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第四章 リュータ、定住する

第四十六話 リュータと隣国の使者とお祭り

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 俺は髪を洗いながら、一緒に風呂に入っている人物たちに語りかけた。

「馬が牛を育ってるって、どうよ?」
「あーん? そりゃケンタウルスと言えば放牧のプロフェッショナルだぞ。まさに打ってつけだろ?」
「リュータはその常識の無さを早く改めろ。手遅れになっても知らんぞ」

 ガルフとウィルが俺に対して厳しいッ。

「いい湯だっナ! とくラァ!」

 そして超ご機嫌のスレーブワンこと、ワン君。最近は犬役がハマり役でとても嬉しそうです。彼、明らかにマゾです。あ、石鹸が目に、目にぃぃぃ!!

「ワン公、アンタからも何か言ってやってくれよ」
「アン? 何言ってんだ。そいつァ非常識さがウリだろ?」
「ちがわい!! ぐわああ! 目が、目があああ!」

 失礼な! 俺のどこが非常識なんだよ! あと誰かお湯をくれ!

「テメー、自覚ねーのかよ! 『生活魔法』で魔獣退治すんの、テメーくらいだろが! なんでもっとド派手な技を使わねーんだよ!!」
「使ってるだろ! 『金剛棍』とか『百烈棍』とか! あとお湯くれぇぇぇ」
「ああ、あの無駄にピカピカ光るゆっくりした技か。ほれ、どうだ?」
「百烈と言いながら、実際は三度しか殴らない技か。名前負けにも程度があろうに」

 うわーん! 町民がいじめるよー!! あとガルフ、ありがとう!!

 ちなみにジョンソンさん家のステファンさんは、無事にご出産なされました。元気な男の子です。しかし名前をリュータにしようとしたので止めた。全力で止めた。
 その代わり俺のを取って、スクリュウと相成った。命名は勇者ミチルさん。

 いや、なんで俺の名前から取ってんだよ!?
 しかもスクリューって、回る気かよ!!

 なお、出産祝いには幸運を呼ぶとこちらでは言われている、ゴブリンの中指爪を危なくないように『生活魔法』の『研磨』で丸くしてからプレゼントしました。なお、この爪はこの辺では激レアアイテムだそうです。『収納室』で「ゴブリンの中指爪×791」になっているのは、秘密にした方がいいかもしれない。
 どんだけゴブリン狩ってたんだ、俺・・・。


***

「ザルツベルクからの使者?」
「ええ、相手はそのように仰られておりますが、いかがいたしましょうか」

 早朝、畑を耕していた俺の元に町役場からの人が来て、このように言ってきております。
 どうにもケンタウルスが草原からいなくなって、北の国ザルツベルクの人間がそこら界隈をウロウロしていたようで、ついにその国からの使者がウチにまで来たようです。
 なんでも、国民がこの町に逃げ込んでいるのではないか、との話。
 と、言われてもなぁ。割と来るもの拒まずだし、実際にザルツベルクからの人もチラホラ見かけるんだよね。人口もすでに千人超えそうだし、そろそろ街って規模になるんだけど・・・。

 ちなみにこの町、見た目は未だに五百人規模の時と変わらないです。その時点でもかなり大きな町だが、この町にはドワーフ謹製の地下街があるので、見た目よりもはるかに広い。一応地下は最大三階までの制限と、必ず都市計画書を出して、許可を得てから開発するようにと念押ししてあるので、今は地下一階部分までしか作られていない。まぁ、それもじきの問題だと思うね。下へ降りる階段の計画書や、中央を通る大通りの申請はすでに受理してあるし。

「ひとまず、領地全体の問題になるからオーリム王子に連絡して、その使者殿は町役場でおもてなしをするのが筋かなぁ」
「オモテナシ?」

 どうやらこの世界にオモテナシの概念はない模様。へー、そうなんだ。

「ふっふっふ、いいことを思いついたぞ」
「え? 何をなさるおつもりで?」
「それはね、オモテナシだよジェームズ君!」

 ジェームズ君18歳、既婚、二児の父は驚いた表情で背後にいたミントさんに目配せをするが、ミントさんは見向きもしなかった。そりゃ全面的に俺の味方であるミントさんが俺を止めるはずないでしょ。

「最近町のみんなが「仕事しろ」って、冷たいんだ。こうなりゃヤケだよ。徹底的にオシゴト、してやんよ!!」

 さぁ、一大エンターテインメントの始まりだ!!


***

 まず手始めに料理、酒。これらは外せない。
 現在ウチの調理担当は、獣人の方々である。俺が考案した地下一階の隠れ宿的なレストランが大盛況で、このためにこの町に来る人も少なくないほど。探し回って見つけるのもまた楽しいそうだ。
 と言う訳で、そのお店に町役場に来ている使者の方の為の料理を出前で頼んだ。ついでに近隣の食堂にも出店を頼んだが、快く了承された。

 次に娯楽。ドワーフの方々が日夜怪しげな魔道具をウィルと共に作っているが、お披露目の機会がないと嘆いていたのを思い出したので、利用する。危険な物は除外して、派手なだけの見せかけアイテムを多数用意させる。彼らも非常に乗り気だった。

 最後に、やはり女性。この世界では美人ばかりでより取り見取りだが、そんな中でも美を商売とする女性はそれなりにいる。お触り厳禁だが、お酌をされるだけでも幸せな気分になれると、高額な料金でもお支払いいただけちゃうほどの逸材ばかり。主にお貴族様向けのお店だが、今日はちょっと使者の方のお相手をしてもらう。当然お触り厳禁なので、彼女らの護衛にダークエルフの方を二名ほど拝借する。彼女らも美しいので、使者の方はお喜びになるはずだ。


「ニッシッシ。これでいいな。さて、後は町に告知でもしとくか」

 もしかすると使者の方々が真面目すぎたり、食事以外は王子に止められる恐れもある。だからあくまで祭りと言う態を取って誤魔化すのだ。
 我ながら悪どいものよ、ひえっひえっひえっ。

「リュータの悪い顔も、悪くないわ」

 え、それどっち? どっちの意味?

「俺の顔、そんなに変?」
「変ね。でもかわいいわ」

 ワーイ、って、その生暖かな目で見守る姉ポジション的な態度は何!?
 とにかくミントさんは俺の味方なので、気にせず俺は策を弄する。祭りと言えば、太鼓、盆踊り、花火、山車かお神輿、料理、酒、ハッピ、浴衣、ひと夏のアバンチュール・・・。

「お神輿はさすがに今からじゃ・・・、いや、待てよ?」

 ウィルたちの発明品の中に、面白そうなのがあった気がする。


***

「祭りじゃああああああああ!!」

 うおおおおおおおおお!!

 と言う訳で始まりました、祭り。
 想像を絶する規模です。マジで。どこかの千葉にあるネズミ王国かと思うほどの人だかりに、大量の出店の数々。どうにも俺が日夜「こんなのあったらなぁ」と言う呟きをみんなが気に留めてくれていて、いつかお披露目の機会があるかと密かに作っていたそうだ。全部俺の為だって言うのがまた、泣ける。

 ならばそう。みんなの声に応えるためにも、今日は思いっきり盛り上がらなければならない。

「と、言う訳です」

 しかし俺の現在のスタイルは、正座。
 何故かと言うと、この通りです。

「やりすぎじゃのぉ」
「誰か止めなかったのかよ!!」
「父上の許可が下りていると思ったのだが、リュータが主導だったとは盲点であった」
「オイラの苦労が・・・、ハ、ハハハ」

 いやほんと、申し訳ないっす!
 まさかここまで町民がはっちゃけるとは思いませんでした。
 幸いにもみんな自主的に巡回やらゴミ掃除やらをしてくれているので大きな問題にはなっていないが、次にする時はもっとちゃんと根回ししとかないといけない。

「そう言えば、獣人やドワーフはお祭り好きだったんだっけ。てへぺろー」

「全然反省しとらんのぉ」
「リュータは臆病なクセに後先考えなさすぎだろ! それでよく第6級ハンターだなんて名乗れるな!」
「いやしかし、今まで見た事のない物も数多く見られる。これは職人たちにとっては是非もない機会であろう」
「だろ? だから次は技術発表会とか、博覧会とかしたいなーって・・・」
「だからと言ってこれは酷いぞ。父上も仰天しておったわ。幸いにも事後承諾で許可は下りたが、次はないとの勧告も受けたぞ」

 うん、はい、そうですね。思い付きでいきなりやるなって事ですよね。
 ちなみに唯一の俺の味方だったミントさんは町の警備に出ていて、この場にはおりません。

「これはキツーい仕置きが必要じゃのぉ」
「え? な、なんでシルちゃんは両手をワキワキとさせているの!?」
「あ、私も手伝いますよ」

 ミチルさんも手をワキワキとしていますね。この二人がタッグを組んだら、この世に勝てる人間いないでしょ。
 うん、二人して俺の脇を捕まえて、何をする気かな?
 そのまま引きずるの。そう、そうなの。

「ドナドナドーナーっとくらぁ! 俺様ぁ、ちょいと町に繰り出してくるからナァ!!」
「お、いいな。俺も行くぞ。おいジョンソン! 今日くらいは付き合え!」
「オイラが頑張って作った秩序が・・・」
「リュータと付き合うならこの程度、慣れろって事だろ! ほれ、行くぞ!」

 そして俺はドナドナされていく。

 あーれー・・・。


 ちなみに使者の方々は、使者と言うよりはただの村人っぽい人たちだったらしい。恐縮しきりで帰って行ったそうな。
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