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第七章 リュータと魔王
第七十六話 急変
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罪深き変態が増えたその日の夜。
俺はひとっ風呂浴びて火照った身体を窓際で冷やしつつ、賢者について考えた。
「一番の謎はやはり賢者だよな」
数人の騎士の目撃情報を集めた、賢者の自伝とは違う別の禁書には、魔王討伐時に大地神様の聖女と勇者はお亡くなりになり、討伐後、最後にただ一人その場で生き残ったのが賢者だと書かれていた。
おそらく俺が記憶のダンジョンを脱出する際に見た夢が、その出来事だったのだろう。
「勇者との旅の果て、魔王を倒したら賢者は独りぼっちとなりました、か」
両親と妹を若くに亡くし、最後には仲の良かった旅仲間とも死別した。
魔王を倒し平和となったはずだったのに。
当時、賢者は一体どんな心境だったのだろうか。
「光と共に勇者と聖女の遺体は消え、最後は賢者も光に包まれて消え去った、か」
そして、誰もいなくなった。
確かに不運と言うか不幸だが、これだけなら俺もそんなに疑問には思わない。
俺が疑問に思ったのは、庶民に伝わる魔王討伐のエピソードとは全く似ても似つかない所だ。
俺の知る絵本の話や童話の話では、恋仲であった聖女と勇者は魔王討伐後に結婚し、田舎の領主として平和に暮らした、だった。
大人向けの話は、後遺症を負った聖女と勇者はその後引退し、辺境の地で仲良く暮らした、だ。
「どっちも、話の中では生き延びてるんだよな」
何故、死んだ事実を隠したのか。そこに、一体どんな都合があったのか。
「他にも、賢者のその後の扱いが、謎ではあるんだよな」
道中あれだけ存在感を出していた賢者は、庶民向けの話のエピローグには登場しない。
魔王討伐後に賢者がどうなったのかは、庶民の間では一切語られていない。
本当に、分からない事だらけだ。
「はー、本人出てきて説明してくれないかなぁ」
あれからずっと神様に向かって念波と言うか、何か届けーーって感じで送ってるんだけど、返事がない。『電話』の生活魔法でも無理だった。
アンリエット様が言うには、亜神となったが故に笑いの神様からの加護の範疇から外れたらしい。その為に交信が出来ないのではないかとの事。ちなみにこの意見はウィルとも一致しているので、多分そうなんだろう。
おっと、誰かが俺の部屋に来たようだ。
「はいはーい。開いてますよー」
ノックに返事をして入室を促せば、入ってきたのはシルちゃん・・・、ではなくミチルさん?
「こんばんは、リュータさん」
「はい、こんばんは。どうしたの?」
「これ、お夜食です。よかったらいかがですか?」
手元を見ると、木製の皿の上に乗ったジューリ、見た目は長細くキュウリのような中身メロンの謎果物、が食べやすいサイズに切られていた。
ただし皿の上にある物体は、実に不格好でどれ一つまともな四角をしていない。
「うん、頂くよ」
「はい!」
敢えて形については指摘しなかった。これ、どう見ても料理出来ないミチルさんがやったんだと思うから、ね。
刺してある串を摘まみ、ジューリの欠片を口に運ぶ。
「どれどれ・・・、うん、うま・・・。う、うま?」
ナンダ、コレ?
「これ、なんで塩振ってあるの?」
「え? スイカとかに塩振りませんか?」
・・・、どうしよう。形を指摘せずただ褒めるだけの作戦だったのに、この子、余計な事しちゃってくれてるから素直に褒められないわ。
「えーと、食べてみて?」
「はい! もぐ・・・、なんだか、甘いキュウリです」
そう、彼女が述べた通り、甘いキュウリっぽいのだ。
「わざわざ農家の人たちが丹精込めて改良して、メロンっぽくしたのにキュウリに寄せちゃったかー」
救いなのは、メロンと違ってそこそこ歯ごたえがある事か。キュウリだと思えばまだ、いける。
「ふう、ご馳走様。今度は出来るなら、素材のまま楽しみたいな」
「そ、そうですね。すいません」
「いやいや、いいよ。次、期待しているね」
こういう時は、相手が失敗に委縮しないように次を促すのが大事だとじいちゃんに聞いた。俺も、何度も卵焼きを失敗して、その度にじいちゃんに「次はもっといいもん食わせてくれよ」と言われたものだ。
今思うとあのセリフ・・・、じいちゃん、アレはひょっとして単なる本音だったのかなぁ。
「遠い目をして、どうしたんですか?」
「え?」
「もしかして、神様の事を考えていました?」
いいえ、じいちゃんの意外な一面についてです。
じいちゃん、俺に激アマで優しい人だと思ってたんだけどなぁ・・・。大人になるってこういう事なのね、ほろり。
「不思議ですね。歴史の偉人が神様だなんて」
「そう?」
「ええ。元の世界でもそう言う方がいらっしゃったのは知っています。でも、その神様が世界に干渉まで出来るなんて驚きです」
「そうだねー」
剣と魔法の世界で、神様が干渉してくる。しかも人間が神様になれる。
こうして考えてみると、本当に不思議な世界だ。
「笑いの神様は、賢者様は、どうして神様になったんでしょうね?」
「それは・・・、そうだね」
神様になると言う事は、この世の理から外れた高次の存在になる事。つまり世を捨てるのと同じ。
俺のような亜神とは違う、完全に俗世と切り離された存在だ。
「魔王も倒したし、友人たちもいなくなってしまったから、かな?」
肉親もいない独り身だった賢者だし、あの軽そうな笑いの神様を思うとありそうだよなー。
”僕、この世に飽きたんで神様になったっす”
・・・、言いそうだよなー。
「しかし、なんだ」
「はい」
「気持ち悪い触手魔王の名前が『ジョワ=ンニー=トゥキン』って、言いにくいよね」
魔王には毎回珍妙な名前が付いている。前回の魔王にはそんな名前だ。
なんだよ 『ンニー』 って。かわいいじゃねーか。
そう言えば、フライングマタンゴも鳴き声が「ン゛ニ゛ー」らしい。そう思うと、全くかわいくない。
なんて思って隣を見ると、ミチルさんも首をかしげていた。
「世の中って、不思議だなぁ」
「ええと、何だか私の思っている不思議とリュータさんの思っている不思議って、違うと思うんですが・・・」
「どういうこと?」
「いえ、私は・・・」
ミチルさんがそう口を開いた直後、まるでタイミングを見計らったかのようなノックの音。
二人で顔を見合わせてから、苦笑しつつドアの向こうの人物に入室の許可を出した。
入ってきたのは、ツヨシ君だった。
「おう、邪魔すんゼー。って、姉御もいんのか」
「いてはいけないですか?」
「い、いや、ンなこたねーが」
何やらキョドっているんだが・・・、俺とミチルさんを交互に見て、気まずそうに視線を逸らして・・・って、ああ!?
「いやいや、別に二人で密会してたとかじゃないから!!」
「ひぇ!? そ、そうですよ! そんなんじゃないです!」
い、いかーん!
二人ともこういうのに免疫がないから完全に怪しい二人と化している!
「ツ、ツヨシ君? いいかい! 俺は、俺はだね!」
いくらシルちゃんが「嫁の数を増やすのは良い事じゃ。うぇるかむ、じゃ!」な人でも、ここで何も言わないのは不貞も同然だ!
浮気、よくない!
「俺は、だね!!」
「お、おう」
「俺はいつでもウェルカムだ!」
・・・。
ちっがーーーーう!!
何言ってんだ俺! 頭おかしい! ウェルカムなのはシルちゃんで、俺じゃないってのに!!
ミチルさんが何やらキラキラした目で見ているが、俺、この目を知っているぞ。
「ツヨ×リューですか・・・、ごくり」
そのバッテン、ダメーーー!!
「ぬおおお! そうじゃない! そうじゃないんだ!!」
ミチルさんがバラ色の妄想を存分に楽しみ、錯乱した俺がツヨシ君にブン殴られて正気を取り戻すまでに十分かかりました。
「いてて・・・、まだ痛いな。『応急手当』、ふう。ところで、何を話していたんだっけ?」
「確か、ジョワンニートゥキンについてですね」
そうそう、それ。
「ンニーってなんだよって笑ってた話だ」
「え? 真面目な顔をしてそんな事を考えていたんですか?」
うへ、何か知らんが藪蛇? 墓穴?
ミチルさん、お願いだからそんな冷たい瞳で俺を見ないで!?
「二人は筋肉フェチ、だったんだナァ」
「ツヨシ君、そりゃ一体何の話ですか!?」
「私は筋肉については詳しくないですよ?」
ポリポリと頬を掻きながら、ゆっくりと、俺の腕を見ながらツヨシ君が言う。
「上腕二頭筋、だよナァ?」
・・・、!?
「ジョワ=ンニー=トゥキン・・・、上腕二頭筋!? 魔王は、上腕二頭筋!?」
な、なんだってー!!
「し、新発見じゃないのか? それ」
「いや、魔王が上腕二頭筋ってなんなんだっつー話なんだガ」
「上腕二頭筋・・・、二の腕の筋肉で、力こぶが出来る部分の筋肉、でしたか」
詳しくないと言いつつ、微妙に詳しいミチルさん。さすが超記憶力(命名、俺)を持つだけの事はある。もっとも、脳内検索に時間がかかるから天才と言うほどではないらしいが。
「しかしあの形状、イカじゃなくて筋肉かぁ」
言われてみると、色が違ったりするけど、確かに保健体育の教科書で見た上腕二頭筋っぽいなぁ。
「となると、あいつのアレは、触手じゃなくて筋繊維なのか」
「実物を見た事はありませんが、それはそれで気持ち悪いですね」
「だなァ・・・。しかもリュータの話じゃ、本体だけで五メートル以上あったんだろ?」
上腕二頭筋だけで五メートル。上腕二頭筋の長さは二の腕と同じで、二の腕の長さは顔の長さに近い。
「七頭身だとすると、人間と同じ形状なら三十五メートルにもなりますね」
「八階建てのビルくれーか。グランドテラートーラスが十五メートルくれーだったから、倍以上でけーな。さすが魔王ってカァ?」
もしかしたら元の大きさが三十五メートルはあるのではないか、なんてミチルさんとツヨシ君の想像に思わず身震いをするが、よく考えたら人型じゃない可能性もあるのか。
「姿かたちが、人と同じとは限らないですからね」
「うん、ミチルさんの言う通りだと思う。もしかして腕だけ長いゴリラ体型かもしれないし」
「あー、その線もあんのか」
そもそもその上腕二頭筋は討伐されているのだ。それ以前の魔王も、元魔王? の体の一部だとしても討伐されているだろうし、元魔王が完全体で復活する事はないと思う。
ん? 元魔王?
何か、何かが引っかかる。
って、今度はなに!? ドアを激しくノックされたんですけど!?
「は、はい! な、なに? だれ?」
「リュータ、すまぬ、緊急事態じゃ!」
入ってきたのは、今度こそシルちゃん。
かわいいかわいいマイラブリー。しかしその顔には汗が滴り、表情も険しい。
普段はゆるふわ老婆系女子のシルちゃんが、ものすごく焦っているのが伝わってくる。
「ぬ、お主らもおるのか、丁度良い!!」
部屋の中を見渡してミチルさんとツヨシ君を発見すると、シルちゃんは「探す手間が省けたのじゃ」と呟き、息を吐き出していた。
シルちゃんは己を落ち着かせようと二度三度深呼吸し、息を整え、そして
「よいか、よく聞くのじゃ」
ごくり。
「リザードマンの街が、壊滅したそうじゃ」
・・・、え?
俺はひとっ風呂浴びて火照った身体を窓際で冷やしつつ、賢者について考えた。
「一番の謎はやはり賢者だよな」
数人の騎士の目撃情報を集めた、賢者の自伝とは違う別の禁書には、魔王討伐時に大地神様の聖女と勇者はお亡くなりになり、討伐後、最後にただ一人その場で生き残ったのが賢者だと書かれていた。
おそらく俺が記憶のダンジョンを脱出する際に見た夢が、その出来事だったのだろう。
「勇者との旅の果て、魔王を倒したら賢者は独りぼっちとなりました、か」
両親と妹を若くに亡くし、最後には仲の良かった旅仲間とも死別した。
魔王を倒し平和となったはずだったのに。
当時、賢者は一体どんな心境だったのだろうか。
「光と共に勇者と聖女の遺体は消え、最後は賢者も光に包まれて消え去った、か」
そして、誰もいなくなった。
確かに不運と言うか不幸だが、これだけなら俺もそんなに疑問には思わない。
俺が疑問に思ったのは、庶民に伝わる魔王討伐のエピソードとは全く似ても似つかない所だ。
俺の知る絵本の話や童話の話では、恋仲であった聖女と勇者は魔王討伐後に結婚し、田舎の領主として平和に暮らした、だった。
大人向けの話は、後遺症を負った聖女と勇者はその後引退し、辺境の地で仲良く暮らした、だ。
「どっちも、話の中では生き延びてるんだよな」
何故、死んだ事実を隠したのか。そこに、一体どんな都合があったのか。
「他にも、賢者のその後の扱いが、謎ではあるんだよな」
道中あれだけ存在感を出していた賢者は、庶民向けの話のエピローグには登場しない。
魔王討伐後に賢者がどうなったのかは、庶民の間では一切語られていない。
本当に、分からない事だらけだ。
「はー、本人出てきて説明してくれないかなぁ」
あれからずっと神様に向かって念波と言うか、何か届けーーって感じで送ってるんだけど、返事がない。『電話』の生活魔法でも無理だった。
アンリエット様が言うには、亜神となったが故に笑いの神様からの加護の範疇から外れたらしい。その為に交信が出来ないのではないかとの事。ちなみにこの意見はウィルとも一致しているので、多分そうなんだろう。
おっと、誰かが俺の部屋に来たようだ。
「はいはーい。開いてますよー」
ノックに返事をして入室を促せば、入ってきたのはシルちゃん・・・、ではなくミチルさん?
「こんばんは、リュータさん」
「はい、こんばんは。どうしたの?」
「これ、お夜食です。よかったらいかがですか?」
手元を見ると、木製の皿の上に乗ったジューリ、見た目は長細くキュウリのような中身メロンの謎果物、が食べやすいサイズに切られていた。
ただし皿の上にある物体は、実に不格好でどれ一つまともな四角をしていない。
「うん、頂くよ」
「はい!」
敢えて形については指摘しなかった。これ、どう見ても料理出来ないミチルさんがやったんだと思うから、ね。
刺してある串を摘まみ、ジューリの欠片を口に運ぶ。
「どれどれ・・・、うん、うま・・・。う、うま?」
ナンダ、コレ?
「これ、なんで塩振ってあるの?」
「え? スイカとかに塩振りませんか?」
・・・、どうしよう。形を指摘せずただ褒めるだけの作戦だったのに、この子、余計な事しちゃってくれてるから素直に褒められないわ。
「えーと、食べてみて?」
「はい! もぐ・・・、なんだか、甘いキュウリです」
そう、彼女が述べた通り、甘いキュウリっぽいのだ。
「わざわざ農家の人たちが丹精込めて改良して、メロンっぽくしたのにキュウリに寄せちゃったかー」
救いなのは、メロンと違ってそこそこ歯ごたえがある事か。キュウリだと思えばまだ、いける。
「ふう、ご馳走様。今度は出来るなら、素材のまま楽しみたいな」
「そ、そうですね。すいません」
「いやいや、いいよ。次、期待しているね」
こういう時は、相手が失敗に委縮しないように次を促すのが大事だとじいちゃんに聞いた。俺も、何度も卵焼きを失敗して、その度にじいちゃんに「次はもっといいもん食わせてくれよ」と言われたものだ。
今思うとあのセリフ・・・、じいちゃん、アレはひょっとして単なる本音だったのかなぁ。
「遠い目をして、どうしたんですか?」
「え?」
「もしかして、神様の事を考えていました?」
いいえ、じいちゃんの意外な一面についてです。
じいちゃん、俺に激アマで優しい人だと思ってたんだけどなぁ・・・。大人になるってこういう事なのね、ほろり。
「不思議ですね。歴史の偉人が神様だなんて」
「そう?」
「ええ。元の世界でもそう言う方がいらっしゃったのは知っています。でも、その神様が世界に干渉まで出来るなんて驚きです」
「そうだねー」
剣と魔法の世界で、神様が干渉してくる。しかも人間が神様になれる。
こうして考えてみると、本当に不思議な世界だ。
「笑いの神様は、賢者様は、どうして神様になったんでしょうね?」
「それは・・・、そうだね」
神様になると言う事は、この世の理から外れた高次の存在になる事。つまり世を捨てるのと同じ。
俺のような亜神とは違う、完全に俗世と切り離された存在だ。
「魔王も倒したし、友人たちもいなくなってしまったから、かな?」
肉親もいない独り身だった賢者だし、あの軽そうな笑いの神様を思うとありそうだよなー。
”僕、この世に飽きたんで神様になったっす”
・・・、言いそうだよなー。
「しかし、なんだ」
「はい」
「気持ち悪い触手魔王の名前が『ジョワ=ンニー=トゥキン』って、言いにくいよね」
魔王には毎回珍妙な名前が付いている。前回の魔王にはそんな名前だ。
なんだよ 『ンニー』 って。かわいいじゃねーか。
そう言えば、フライングマタンゴも鳴き声が「ン゛ニ゛ー」らしい。そう思うと、全くかわいくない。
なんて思って隣を見ると、ミチルさんも首をかしげていた。
「世の中って、不思議だなぁ」
「ええと、何だか私の思っている不思議とリュータさんの思っている不思議って、違うと思うんですが・・・」
「どういうこと?」
「いえ、私は・・・」
ミチルさんがそう口を開いた直後、まるでタイミングを見計らったかのようなノックの音。
二人で顔を見合わせてから、苦笑しつつドアの向こうの人物に入室の許可を出した。
入ってきたのは、ツヨシ君だった。
「おう、邪魔すんゼー。って、姉御もいんのか」
「いてはいけないですか?」
「い、いや、ンなこたねーが」
何やらキョドっているんだが・・・、俺とミチルさんを交互に見て、気まずそうに視線を逸らして・・・って、ああ!?
「いやいや、別に二人で密会してたとかじゃないから!!」
「ひぇ!? そ、そうですよ! そんなんじゃないです!」
い、いかーん!
二人ともこういうのに免疫がないから完全に怪しい二人と化している!
「ツ、ツヨシ君? いいかい! 俺は、俺はだね!」
いくらシルちゃんが「嫁の数を増やすのは良い事じゃ。うぇるかむ、じゃ!」な人でも、ここで何も言わないのは不貞も同然だ!
浮気、よくない!
「俺は、だね!!」
「お、おう」
「俺はいつでもウェルカムだ!」
・・・。
ちっがーーーーう!!
何言ってんだ俺! 頭おかしい! ウェルカムなのはシルちゃんで、俺じゃないってのに!!
ミチルさんが何やらキラキラした目で見ているが、俺、この目を知っているぞ。
「ツヨ×リューですか・・・、ごくり」
そのバッテン、ダメーーー!!
「ぬおおお! そうじゃない! そうじゃないんだ!!」
ミチルさんがバラ色の妄想を存分に楽しみ、錯乱した俺がツヨシ君にブン殴られて正気を取り戻すまでに十分かかりました。
「いてて・・・、まだ痛いな。『応急手当』、ふう。ところで、何を話していたんだっけ?」
「確か、ジョワンニートゥキンについてですね」
そうそう、それ。
「ンニーってなんだよって笑ってた話だ」
「え? 真面目な顔をしてそんな事を考えていたんですか?」
うへ、何か知らんが藪蛇? 墓穴?
ミチルさん、お願いだからそんな冷たい瞳で俺を見ないで!?
「二人は筋肉フェチ、だったんだナァ」
「ツヨシ君、そりゃ一体何の話ですか!?」
「私は筋肉については詳しくないですよ?」
ポリポリと頬を掻きながら、ゆっくりと、俺の腕を見ながらツヨシ君が言う。
「上腕二頭筋、だよナァ?」
・・・、!?
「ジョワ=ンニー=トゥキン・・・、上腕二頭筋!? 魔王は、上腕二頭筋!?」
な、なんだってー!!
「し、新発見じゃないのか? それ」
「いや、魔王が上腕二頭筋ってなんなんだっつー話なんだガ」
「上腕二頭筋・・・、二の腕の筋肉で、力こぶが出来る部分の筋肉、でしたか」
詳しくないと言いつつ、微妙に詳しいミチルさん。さすが超記憶力(命名、俺)を持つだけの事はある。もっとも、脳内検索に時間がかかるから天才と言うほどではないらしいが。
「しかしあの形状、イカじゃなくて筋肉かぁ」
言われてみると、色が違ったりするけど、確かに保健体育の教科書で見た上腕二頭筋っぽいなぁ。
「となると、あいつのアレは、触手じゃなくて筋繊維なのか」
「実物を見た事はありませんが、それはそれで気持ち悪いですね」
「だなァ・・・。しかもリュータの話じゃ、本体だけで五メートル以上あったんだろ?」
上腕二頭筋だけで五メートル。上腕二頭筋の長さは二の腕と同じで、二の腕の長さは顔の長さに近い。
「七頭身だとすると、人間と同じ形状なら三十五メートルにもなりますね」
「八階建てのビルくれーか。グランドテラートーラスが十五メートルくれーだったから、倍以上でけーな。さすが魔王ってカァ?」
もしかしたら元の大きさが三十五メートルはあるのではないか、なんてミチルさんとツヨシ君の想像に思わず身震いをするが、よく考えたら人型じゃない可能性もあるのか。
「姿かたちが、人と同じとは限らないですからね」
「うん、ミチルさんの言う通りだと思う。もしかして腕だけ長いゴリラ体型かもしれないし」
「あー、その線もあんのか」
そもそもその上腕二頭筋は討伐されているのだ。それ以前の魔王も、元魔王? の体の一部だとしても討伐されているだろうし、元魔王が完全体で復活する事はないと思う。
ん? 元魔王?
何か、何かが引っかかる。
って、今度はなに!? ドアを激しくノックされたんですけど!?
「は、はい! な、なに? だれ?」
「リュータ、すまぬ、緊急事態じゃ!」
入ってきたのは、今度こそシルちゃん。
かわいいかわいいマイラブリー。しかしその顔には汗が滴り、表情も険しい。
普段はゆるふわ老婆系女子のシルちゃんが、ものすごく焦っているのが伝わってくる。
「ぬ、お主らもおるのか、丁度良い!!」
部屋の中を見渡してミチルさんとツヨシ君を発見すると、シルちゃんは「探す手間が省けたのじゃ」と呟き、息を吐き出していた。
シルちゃんは己を落ち着かせようと二度三度深呼吸し、息を整え、そして
「よいか、よく聞くのじゃ」
ごくり。
「リザードマンの街が、壊滅したそうじゃ」
・・・、え?
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これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
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