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第6章  罪咎

第77話  擬視

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 俺は、魔力の波に神経を研ぎ澄まし、その瞬間を整えた。

 シェリルさんが息を飲み、独り言を吐き出すようにそっと叫ぶ。

「――っ! 見える。眼が見えるの?」

 その様子を見つめ、俺は満足げに大きく頷いた。

「目が見えている訳ではありませんが、その額の魔道具が眼の前の景色を直接脳内に届けています。絶えず着け続ける必要が生じますが、今までよりも活動しやすくなると思います」

「母様。見えるのですか?」

 困惑と心配、そして、期待の綯い交ぜになった表情で少年が問う。

「見えるわ。シルビィ。貴方のお顔をよく見せて頂戴」

 少年は駆け寄り抱きつき母を見上げた。

「――シルビィ。大きくなって。お父様に似ているわね」

 久しぶりに見た我が子の顔だろう。ジョシュアさんの死の報告でも気丈だったシェリルさんの目から涙が零れた。一頻りして、それが落ち着くと彼女は確認してくる。

「ノアさん。この魔道具の料金はおいくらかしら。素晴らしいものですね」

「いえ。お代はいりません。以前に受けた恩の返礼です」

 そして、咎人が返すべき罪滅ぼしの一部だ。

「――そうはいきません。これ程の感謝には対価が必要です」

「その魔道具は私が発明しました。私があの日。あの時。あの場所で出会い生き延びられたのは、あなた方から受けたご恩があったからこそです。何も持たなかった私が受けた餞別に比べれば、これは何ほどの物でもありません」

 実はまだ、シェリル教には入ったままなんですよ。だから、今まで滞った寄進でもあるんです。

 どんな言葉にも俺は頑として拒否を伝えた。

 ――三日後。

 ジョシュアさんの葬儀はしめやかに執り行われた。その顔は穏やかで、笑顔さえ浮かべている。三〇〇人を超える参列者に見送られ、花で満たされた棺が墓地へ安置された。

 この街にはギルドすらないという。ダンジョンが無いから必要ないのだが、必然的に冒険者がいない。その為に狩りの腕が立ち、穏やかで気の良いジョシュアさんは荒事が起きた時に頼りにされていたそうだ。

 シェリルさんは気丈にも絶えず静謐な表情で参列者の対応をしていた。シルビニオンは子供ながらにそれを支えるように隣に立っていた。

 式も終わり一段落した後、俺は罪滅ぼしの一環として金銭の補償を提示したが、シェリルさんから強く断られていた。具体的に援助しようにも困っている事はないという。

「ノアさん。何度も言いますが、貴方が負う責任はありません。貴方の望む人生を選び取って下さい。それがジョシュアの、そして、私の願いです」

「――ですが、まだ。あの時の恩すら返せていません」
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