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第三十五話 真実の檻、そして燃える決意
しおりを挟む第三十五話:真実の檻、そして燃える決意
冷たい石の床に、風が忍び込んでくる。
廊の一角に置かれた牢の中で、将軍・霖寅は膝を立てて座っていた。目を閉じたまま、何も語らない。ただ、静かに時の流れを待っているように見える。
「罪状は、皇女を見失い、さらに王族殺害の疑いあり」
そう告げられ、牢へ連れて行かれたその日から、すでに三日が過ぎていた。
瑶華は床に伏す景潤のそばで、夜通し祈るように座っていた。眠れないまま夜を明かすのも、もう何度目か。顔は憔悴しきり、目の下には濃い隈ができていた。
晨(しん)が命を狙われ、王族殺害の濡れ衣を着せられた将軍が追い詰められ、自分も刺された。次々と降りかかる災いに、瑶華は何もできない自分に苛立ち、不安に押しつぶされそうになっていた。ただ、将軍の無事だけを祈る。
やっと、やっと、将軍を霖寅(りんいん)と名前で呼べるようになって、心の距離が縮まったばかりなのに。
ただ、自分の夫が、何の罪もないまま牢に繋がれている。その苦しみと絶望を思えば、息をするのも苦しい。
「このままでは処刑になるやもしれません……」
律の言葉が脳裏に蘇る。
(処刑なんて――そんなの絶対、嫌……!)
処刑……将軍は、霖寅は私を守っただけなのに……夫が妻を守っただけなのに……
瑶華が将軍の潔白を証言しようと申し出ても、許可されなかった。
「夫婦なので虚偽の可能性がある」
と一蹴され、面会すら叶わない。襲われたのは自分なのに、なぜ将軍が裁かれなければならないのか。
何度も証拠や証言を集め、訴えかけても、まるで聞く耳を持ってもらえない。
焦燥感と無力感が、瑶華の心を深く蝕んでいく。
やがて、皇宮の一角で開かれた御前会議の場で、皇帝は一つの決断を下す。
「墨霖寅将軍の罪は重い。だが、功もまた大きい。……よって、北の荒地へ追放とする」
その瞬間、瑶華の胸が締めつけられた。耳鳴りが鳴り響き、目の前が真っ白になる。
息が……息ができない……!
何故?……霖寅は何も悪くないのに……!
(駄目よ!しっかりしなきゃ!)
詔は下された。一度下された詔は覆せない。ならば、他の理由を探さなければ!
生きては戻れぬと言われる土地に、霖寅が捨てられる。
(霖寅を見捨てないわ。皇帝に直訴して、たとえ私が打ち捨てられても!)
瑶華の瞳に、強い光が宿った。
その夜。
牢に戻った霖寅の元に、ひとつの封筒が投げ込まれた。蝋封も印もない、ただの古びた紙。その中にあったのは、わずか一行。
> 「まずはお前から死ね」>
それを読み終えた霖寅は、ようやく目を開けた。深い闇の奥に、ふと浮かぶわずかな光。
「……始まったか」
囁いたその声は、追放の宣告すらも飲み込み、決意に満ちていた。
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