罪は滅ぼさなければならない。その方法を考えろよ。一生かけてでも償えよ。そこに思い至り、緩やかに拘泥が解け、少しだけ心が落ち着く。
その思考を気にせず、それが心が届いた。
「きゅーん」(まぁんまま~)
――――――ミルクの時間か。
用意してある哺乳瓶で授乳を開始する。内向的な時間は現実に引き戻される。だが、こいつのお陰で助かった。俺は機械的に頭を切り替える。生きている間は命を努めなければならない。それが、生き残った者の義務だ。
いつものように腹いっぱい飯を食べて風呂入って寝よう。
――――全てはそれからだ。
ж
ノアと別れたエステラは、朗らかに平静を装う彼を心配している。出来れば自分の料理を振舞って、温かなお風呂に入れて、穏やかに寝るまで見守りたかった。だが、それの想いは拒絶された。
彼は悩み責任を抱えるのだろう、そして、きっと乗り越える。強くしなやかな人だ。数日は引き摺るかもしれないが、正しい答えを定め見据え、動き出す人。それを今、近くにいながら隣で支えられない事が少し寂しい。
(――――でも。ノアの弱さに二度寄り添えた。それは前進……)
この望んだめぐり逢いの日に、昨日のノアと自分の映り方は、ほんの少しだけ変化した。何がといえる程大きな移ろいではないかもしれない。そこに、僅かな寂しさと、更にささやかな達成感を抱く。
彼女は言い聞かせるように心の奥で唱える。少しずつ少しずつと。
宿の屋根には二羽の風颶鳥が寄り添う者の悲しみを憂い止まっていた。
だが、俺はその大好きを奪ったんだ。これは罪だろう。だから受け入れよう。俺は罪人だ。背負う覚悟も持てと言い聞かせながら、そんなもの始めから持っていなかった。間抜けだ。
嗚咽を押し殺す。その権利を放棄するために。
何を為すんだ? 何を償うんだ? どうすれば未来を満たせる? ボンクラな頭を回せ! バカが気取るな! こういう時どうするんだ?
――――笑え!
俺は泣き笑いの顔で無理やり笑う。不幸の中でこそ笑え。悲しみの中でこそ笑え。そうしてきただろうがっ!
――ははは。滑稽だ。今の感情を持つ権利も俺には無いのに。悲しむ事は罪だ。浸ることは醜悪だ。
そうだ。――――自分を笑え。
ぐふっ! えぐっ! ぶふふ!
お前に相応しい。クソな笑いだ。手を眼に当てて、資格の無いそれを拭いとる。
そうだ。俺は悲しみに浸りたいんじゃない。罪を背負いたいんだ。納得のゆく答えを掴んだ。
俺は恩人ジョシュア殺しの咎人だ。罪は滅ぼさなければならない。その方法を考えろよ。一生かけてでも償えよ。そこに思い至り、緩やかに拘泥が解け、少しだけ心が落ち着く。
その思考を気にせず、それが心が届いた。
「きゅーん」(まぁんまま~)
――――――ミルクの時間か。
用意してある哺乳瓶で授乳を開始する。内向的な時間は現実に引き戻される。だが、こいつのお陰で助かった。俺は機械的に頭を切り替える。生きている間は命を努めなければならない。それが、生き残った者の義務だ。
いつものように腹いっぱい飯を食べて風呂入って寝よう。
――――全てはそれからだ。
ж
ノアと別れたエステラは、朗らかに平静を装う彼を心配している。出来れば自分の料理を振舞って、温かなお風呂に入れて、穏やかに寝るまで見守りたかった。だが、それの想いは拒絶された。
彼は悩み責任を抱えるのだろう、そして、きっと乗り越える。強くしなやかな人だ。数日は引き摺るかもしれないが、正しい答えを定め見据え、動き出す人。それを今、近くにいながら隣で支えられない事が少し寂しい。
(――――でも。ノアの弱さに二度寄り添えた。それは前進……)
この望んだめぐり逢いの日に、昨日のノアと自分の映り方は、ほんの少しだけ変化した。何がといえる程大きな移ろいではないかもしれない。そこに、僅かな寂しさと、更にささやかな達成感を抱く。
彼女は言い聞かせるように心の奥で唱える。少しずつ少しずつと。
宿の屋根には二羽の風颶鳥が寄り添う者の悲しみを憂い止まっていた。
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