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第8話:陛下、覚醒!? 甘い罠を仕掛けた密室の夜
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第8話:陛下、覚醒!? 甘い罠を仕掛けた密室の夜
1. 侍女の置き土産と、王の決意
侍女の「ヘタレ」という容赦ない言葉が、エイルヴィルケンの脳内で何度も反響した。
(私に足りないものは……強引さ、か)
彼は氷色の瞳を月光に光らせ、深い思考の淵に沈んでいた。リーゼがフィアンと笑い合う姿が目に焼き付いて離れない。このままでは、彼女の心が永遠に研究室の向こう側へと去ってしまうだろう。
王としての合理的判断。だが、その裏には、もはや隠しきれない一人の男としての焦燥と独占欲が渦巻いていた。
「……ならば、この私が、直接その『効率』を指導しよう」
エイルヴィルケンは決意を固めた。作戦名は「完全密室での個人指導」。
2. 天窓の観測室と、仕掛けられた甘い罠
「リュミエールの成分が月の光に反応する特殊な実験を行う。夜間、王専用の観測室にて、王妃に立ち会ってほしい」
リーゼはエイルヴィルケンからの緊急招集の報せに、目を輝かせて観測室へと向かった。
(深夜の実験! しかも王専用の観測室で、陛下との二人きり……! きっと貴重なデータが取れるに違いないわ!)
「二人きり」というシチュエーションが持つ甘い響きには、残念ながら微塵も気づいていない。
観測室の重厚な扉が閉まると同時に、「精密な実験のためだ」と告げたエイルヴィルケンは、魔法的な結界を張って外からの侵入を完璧に遮断した。密室。逃げ場はない。
リーゼは早速、装置の配置図と睨めっこを始める。その時、足元の僅かな段差に気づかず、ふわりと体が傾いだ。
「危ない!」
支えようと伸ばされたエイルヴィルケンの腕が、彼女の背に回る。気がつけば、リーゼは壁に背をつけ、彼に完全に囲い込まれる形になっていた。
天窓から差し込む月光が、彼の銀髪を淡く照らし、その氷色の瞳が、いつもよりずっと近くに、そして熱を帯びてリーゼを見下ろしている。
「陛下……あの……近くないですか?」
頬がカッと熱くなる。これは、急な体勢の変化による血行不良だろうか?
エイルヴィルケンの心臓は、激しく鼓動を打っていた。
(……こうでもしないと、あなたは私を見ない。フィアンばかりを追いかけている……!)
「その、ご、誤解です! あくまで研究員として、アシストをしてもらっているだけで……フィアンはとても優秀なので、一言えば十返ってくる。とても貴重な人材なのです。ですから……離して下さい」
リーゼは動揺を隠そうと必死だったが、声は上ずっていた。
エイルヴィルケンの瞳に一瞬だけ暗い影が差す。
「……そうか、『研究員』として優秀なのか」
わずかに距離を置こうとしたが、壁に押し付けた腕はそのままだった。
「そうですわ。陛下も、いつもは鋭い目つきなのに、今日はなんだか違う……」
リーゼの言葉に、エイルヴィルケンの耳朶がじわりと赤く染まる。
「私の目が鋭いのは、必要だからだ。だが今日は……確かに違うのだろうな。……あなたのことばかりを考えていたせいで」
4. 甘い罠の効能と、鈍感な王妃
「あの……これでは実験も検証もできません」
リーゼの言葉に、エイルヴィルケンはハッと我に返った。
「……確かに、君の言う通りだ。少し……興奮していたらしい」
彼は用意していた小箱から、リュミエールの花の蜜で作った特製菓子を取り出した。
「これは、実験前に糖分を補給するためのものだ」
差し出された菓子を、リーゼは無心で口に運ぶ。
「んんー!美味しい……!」
甘さが口いっぱいに広がり、リーゼの頬が緩む。
「陛下も、フィアンが優秀なのは認めてらっしゃいますよね?」
菓子でとろけたリーゼは、再びフィアンの名を出した。エイルヴィルケンの瞳に、複雑な光が宿る。
「……優秀だとは評価している。だが……彼よりも、あなたのほうが興味深い」
声が僅かに低くなる。
「え? あの、それは……ああ! 契約以上に研究から製品化の成果を出しているから、ということですね! 嬉しいです!」
リーゼは、自分の研究者としての評価が上がったのだと、満面の笑みを浮かべた。
エイルヴィルケンの耳朶が、さらに赤く染まる。
(違う……! そうではない、私が言っているのは……!)
「……研究員としてだけではない。あなたという存在そのものに、興味があるのだ」
彼は声を震わせながら、ほとんど囁きに近い言葉を絞り出した。
「あの、よく聞こえませんが」
「あなた自身に、興味があると言っている! 研究だけではない、リーゼ・フィアンという人物そのものが……私にとって重要なのだと!」
エイルヴィルケンは焦燥に駆られ、彼女の目を真っ直ぐに、そして熱烈に見つめた。
その瞬間、リーゼは初めて、凍りついた氷の仮面の下に隠されていた、一人の男としてのエイルヴィルケンの「熱」に触れた。
彼の瞳の奥で燃えるような情熱が、リーゼの心臓を、これまで経験したことのない速さで鼓動させる。
(この胸の痛みは……何?)
頬が、首筋が、耳までが、カッと熱くなる。彼の顔が、彼の視線が、彼の言葉が、リーゼの全身に雷のように響き渡った。
「……っ!」
初めての「ときめき」に戸惑い、リーゼは完全に固まってしまった。
その時、実験装置が突如として予定外の反応を示し、観測室全体にけたたましいアラート音が鳴り響いた。
アラートの音は、まるで外から誰かが魔法の結界を解錠しようとしているかのように聞こえた。
二人の間に張り詰めていた甘く、熱い空気は、一瞬にして砕け散った。
結末:未遂の夜と新たな火種
翌日。リーゼは研究室で、なぜか集中できずにいた。
(陛下が見つめてきた、あの熱い視線……あれは一体……? あと、あの胸の高鳴りは、新しい病気かしら?)
彼女は自分の体調に真剣に疑問を抱いていた。
一方、エイルヴィルケンは執務室で、昨夜の侍女の助言が間違いではなかったと確信していた。
「……強引にいくことの有用性。これが、効率的な恋愛戦略、か」
彼の瞳には、更なる独占欲と、リーゼの心を完全に掴むための新たな「合理的(?)な作戦」の閃きが宿っていた。
侍女は観測室の扉を外から開ける音を聞きながら、ほくそ笑んでいた。
「陛下、ヘタレ返上はまだですが、第一歩は踏み出しましたね。さあ、ここからが本番ですわよ」
1. 侍女の置き土産と、王の決意
侍女の「ヘタレ」という容赦ない言葉が、エイルヴィルケンの脳内で何度も反響した。
(私に足りないものは……強引さ、か)
彼は氷色の瞳を月光に光らせ、深い思考の淵に沈んでいた。リーゼがフィアンと笑い合う姿が目に焼き付いて離れない。このままでは、彼女の心が永遠に研究室の向こう側へと去ってしまうだろう。
王としての合理的判断。だが、その裏には、もはや隠しきれない一人の男としての焦燥と独占欲が渦巻いていた。
「……ならば、この私が、直接その『効率』を指導しよう」
エイルヴィルケンは決意を固めた。作戦名は「完全密室での個人指導」。
2. 天窓の観測室と、仕掛けられた甘い罠
「リュミエールの成分が月の光に反応する特殊な実験を行う。夜間、王専用の観測室にて、王妃に立ち会ってほしい」
リーゼはエイルヴィルケンからの緊急招集の報せに、目を輝かせて観測室へと向かった。
(深夜の実験! しかも王専用の観測室で、陛下との二人きり……! きっと貴重なデータが取れるに違いないわ!)
「二人きり」というシチュエーションが持つ甘い響きには、残念ながら微塵も気づいていない。
観測室の重厚な扉が閉まると同時に、「精密な実験のためだ」と告げたエイルヴィルケンは、魔法的な結界を張って外からの侵入を完璧に遮断した。密室。逃げ場はない。
リーゼは早速、装置の配置図と睨めっこを始める。その時、足元の僅かな段差に気づかず、ふわりと体が傾いだ。
「危ない!」
支えようと伸ばされたエイルヴィルケンの腕が、彼女の背に回る。気がつけば、リーゼは壁に背をつけ、彼に完全に囲い込まれる形になっていた。
天窓から差し込む月光が、彼の銀髪を淡く照らし、その氷色の瞳が、いつもよりずっと近くに、そして熱を帯びてリーゼを見下ろしている。
「陛下……あの……近くないですか?」
頬がカッと熱くなる。これは、急な体勢の変化による血行不良だろうか?
エイルヴィルケンの心臓は、激しく鼓動を打っていた。
(……こうでもしないと、あなたは私を見ない。フィアンばかりを追いかけている……!)
「その、ご、誤解です! あくまで研究員として、アシストをしてもらっているだけで……フィアンはとても優秀なので、一言えば十返ってくる。とても貴重な人材なのです。ですから……離して下さい」
リーゼは動揺を隠そうと必死だったが、声は上ずっていた。
エイルヴィルケンの瞳に一瞬だけ暗い影が差す。
「……そうか、『研究員』として優秀なのか」
わずかに距離を置こうとしたが、壁に押し付けた腕はそのままだった。
「そうですわ。陛下も、いつもは鋭い目つきなのに、今日はなんだか違う……」
リーゼの言葉に、エイルヴィルケンの耳朶がじわりと赤く染まる。
「私の目が鋭いのは、必要だからだ。だが今日は……確かに違うのだろうな。……あなたのことばかりを考えていたせいで」
4. 甘い罠の効能と、鈍感な王妃
「あの……これでは実験も検証もできません」
リーゼの言葉に、エイルヴィルケンはハッと我に返った。
「……確かに、君の言う通りだ。少し……興奮していたらしい」
彼は用意していた小箱から、リュミエールの花の蜜で作った特製菓子を取り出した。
「これは、実験前に糖分を補給するためのものだ」
差し出された菓子を、リーゼは無心で口に運ぶ。
「んんー!美味しい……!」
甘さが口いっぱいに広がり、リーゼの頬が緩む。
「陛下も、フィアンが優秀なのは認めてらっしゃいますよね?」
菓子でとろけたリーゼは、再びフィアンの名を出した。エイルヴィルケンの瞳に、複雑な光が宿る。
「……優秀だとは評価している。だが……彼よりも、あなたのほうが興味深い」
声が僅かに低くなる。
「え? あの、それは……ああ! 契約以上に研究から製品化の成果を出しているから、ということですね! 嬉しいです!」
リーゼは、自分の研究者としての評価が上がったのだと、満面の笑みを浮かべた。
エイルヴィルケンの耳朶が、さらに赤く染まる。
(違う……! そうではない、私が言っているのは……!)
「……研究員としてだけではない。あなたという存在そのものに、興味があるのだ」
彼は声を震わせながら、ほとんど囁きに近い言葉を絞り出した。
「あの、よく聞こえませんが」
「あなた自身に、興味があると言っている! 研究だけではない、リーゼ・フィアンという人物そのものが……私にとって重要なのだと!」
エイルヴィルケンは焦燥に駆られ、彼女の目を真っ直ぐに、そして熱烈に見つめた。
その瞬間、リーゼは初めて、凍りついた氷の仮面の下に隠されていた、一人の男としてのエイルヴィルケンの「熱」に触れた。
彼の瞳の奥で燃えるような情熱が、リーゼの心臓を、これまで経験したことのない速さで鼓動させる。
(この胸の痛みは……何?)
頬が、首筋が、耳までが、カッと熱くなる。彼の顔が、彼の視線が、彼の言葉が、リーゼの全身に雷のように響き渡った。
「……っ!」
初めての「ときめき」に戸惑い、リーゼは完全に固まってしまった。
その時、実験装置が突如として予定外の反応を示し、観測室全体にけたたましいアラート音が鳴り響いた。
アラートの音は、まるで外から誰かが魔法の結界を解錠しようとしているかのように聞こえた。
二人の間に張り詰めていた甘く、熱い空気は、一瞬にして砕け散った。
結末:未遂の夜と新たな火種
翌日。リーゼは研究室で、なぜか集中できずにいた。
(陛下が見つめてきた、あの熱い視線……あれは一体……? あと、あの胸の高鳴りは、新しい病気かしら?)
彼女は自分の体調に真剣に疑問を抱いていた。
一方、エイルヴィルケンは執務室で、昨夜の侍女の助言が間違いではなかったと確信していた。
「……強引にいくことの有用性。これが、効率的な恋愛戦略、か」
彼の瞳には、更なる独占欲と、リーゼの心を完全に掴むための新たな「合理的(?)な作戦」の閃きが宿っていた。
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