最強魔法は生活魔法!? ~異世界ではモンスター退治も生活のうち~

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第六章 リュータと神と勇者の秘密

第六十九話 ツンがデレたらダンジョン攻略

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 シルちゃんたちの近くで『収納室』から出した自前の毛布に包まって、今度こそ普通に寝た俺は、朝食の時間に起こされた。
 昨日とは異なり、睡眠不足と言う感もない。実にすっきりだ。良い夢も見た。

 そして、下半身に違和感。

 毛布をめくる。

「アウト・・・。『消臭』と、『芳香剤:ラベンダー』」
「何がアウトなのじゃ?」

 おっと、マイフェアレディ。朝の男の下半身を覗き見るのはノーマナーだぜ?
 ああ、それと何がアウトで、何の為に魔法を使ったか、聞くのも想像するのもアウトだぜ?

「ごめん。ちょっと俺トイレ」
「ではその間に皆を起こしてくるのじゃ。ゆっくり致すがよいぞ」

 察しているのか察していないのか。
 いや、まったく察していないのだろうなぁ。何せエルフの里では「子供はキスしたら出来る」なんて教えられてた子なんだし・・・。

 まぁ、おしっこ行きたかったのは事実だし、皆が起きてくる前に諸々を洗って身綺麗にしてしまおう。

 なんてちょっとしたトラブるはあったものの、その後は順調に進み、おいしい朝食を食べた後は軽いミーティングとなった。
 そしてそのタイミングで、俺は夜にシルちゃんミチルさんと話した内容を、残る三人に伝えた。

「貴様の『生活魔法』はどこででも使えるのではなかったのか?」

 俺が疑問に思ったものの一つ、密林で『生活魔法』が使えたことに対するウィルの疑問に、俺は仮説で答える。

「それが、自分に直接関わるものに対してはほとんど使えるんだけど、生活に関わらない相手が絡むとダメみたいなんだ。生活感が薄い所だと、失敗しやすいかな」
「ふむ。つまり、火を起こしたり消臭したりは可能でも、『方位』で位置を探るのは地脈から情報を読み取り、先に使った『せん定』も相手を伐採するもの。よって、生活圏外である密林では本来機能しないはずであると? 実に興味深い話よな」

 そう、その通りです。アンリエット様、頭いい。

 ちなみにベースキャンプにしているここから離れすぎると『せん定』も『除草剤』も不発する。
 だからこそ、どうしてあのローパー周辺で『せん定』が使えたのかが謎だが、情報が少ないので話し合っても結局分からなかった。

「あのグランドテラートータスぶっ潰すくれーだから最強だと思ってたが、やっぱツエー魔法にはなにかしらの制約があんだナァ」
「ん? あれは真紅さんが手伝ってくれたからね。それに、俺自身は勇者ほど強くはないし、最強とは違う気がするよ。その制約に引っかかってるから『お手伝いさん』である『レッドキャップ』たちは全く呼べないし、最強は大げさすぎない?」
「防御無視の大火力なんざ最強以外に表現できネーっつーの。間違いなくテメーの規格外な『生活魔法』は最強ダロ。そもそもどうやって『生活魔法 Lv10』なんて取るンダ」

 なお、『レッドキャップ』たちが先のクマ魔人戦で呼べたのは、あそこがシルちゃんの家だったから。
 多分、『生活魔法』の中にも制約にランクがあって、威力が高いものほど拠点の近くでしか使えない。
 しかし、魔人でさえ簡単に倒せる『レッドキャップ』だけは、間違いなく最強だろうねぇ。

「リュータは己の規格外っぷりを理解していないからな。普通『生活魔法』にはレベルと言う概念なぞない。これは街の神官に確認を取っているので間違いない」
「勇者には勇者専用スキルもあると聞く。ならば使徒専用スキルもあり、それが高レベルの『生活魔法』やもしれんな。のぅ、リュータ殿よ。無事に帰った暁には、我が魔戦部隊に来ぬか? 幹部待遇で歓迎するぞ」
「いえ、結構です」

 みんなが取得できない高レベルの『生活魔法』についての話から、何故か俺へのスカウトになってしまい、慌てて首を横に振った。

 さすが常日頃から人材不足で悩んでいるらしい魔戦部隊の隊長を務めるだけの事はある。
 油断も隙も無い。

 しかし、さも残念ですと言った感じで肩を竦めているが、昨夜の話を考えるとこれらは演技なのだろう。
 そう思ってみてみれば、なるほど確かにそうだと思うくらい淡白な反応だった。

 そして、そのアンリエット様の様子に、ほんのわずかに眉を寄せているワン君。

「魔戦隊長殿。リュータは我が領地の男爵であり、領地持ちだ。勝手にスカウトされては困る」
「本人に断られたのだ。何の問題もあるまい」
「そう言う問題ではない! オバ上!!」

 飄々とした態度でウィルをからかうアンリエット様だが、本当によく見ればウィルも明らかに演技だ。


 何が一体原因で、ワン君の眉にシワを作り、ウィルがこうやって演技する事態になっているのだろうか。

 なんて考えていたら、ワン君の小さな呟きが耳に届いた。

「アイツ、まだ本心隠してやがんのか・・・」

 天の啓示か、悪魔の差配か。

 この呟きの意味が分かるのは、このダンジョンを攻略してからになるのだった。


***

「おい、ババァ! テメェが触手に絡まれてる姿なんざ気持ち悪くて見れねえんだヨ!!」
「ふん、貴様こそどこを見ている? 勇者のクセに相変わらず抜けた男よ」

 あれから俺たちはもう一つの仮説を証明するために、ローパーの元を再び訪れていた。

 それは、ローパーは、実はローパーではないのではないか、と言う大胆な仮説だ。

 そもそもあの触手をローパーだと言ったのはアンリエット様で、それも見た目と植生からそうだと考えただけだった。
 つまり

「今だリュータ! 『鑑定』を!!」
「了解だ、ウィル!」

 みんなが襲い掛かる触手を弾き、いなしながら時間を稼いでくれている間に、『鑑定』だ!!

 バリア(変異)
 -ダンジョンコアの防御魔法。呪いに近い性質を持ち、物理だけでなく魔法も受け付けない。変異しており近づくものに対して形状を変化させて対応している。※ローパーではない。


 ご丁寧にも鑑定を司る神様が「※ローパーではない。」と仰って下さっている。

「オー、マイ、ガッ!!」
「結果はどうだったのじゃ!?」
「オーマイゴッドって、この場合は笑いの神様なのか、ご自身なのかちょっと気になりますね」
「いやミチルよ、そこはどうでもよいんじゃないかのぉ」

 シルちゃんとミチルさんは相変わらずマイペースだね。
 じゃなくて!

「この触手、ローパーじゃなくてコアのバリアだってよ!!」

「なんだって!」
「どおりで俺様でさえ切れねぇハズだ。フン!!」
「これがダンジョンのコアが発すると言う、不滅のバリア。ハァァ!! 『エアバレット』」
「不滅と言っても、俺様たちの目の前でリュータが破壊してっけどナァ。オラァ!!」
「ならばこの場はリュータ殿に任せればよいのだな! ぬ、ぬおおお!?」

 割と余裕でワン君と会話を交わしていたアンリエット様が、ダンジョンコアの変異したバリアの触手に足を掴まれ、そのまま宙へと上がってしまう。

「な!? テメェ、アンを放しやがれ!! オラァ! 『花月一閃』!!」

 吠えたワン君が光ると同時にとてつもなく鋭い一撃を見舞うが、アンリエット様の足に絡んだ触手は切れなかった。
 しかしそれでも何度も何度も触手を攻撃するワン君に、アンリエット様が焦った様子で叫ぶ。

「もうよい、よせ! ヨシ! リュータ殿に任せるのだ!」

 あのバリアは強力過ぎる俺の『呪い耐性』でなければブチ抜けない。
 つまり最初から俺の『せん定』はほとんど役に立っておらず、俺自身の右腕の一振りであの触手は切れていたのだ。
 だからワン君が何度斬っても切れるはずがなく、それは本人も分かっている。
 それなのに、なおも斬り続けるワン君の異常なまでの気迫に、そんなにアンリエット様が大事なのかと改めて思う。

 折角だからお姫様を救出する役目を譲りたいところだけど、しかしそうも言ってはいられない。
 彼にコアのバリアに対して有効な手段がない以上、俺が動くしかない。

「ワン君! 触手は俺がやるから護衛を頼む!」

 そう言って俺は前に出ようとするが、技のクールタイムなのか、一時下がってきたワン君は、唐突に俺を突き飛ばした。
 思わずしりもちを付く。ケツが痛い。

「ザケンナ! また前のグランドテラートータスみたく死にてェのか!!」
「・・・、え?」

 ケツを擦りながら起き上がれば、ワン君にそんな事を言われた。

「今度はあのクソクマ魔人の時ミテーに死んでもリポップなんて、できネーんだロ!?」
「あ、ああ、そうだが、いや、でも」

 いきなりの事態に返す言葉を探していると、ワン君に胸倉をつかまれた。
 そして額と額をガチンと合わせ、ようするに軽い頭突きを食らったうえでワン君が叫んだ。

「テメェはもう復活できネェんだロ!? だったら、もう、無茶すんじゃネェ!」
「えええ・・・」
「テメーは後ろで待ってロヤ。こっから先の戦いは、勇者専用ダ!! 全部、俺様に任せておけ!」

 なにこれ。

 ワン君が、デレた。


 俺に、デレた・・・・・・。


 思えばフラグはあった。
 昨日、心の友とか呼ばれた。

 ああ、そうか。
 彼は、映画版のジャイ〇ンだったのか。


 いやいや、デレる相手、間違ってるって!

 なんでさっきまで「アン!」とか、明らかにアンリエット様の愛称で叫んでいたのに、俺にデレるんだよ!!

 わけが、わからないよ・・・。


「おい、リュータ! 何をほうけておる! 今すぐにアレを止めるぞ!」
「ああ、うん」

 ガクガクと揺さぶられ、やっとこ現世に戻って来た俺の魂は、シルちゃんの声を聞き思考を再開させる。

 パチン、と頬を叩き気合を入れる。

「そうだな。心の友だと言うのなら、どちらか一方に頼り切りになるのは間違い、だよな」
「う、うむ? よく分からんが、ゆくぞ、リュータ!」
「あいよ!」
「私が援護します、シルビィちゃんとリュータさんはこのまま突っ込んで下さい!」

 ミチルさんが俺たちより数歩先を進み、触手を弾いていく。
 それを軽く援護しながらシルちゃんは俺と並走。俺も一応『せん定』を用意しつつアンリエット様が拘束されている触手へ向かう。

 何度かの攻防の後、俺はワン君の近くまで辿り着き、叫ぶ。

「ツヨシ! 合わせろ!!」
「ナッ!? チッ! 分かったァ!」

 ハァァァァァ!

 俺とワン君、いや、ツヨシ君との呼吸が合わさり、一種の領域へと達する。
 一瞬にして一体化した俺とツヨシ君の気配に触手が戸惑い、その隙を突いて俺は駆ける。
 その俺目掛けて触手が伸びるが、それをシルちゃんが抑え込む。

「『エアバレット』連打じゃ!! ゆけ、リュータ! ワンよ!」

 さんきゅー、マイラバー!

「ハァァ! 『せん定』!!」

 俺の右腕、『デス☆シザー』がアンリエット様を拘束していた触手を全て切り取り、体勢を崩して地面に激突する直前だったアンリエット様を、ツヨシ君がお姫様だっこで確保する。

「アン! 大丈夫か!」
「ヨシ・・・」
「俺はヨシじゃネェっつってんだろ!!」
「フフッ、いつもいつも、細かい男よの。ならば私の事はリエと呼んでもよいのじゃぞ?」
「リエは、アネキの名前ダァァ! チクショーー!!」

 いや、俺も名前間違うのは細かくないと思うんですけどね。
 そしてそうか。そう言えば貴族では他人が決して呼ばない呼び名で親愛の情を交わし合う、なんてのがあったっけ。
 アン ”リエ” ットで、リエと呼んで欲しい。

 なるほど、デレデレじゃないですか、アンリエット様。
 そしてそれがまた、ツヨシ君をイジり倒した実の姉と同じ名前である、と。
 世の中ままならないものだねぇ。

 まぁいいか。

「このままコアを叩く! みんな、援護してくれ!」

 いつだって、コアを割るのは俺の役目だ。
 ハイヒューマン化して戦闘能力が上がったものの、『ステータス』が見れなくなったのでどこまで強くなっているのか分からない。
 だから道中もほとんどみんなに守ってもらっていた。正直に言えばこのメンバーの中では役立たずもいい所だ。

 それでも、この役目だけはいつだって俺のものだ。

「だから! ここで、決めるんだ!」

 みんなが魔法で、斬撃で、とにかく良く分かんないけど色々で切り開いてくれた道を頼りに、波打つ触手を潜り抜け、恐らくコアがあるであろう深い場所に辿り着く。

「あとは、根性だ! オラァ!」

 目の前の、触手の根本に気合一閃。
 俺の正拳突きが突き刺さり、あっさりとバリアを砕く。

「あ、あれ?」

 思ったより威力、高くね?
 今までだと何十発と打ち込まねば壊れなかったダンジョンコアのバリアが、一瞬で砕け散る。

「あれ、コアです!」

 ミチルさんの声に我に返り、目の前にあるコアをとにかくぶっ叩いた。

 コアは割れた。


「あるぇ?」

 あっさりすぎません?

「さすがリュータじゃ! そして、リュータの予想通りじゃったな。皆の者、奥を見るがよい」

 シルちゃんが指し示す、割れたコアの先、そこには

 俺とシルちゃんがこの密林ダンジョンに閉じ込められていた時に建て、一か月ほど住んでいた丸太小屋があった。
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