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第1章 〈地下世界〉編
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午後もそれといった問題もなく、その日の探索は終了した。
〈地下世界〉は地上と同じく、夜になると周囲が暗くなるようになっている。
このことから、祖先たちも元は地上で暮らしていて、何かしらの理由があって地下へと逃げ込んだのではないかと言われている。
陽の光が届かない地下では一日の感覚が狂い易いので、探索者たちには有難い仕組みだ。
翌日。視界が明るくなってきたことで目を覚ましたウォルトが、黙々と身体を起こし朝食の支度を始める。
それから朝食が仕上がる頃になると、大欠伸しながらコッタが起き出す。2人で探索をしている時の日常だ。
昨夜とは味付けを変えたスープとパンをウォルトが1杯、コッタが3杯腹に収めると、2人は地図を挟んで向かい合った。
「今日の探索は、ここから北向きに進んでみようと思う」
「おっけ~!」
ウォルトの説明にコッタの軽い返事が入り、2人は教会を後にした。
コッタが先を歩き、その後ろを3歩ほど空けて地図を持ったウォルトが続く。敵の有無を警戒するコッタに対し、ウォルトは風景から特徴あるものを観察し、地図に書き込んでいった。
そして、いよいよ未探索エリアに差し掛かる。ぱっと見、これといった違いはない。
しかし、未探索エリアには多くの怪物が残っている。怪物には個体ごとに防衛区域があるらしく、基本的には同じ場所に数体いることは少ない。
その代わり、未探索の場所にはほぼ必ず怪物が出ると考えるべきだ。
怪物の防衛区域は、およそ半径500mだと予想されている。自らの担当区域に侵入されると分かるらしく、どこへ隠れようとも探知されてしまう。
そして怪物を倒すと周囲の怪物へと情報が伝達され、その区域を包囲するように巡回を始めるのだ。
ウォルトたちが入った場所はまだ怪物が残っているはずなので、そうかからずお目にかかることになる。
「俺が出るか?」
「ううん、今回はわたしがやる! お腹いっぱい食べて、やる気まんまんだよ!」
怪物はそう弱い存在ではないが、ウォルトにもコッタにも特に緊張した様子はない。
これまでも2人で地下に潜って、怪物を相手にしたことが幾度かある。もともと腕に覚えがあるし、互いの能力も分かっているので、過剰に不安に思うことはなかった。
鼻息荒くメイスを振るコッタに苦笑したウォルトは、数歩下がって未探索の区域から出た。
そこも安全とは言えないが、区域内にいるコッタが先に怪物の相手になるようにする。
それからコッタが元気に素振りをすること数分で、10m先の角から飛び出してきた影が1つ。
全長約2m。4つ脚で歩き、全身が黒い毛で覆われている。3又に分かれた長い尻尾の先は、まるで棘のようになっていた。脚先には鋭い爪が並び、犬面の口からは大きな牙が見える。
学者によって「ハティ」という名が解明された狼型の怪物だ。
スピードタイプの怪物なので、パワータイプのコッタとは相性が悪いかに思えるがーー、
「ハティか。大丈夫そうだな」
「まっかせて~!」
ウォルトにもコッタにも変化は見られない。
狙い通り、区域内にいるコッタを先に排除しようと、ハティが俊敏に駆けてくる。それをメイスを握ったコッタが正面から対峙した。
10mの距離を瞬く間に縮めたハティが、大きな口を開きコッタに喰らいつこうとする。
コッタはその動作を予想していたのか、メイスを正面に向かって下から上へと振り抜いていた。
ハティが咄嗟に身体を捻って避けるも、コッタも振り抜いた勢いそのままに一回転し、連続でハティへと攻撃を入れた。
空中でそれ以上の回避行動も取れず、コッタのメイスは見事にハティの頭を捉える。
グシャッという潰れた音が響き、遅れて横の建物の壁にハティの身体が叩きつけられた音が響いた。地面へと落ちた身体が動く様子はない。
まさに一瞬といえる戦闘だった。
「しょーり!」
「お見事」
振り向きウォルトにピースサインをみせるコッタ。
子供のような言動に騙されやすいが、彼女は戦闘において天才であった。
本来は相手の攻撃を受け流しつつ、防御力を超えるような打撃力でダメージを与えるのがパワータイプの戦闘法だが、コッタは後の先を的確に読むことで、急所に直接ダメージを与えていく。
本人は「そのほうが簡単でしょ?」という理由から動いているが、その後の先を読む精度は馬鹿にできない。
今のハティとの戦いも、少しでもメイスを振り始めるのが遅ければ、ハティの牙が先にコッタに届いていただろう。
相手の微細な視線、身体、意識の動きから攻撃を予想する。
それを意識することなく可能とする天賦の才が、コッタにはあった。
その日は他に2つの未探索エリアを回り、ハティと2体遭遇するも、どれもコッタが瞬殺していた。
ウォルトも探索に集中でき、暗くなる前には拠点へと戻って来られる満足いく結果となった。
〈地下世界〉は地上と同じく、夜になると周囲が暗くなるようになっている。
このことから、祖先たちも元は地上で暮らしていて、何かしらの理由があって地下へと逃げ込んだのではないかと言われている。
陽の光が届かない地下では一日の感覚が狂い易いので、探索者たちには有難い仕組みだ。
翌日。視界が明るくなってきたことで目を覚ましたウォルトが、黙々と身体を起こし朝食の支度を始める。
それから朝食が仕上がる頃になると、大欠伸しながらコッタが起き出す。2人で探索をしている時の日常だ。
昨夜とは味付けを変えたスープとパンをウォルトが1杯、コッタが3杯腹に収めると、2人は地図を挟んで向かい合った。
「今日の探索は、ここから北向きに進んでみようと思う」
「おっけ~!」
ウォルトの説明にコッタの軽い返事が入り、2人は教会を後にした。
コッタが先を歩き、その後ろを3歩ほど空けて地図を持ったウォルトが続く。敵の有無を警戒するコッタに対し、ウォルトは風景から特徴あるものを観察し、地図に書き込んでいった。
そして、いよいよ未探索エリアに差し掛かる。ぱっと見、これといった違いはない。
しかし、未探索エリアには多くの怪物が残っている。怪物には個体ごとに防衛区域があるらしく、基本的には同じ場所に数体いることは少ない。
その代わり、未探索の場所にはほぼ必ず怪物が出ると考えるべきだ。
怪物の防衛区域は、およそ半径500mだと予想されている。自らの担当区域に侵入されると分かるらしく、どこへ隠れようとも探知されてしまう。
そして怪物を倒すと周囲の怪物へと情報が伝達され、その区域を包囲するように巡回を始めるのだ。
ウォルトたちが入った場所はまだ怪物が残っているはずなので、そうかからずお目にかかることになる。
「俺が出るか?」
「ううん、今回はわたしがやる! お腹いっぱい食べて、やる気まんまんだよ!」
怪物はそう弱い存在ではないが、ウォルトにもコッタにも特に緊張した様子はない。
これまでも2人で地下に潜って、怪物を相手にしたことが幾度かある。もともと腕に覚えがあるし、互いの能力も分かっているので、過剰に不安に思うことはなかった。
鼻息荒くメイスを振るコッタに苦笑したウォルトは、数歩下がって未探索の区域から出た。
そこも安全とは言えないが、区域内にいるコッタが先に怪物の相手になるようにする。
それからコッタが元気に素振りをすること数分で、10m先の角から飛び出してきた影が1つ。
全長約2m。4つ脚で歩き、全身が黒い毛で覆われている。3又に分かれた長い尻尾の先は、まるで棘のようになっていた。脚先には鋭い爪が並び、犬面の口からは大きな牙が見える。
学者によって「ハティ」という名が解明された狼型の怪物だ。
スピードタイプの怪物なので、パワータイプのコッタとは相性が悪いかに思えるがーー、
「ハティか。大丈夫そうだな」
「まっかせて~!」
ウォルトにもコッタにも変化は見られない。
狙い通り、区域内にいるコッタを先に排除しようと、ハティが俊敏に駆けてくる。それをメイスを握ったコッタが正面から対峙した。
10mの距離を瞬く間に縮めたハティが、大きな口を開きコッタに喰らいつこうとする。
コッタはその動作を予想していたのか、メイスを正面に向かって下から上へと振り抜いていた。
ハティが咄嗟に身体を捻って避けるも、コッタも振り抜いた勢いそのままに一回転し、連続でハティへと攻撃を入れた。
空中でそれ以上の回避行動も取れず、コッタのメイスは見事にハティの頭を捉える。
グシャッという潰れた音が響き、遅れて横の建物の壁にハティの身体が叩きつけられた音が響いた。地面へと落ちた身体が動く様子はない。
まさに一瞬といえる戦闘だった。
「しょーり!」
「お見事」
振り向きウォルトにピースサインをみせるコッタ。
子供のような言動に騙されやすいが、彼女は戦闘において天才であった。
本来は相手の攻撃を受け流しつつ、防御力を超えるような打撃力でダメージを与えるのがパワータイプの戦闘法だが、コッタは後の先を的確に読むことで、急所に直接ダメージを与えていく。
本人は「そのほうが簡単でしょ?」という理由から動いているが、その後の先を読む精度は馬鹿にできない。
今のハティとの戦いも、少しでもメイスを振り始めるのが遅ければ、ハティの牙が先にコッタに届いていただろう。
相手の微細な視線、身体、意識の動きから攻撃を予想する。
それを意識することなく可能とする天賦の才が、コッタにはあった。
その日は他に2つの未探索エリアを回り、ハティと2体遭遇するも、どれもコッタが瞬殺していた。
ウォルトも探索に集中でき、暗くなる前には拠点へと戻って来られる満足いく結果となった。
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