リア=リローランと黒の鷹

橙乃紅瑚

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第三章

50.白皙

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 天気の良い日だった。

 中央政府専用の寮、その高層階にある自室の窓から、ミーミスは青空と、眼下に広がる王都の景色を眺めた。一面硝子張りの窓からは、王都の美しい街並みを一望できる。国外で危険な任務に就き続けるミーミスにとって、この王都に戻ってくるのは十年ぶりのことだった。冬は終わり、やがて春が訪れようとしている。今年こそ、王都の桜の大樹が見事な花の雨を降らせるところを見ることが出来るだろうか、と彼女は考えた。

 ミーミスは踵を返し、象牙で作られた白く美しいベッドに近づいた。ミーミスお気に入りのベッドには、今はゼルドリックが寝かされている。柔らかなベッドに沈み込み、掠れた息を吐き続けるゼルドリック。目を覚ますことのない彼を見て、ミーミスは労るように、そっと痩せこけた彼の頬を摩った。

 硝子張りの窓から射す陽光が、ゼルドリックの落ち窪んだ目、こけた頬を照らす。明るい陽光の下でまじまじとそれらを見るとなお痛ましさが際立つようで、ミーミスは思わず目を逸らした。

「久しぶりに王都に戻ってみれば、まさかこんなことになっているとはね」

 大魔導師ミーミス=オルフィアン。
 八百年の時を生きる白皙のエルフ。

 この国に於いて最高位の魔力を持つエルフのひとりである彼女は、かつてオリヴァーやゼルドリックの師であった。すらりとした身体にゆったりとした白いローブを纏い、銀糸の如き美しく長い髪を持つ神秘的な容貌のエルフ。彼女は膨大な魔力を以てこの国全体に守護結界を張り続けている、美しくも強大な力を持つエルフだった。

「教え子の痛ましい姿を見るのは辛い。もっと早く来れていたら、君を死なせかけることはなかったものを……」

 ミーミスは溜息を吐いた。

 聡明な教え子であるオリヴァーは、ゼルドリックに正面切って対抗出来るのは大魔術師だけであると判断したらしい。国外で任務に就くミーミスに、オリヴァーやレントから頼りが届き始めたのは数ヶ月ほど前のことだった。

 ゼルドリックが女へ強く執着し、その結果殺めてしまう未来視を得たとレントから頼りを貰った時、ミーミスは嫌な予感がした。今すぐにでも王都に帰りたかったが過酷な任務がそれを許さず、遮蔽魔術の施されたタリスマンを渡すことが精一杯だった。

 扉が四回叩かれる。礼儀正しいが些か強い叩き方に、ミーミスは苦笑を漏らした。

「入っていいよ」

 承諾した途端、扉が勢いよく開かれつかつかとオリヴァーが入ってきた。

「ミーミス様! おはようございます!」

「はい、おはよう。元気だね」

 ミーミスは勢いの良いオリヴァーに片手を上げ挨拶をした。

「髪と肌がつやつやじゃないか。顔色も随分と良くなった。調子は戻ったかい?」

「はい! ミーミス様のお陰でございます!」

「別に畏まらなくて良いよ。楽にしてくれ」

「はい、先生! それではいつも通りに!」

 オリヴァーは部屋全体に響く程の大きな声ではきはきと喋った。

「オリヴァー。君はいつも声が大きいね、良いことだ」

「褒めていただき光栄です!」

「だがここには治療が必要な者がいるからね。もう少し声を抑えてくれると有り難い」

 ぴくり、とオリヴァーの白く長い耳が動いた。

「治療? 重罪者にあなた手ずから治療とは。逃亡生活で疲弊していたとしても、ゼルドリックがやったことを考えればすぐさま独房行きでしょうに! なぜ奴をこのような立派な部屋で保護しているのですか!」

「重罪者でも、ゼルドリックは可愛い教え子だからね」

「相変わらず先生はお優しい! 重罪者に、教え子だからという理由で慈悲を与えるとは!」

「ゼルドリックの身体を見れば、独房に入れられない理由が分かるよ。ついておいで」

 ミーミスは寝台へオリヴァーを誘い、そしてゼルドリックの上に掛かっている毛布を取り去った。

「……っ! これ、は……」

 オリヴァーは息を飲んだ。筋骨隆々で逞しかった身体は骨が浮き出るほど痩せこけ、そして黒い肌を覆い隠すほどに包帯が巻かれている。酷く落ち窪んだ目は死を思わせた。こけた顔に、かつての野性的な面影は一切ない。

「ゼル……ドリック……貴様、どうしてしまったのだ……?」

 包帯からは絶えず血が滲み出ている。強健なエルフが持つ自然治癒力が、ゼルドリックからすっかり失われているようだった。そして触れるものを威圧する、特徴的な黒い靄のような魔力が今の彼からは一切感じられない。オリヴァーは一つの可能性に行き当たり、衝撃に唇を噛み締めた。

「貴様、魔力を使い果たしたのか!?」

 魔力を使い果たしたエルフには死が待っている。大きな声に反応を示すことなく、掠れた息を吐き続ける好敵手の姿に、オリヴァーは震える手を伸ばした。胸元にある膨大な魔力が渦巻いていた彼の魔力の器は、すっかり空になっていた。

「っ……」

 ぐらりと傾いたオリヴァーの大きな身体を、ミーミスが力強く支えた。

「ゼルドリックに治療を施す必要がある理由を分かってくれたかい、オリヴァー」

「……はい、先生」

「放っておけば死ぬような男を劣悪な環境になど送り出せない。私が治療し続けているにもかかわらず、ゼルドリックは五日も目を覚まさない。魔力が枯渇すればエルフは死ぬ。そんな当たり前のことはゼルドリックも解っているだろうに、随分な無茶をしたものだ……」

「………」

 ミーミスは衝撃に目を潤ませるオリヴァーの手を取り椅子に座らせた。そして自身も腰掛け、低く透き通った声で話し始めた。

「オリヴァー。ゼルドリックは既に、独房行きを免れている」

「……どういうことですか?」

「中央政府の中で罪を犯した者がいる場合、上層部の『円卓』がその刑罰を決めることになるけれど、彼らはゼルドリックに刑罰を与えることを渋ってね。ゼルドリックは今までに彼らの尻拭いを随分としてやったみたいじゃないか。諜報、暗殺。薄暗い仕事を引き受け続けてきた彼は、円卓にとって余程大事な存在らしい。寧ろ、女一人でゼルドリックの機嫌が取れるのならば、リア=リローランをくれてやれとまで言われたよ」

 正義感の強いオリヴァーが、ぎり、と奥歯を噛み締めるのをミーミスは見た。

「全く、上層部がこれでは、中央政府が汚職に塗れるのも当然ですね……。ですが、ゼルドリックは随分と罪を犯しました。公文書偽造、任務外での魔法の使用、魔力の過剰滲出、他者への精神操作、死霊術の使用、監禁罪。細かい罪を数えればもっとある。上層部がいくら贔屓しようとも、放免という訳にはいかないでしょう?」

 オリヴァーが尋ねると、ミーミスは静かに頷いた。

「そうだね。如何なる理由があるにしろ、ゼルドリックが行ったことは罪に他ならない。そう伝えたところ、師であった私が、彼に適当な罰を与えることになった」

「先生が、奴に罰を下すと?」

「うん。円卓はゼルドリックの犯した罪に興味はない。私が下す罰にも興味はない。上層部はゼルドリックの様子を確認することもなく、私に再び使えるようにしておけとだけ言い放った。彼らはただ自分達の駒が、今まで通りに動かせるかどうかのみ気にしている」

 ミーミスは手を組み、深く息を吐いた。

「円卓の大事な駒、私の大切な教え子。だがどんな存在であろうとも、罪を犯したのであれば罰は当然与えられるべきだ。ゼルドリックは、唾棄すべき罪を犯した。自分の魔力をよからぬことに使い、女を強姦し、その魂を穢した」

「…………」

「私が多種族差別解消法の制定に、どれだけ労力をかけたかゼルドリックが知らない訳がない。ある種族が、他種族を一方的に支配したり危害を加えることのないようにと、規範を説き種族の違いなく皆が平等に暮らす為の法律……」

「エルフが驕り、他の種族に戦を仕掛けることのないように。人間が驕り、オークや妖精族を支配することのないように。戦に飽いた私がその法を定めたのだ。ゼルドリックは、私の理念に共感してくれる一人だと思っていた」

 透き通った師の声には悲しみが込められている。オリヴァーはミーミスの横顔を見て、眉を下げた。

「法に照らし合わせれば、エルフがその強い力を以て、魔力を持たない種族を支配するなどあってはならないことだ。ゼルドリックはそれを充分解っているだろうに。それなのになぜ間違いを犯したのか? 優秀で真面目なエルフである彼が、なぜ守るべき者を害したのか聞きたかった」

 ミーミスは椅子から立ち上がり、ゼルドリックが眠る寝台に腰掛けた。そして彼の胸に手を当て、その鼓動を探るように摩った。

「ゼルドリックからはまだ話を聞けていない。だが私は、彼が凶行に走った理由を掴んだ」

「理由……?」

 オリヴァーが首を傾げると、ミーミスはゼルドリックの胸に手を入れた。彼の胸が光り、ミーミスの白魚のような指を受け容れていく。そしてミーミスは、ゼルドリックの胸から一輪の青い薔薇を取り出した。

 綺羅びやかな粒子が舞う、見る者を虜にするような美しい薔薇。オリヴァーはその薔薇の美しさに、思わずほうと息を吐いた。

 薔薇は美しいが咲いてはいなかった。綻ぶことのない固いつぼみが、オリヴァーに違和感を抱かせた。魔力探知に優れる彼は、薔薇のつぼみに何らかの複雑な魔法が施されていることを見抜いた。

「怖ろしく複雑な魔法式が施されているようですが。そのつぼみのままの薔薇が一体何だと言うのです?」

 オリヴァーが問うと、ミーミスは薔薇をそっと指でなぞった。

「年若い君が知らないのも無理はない。これは古の時代に構築され、その性質からやがて禁呪指定された魔法『契りの薔薇』だ」

「禁呪っ……!?」

 おどろおどろしいその響きにオリヴァーは声を上げた。

「かつてエルフ同士が婚姻を結ぶ上で、この契りの薔薇をお互いに贈り合う習慣があった」

 ミーミスは光る粒子を纏う青い薔薇をじっと見つめ、静かな声で続けた。

「『契りの薔薇』は愛の魔法だ。心の底から愛する者がいれば、一生に一度だけ自分の胸から創り出せる。この薔薇には、受け取った相手の魂を自分に縛り付ける魔術が込められている。相手が薔薇を受け取り、心からの愛の言葉を贈り主に捧げた時、薔薇は咲き、つぼみに込められた魔法が発動する」

(ゼルドリックは、綿毛女を心から愛していたというのか……)

 オリヴァーは密かに悔恨の込もった息を吐いた。
 自分がリアに言った「ゼルドリックを突き放せ」という言葉が、リアとゼルドリック双方を深く傷付けてしまったのだと思った。

 ミーミスの細く長い指が、薔薇の形を確かめるように動く。

「相手の魂を自分に縛り付けるとは、恋情も貞操も、全てを自分に捧げさせるということ。ずっと二人は共に在り続ける。かつてのエルフは不変の愛を求めて、この魔法を用いて相手の何もかもを得ようとした」

「……怖ろしい、魔法ですね」

 オリヴァーは苦い顔で呟いた。

「愛とは、恋情とは怖ろしい……。魔法を使って、相手を支配しようとするなんて……。私には理解ができない」

 銀糸を揺らし、ミーミスは困惑するオリヴァーに向かって微笑んだ。

「そう思うかい? 我々エルフは一生に一度恋愛感情を抱くか抱かないかという種だ。何千年も、何万年も生きる中でふと誰かを愛してしまったのなら、その感情は重いものになるとは思わないかい」

 オリヴァーの若草色のおかっぱ頭が優しく撫でられる。

「年若きオリヴァー。君も将来、この薔薇を創り出したくなる時が来るかもしれないよ。誰かを愛して、そしてその感情の重さに戸惑う時が来るかもしれない」

 師の紫水晶の如き猫目にじっと見つめられ、オリヴァーは顔を逸らし緩やかに首を振った。

「話を続けよう。この薔薇に込められているのは、相手の魂を縛り付けるほどの強い魔法だ。それだけ、薔薇を創り出す代償は大きい。代償は、魂だ。この薔薇は自分の魂を削って創り出す」

「魂……」

 青く輝くそれに、オリヴァーはゼルドリックの青い瞳を見出した。

「この薔薇は、ゼルドリックの魂そのもの。そしてリア=リローランへの恋情の結晶だよ」

 ミーミスは青い薔薇を労るように一撫でし、ゼルドリックの胸へそれを戻した。

「さて……。『契りの薔薇』が禁呪指定となった理由を話そうか」

 ミーミスは椅子に深く腰掛けた。

「薔薇は魂そのものだと言ったね。せっかく創り上げた契りの薔薇を相手に受け取ってもらえなかったり、傷付けられた場合、創り出した者の魂がひび割れる。肉体と精神に、回復困難な大きな損傷が発生する」

(……まさか)

 オリヴァーは寝台の上の、傷付き血を流すゼルドリックを見た。

(奴は、綿毛女に薔薇を渡そうとして……?)

「かつて、この薔薇を巡って不幸が起きたのだよ。愛する者へ契りの薔薇を渡したが、相手が受け取らなかった場合に、発狂したり自らの命を絶つ者が現れた。あるいは、自分の愛を受け容れぬ相手を殺す者もいた。中には相手の精神を操り、無理やり薔薇を花開かせようとした者もいた。だが契りの薔薇は、相手の心からの同意と愛がなければ決して咲くことはない。綻ばぬ薔薇を前に、幾人ものエルフが狂っていった」

 潤んだ目でゼルドリックを見るオリヴァーの頭をまた撫で、ミーミスは更に続けた。

「純粋な恋情であった筈が、相手を顧みない狂愛へと変わってしまう。それはとても怖ろしいことだ。愛のために、同族同士で凄まじい殺し合いが起きた。そうして、やがてこの薔薇を創り出すことは禁じられた」

「ゼルドリックが、この『契りの薔薇』を知っていたとは思わなかった。だが、彼は書痴だからね。おおかた古書を読み、禁呪の存在を知り……深く愛するリアと契ろうと考えたのだろう。ゼルドリックは真面目な子だった。エルフという種に対し一等誇りを抱いているように見えた。番には同族を選ぶような気がしていたが……まさか、ハーフドワーフ相手に深い愛を注ぐようになるとは。想像が出来なかったよ」

 ミーミスは眉を下げた。

「オリヴァー。ゼルドリックが凶行に走ったのは、リアがこの薔薇を受け取らなかったことが理由だと思う。それゆえ、リアをあそこまで傷付け、そして己も死にかけた」

 荒く掠れた息がゼルドリックから聞こえる。死に近づいているようなその呼吸に、オリヴァーは堪らず唇を噛み締めた。

「っ……!」

 オリヴァーは縋るように師を見つめた。

「先生! ゼルドリックは重罪人です。許されるべきではありません」

「うん」

「ですが、先生が教え子を大事に思うように、私も……奴を大事に思っています。ゼルドリックは気に入らない奴ですが、教育課程から共に育ってきた仲間です。奴を死なせたくはありません、生きて罪を償ってほしい!」

「……うん」

「先生は仰いました、薔薇はゼルドリックの魂そのものだと。相手が受け取らなかった場合、肉体と精神に回復困難な損傷が発生するのだと。ゼルドリックは、助かるのですか……?」

「……」

「先生が、先生ほどのお方がっ……! 治療を施し続けても、五日も目を覚まさず傷さえ塞がらない!奴は、このままでは……」

「死ぬだろうね」

 ミーミスは目を瞑り、頷いた。

「私はゼルドリックを牢より連れ出してから治癒の魔法を施し続けた。それでも傷が全く塞がらないんだ。自然治癒力が彼からすっかり失われている。魔力の器が満ちることもない。ゼルドリックの肉体と精神が、生きることを拒否しているように思えた」

「そんな……奴を助ける手はないのですかっ!?」

「オリヴァー。ゼルドリックには、私が罰を与えることになったのだと言ったね。その罰によって、彼の命を助けることはできるだろう」

 教え子の揺れる緑色の瞳を見つめ、ミーミスは哀しい顔をした。

「ゼルドリックの中には、リアへの深い愛や執着心……。そして、薔薇を受け取ってもらえなかったことに対する、深い悲しみや憎しみが渦巻いている筈だ。それがゼルドリックの目覚めを阻んでいる」

「彼の中から、その感情を消す。彼女にかかわる記憶や感情を、ゼルドリック自身も探ることが出来ない心の奥底へ封じてしまう……。リアに関する一切を消し、認識できなくしてしまえば、彼はもう執着に狂うことはない。リアを思い出し、心を傷付けることもない。あの薔薇を誰に捧げようとしたか忘れてしまえば、ゼルドリックは救われる」

「……それ、は」

 オリヴァーの脳裏に、リアとゼルドリックの姿が過ぎる。仲が良さそうに身を寄せ合って大通りを歩く二人の姿を思い出す。

 リアへと向けるゼルドリックの笑顔は、甘く優しかった。心から満ち足りた、幸せそうな顔をしていた。

(ゼルドリックにとって、それほど残酷なことはないのでは……。どんなに傷付いても、薔薇を受け取られることがなくても……。綿毛女を忘れるなどという選択肢を、奴は選ばないのではないか?)

(綿毛女は、確かにゼルドリックの心の支えであったのだから。それを忘れてしまったら、ゼルドリックはどうなる?)

 黙りこくったオリヴァーに、ミーミスは沈んだ声を掛けた。

「リアを深く愛するゼルドリックにとって、それは何よりも残酷な罰になるだろう。だがそれは、同時に彼への救いにもなる。オリヴァー、解ってくれ。リアへの愛を暗闇へ葬っても、私はゼルドリックに生きてほしいのだ」

「…………」

「私はゼルドリックの記憶に干渉し、変則的な遮蔽魔術を施す。リアに関する記憶を彼の意識から覆い隠し、二度とリアのことを思い出せないようにする。そして、リア=リローランという存在を知覚、認識できないように、念入りに幻惑魔術も施す……」

「……上手く、いきますか?」

「元通りとはいかないだろう。記憶障害や精神錯乱を起こす可能性は高いし、数ヶ月から数年に渡ってリハビリが必要だ。それでも、私はそれを選ぶよ。禁呪に手を出したゼルドリックを救うには、このような残酷な方法しか残されていないから」

 オリヴァーは目を瞑った。そして、心の中でリアとゼルドリックに深く詫びた。

 ――ゼルのことを愛しているのです。心から愛しているのです。

 焼き付いたリアの泣き顔が、どうしようもなく苦しい。

(奴を愛しているのだと涙ながらに訴えた綿毛女に、ゼルドリックを突き放せと言ったのは……私だ。聞き分けの良いあのハーフドワーフは、私の忠告通りに奴を突き放したのだろう。それが仇となった)

(もっと別のやり方があったかもしれない。ゼルドリックと綿毛女を救う方法が……私は……)

「……オリヴァー、心優しき教え子よ。君は考え事をしているね」

 白魚の指が、オリヴァーの頬を摩った。

「いいかい。君の所為ではない」

 ミーミスはきっぱりと言い切った。

「君を始め、レント、メルロー、そしてアンジェロの介入がなければ、ゼルドリックもリアも死んでいた。こうなってしまったけれど、それでもまだ二人は生きている。君が、彼らの命を救ったのだ」

「っ……」

 緑色の瞳からぽろりと落ちた涙を、ミーミスは指で優しく拭った。

「オリヴァー。手を貸してくれるかい」

 オリヴァーは涙を拭い頷いた。ミーミスは優しく微笑み、オリヴァーの手を取って寝台へ誘った。

「……さあ、始めようか」

 そして二人のエルフは意識のないゼルドリックに魔法を施し始めた。彼の中から、リア=リローランを消し去るために。
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