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第7章  獄窟

第9話  暇乞

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 俺は学習する男だ。拠点の都市に戻ったら、直ぐにギルドに顔を出した。ボチボチ河岸かしを変えるつもりな事も面倒なので、この機会に伝えておく。

「ご無沙汰しています。――早速ですがこの都市からお暇するつもりですので宜しく」

 戻った事を喜び朗らかだったギルド長が睨んでくる。

「――おいおい。何だ? 藪から棒に、前置きってもんがあんだろ? まず、彼女。――エステラを紹介してくれよ。それに、今日の明日に出て行くわけじゃないんだろ? その前に餞別がわりに何でも奢ってやる。都合を言え」

 今日も通常運転で、押しつけがましいな。まぁ。気にするだけ無駄か。

「……彼女の名はエステラです。自己紹介をお願いできるかな」

「――エステラです。あっ! これ先生からの預かり物です。遅くなってごめんなさい」

 そう言ってエステラは手紙と酒瓶を取り出した。

 ん? これは、日本酒? ここでの管理は問題があるな。日本酒は生き物だ。

「ほう! 酒か? まぁ、あいつから他の酒も届いている。これが遅くなったのも嬢ちゃん。お前がギルドに協力してくれたからだ。ありがとうよ」

 そして、手紙を読みだす。簡潔に書かれただろう手紙は、時間を要せずに直ぐに読み終わる。頬を吊り上げてニヤリと笑った。

 読み終わりを確認して、注意を勧告する。

「――日本酒はデリケートな酒です。直射日光は避けて、温度も10℃以下で保管が必須。そして、開封後は酸化が進みますので数日以内に飲み干して下さい。仕方がないのでこれを差し上げます。ここに入れて必ず保管して下さいね」

 俺は保冷の魔道具、セラーを取り出した。紫外線をカットして低温を維持する特別製だ。折角の日本酒の味が落ちたらもったいないからな。

 何しろこの酒は、次の拉致被害者へのメッセージでもある。一人じゃないぞっていうね。

「おっ! 分かった。ありがとよ」

 ……この人お礼を言うという常識があったんだね。いつも理不尽な理由で怒鳴られてばかりだったが。

 渋い顔を返されたが、ご馳走の話は丁重にお断りしてその場を後にした。
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