転生帰録──鵺が啼く空は虚ろ

城山リツ

文字の大きさ
64 / 122
第四章 新たな仲間とともに

第9話 草むしりのついでに

しおりを挟む
「で? 何か用かよ」
 
 蕾生らいおは視線は地面に置いたままで、鈴心すずねに自分と組んだ意を問う。
 
「ええ。貴方と認識の擦り合わせをしたくて」
 
「ふうん」
 
「今回はどうなんですか、力の方は」
 
「なんでお前知ってるんだ?」
 
 唐突に直球で聞かれて、思わず蕾生は手を止めて鈴心の方を向く。
 
「あ、すみません。ハル様はそれもまだ貴方に伝えてないんですね。ええと、大丈夫ですか?」
 
 鈴心も些かの驚きを隠せずに、やや動揺した後蕾生を気遣った。
 
「何が? はるかもお前も心配し過ぎじゃねえの?」
 
「まあ、それは慎重にやらないといけないので。でも、そうですね、大丈夫そうですね。ハル様には後で謝らないと」
 
 永も同じようにそうやって蕾生をいちいち気遣うが、当の本人は食傷気味になっている。だが不満を言っても仕方ないので、蕾生は続きを促した。
 
「で? 俺の怪力って毎回出てる力だったのか?」
 
「いえ、最初からではありません。私達の尺度ですけど、あなたが剛力を持って生まれてくるようになったのはごく最近です」
 
「へえ、そうなのか」
 
 永から聞かされていない情報が聞けるかもしれないと、蕾生は少し緊張した。
 
「最初は人より少し力が強い程度でしたが、ここ数回の転生のうちにどんどん力が強くなってきていました」
 
「へー」
 
 それでも永に釘をさされているので、蕾生は平静でいようと努める。指先で雑草を摘みながら相槌を打った。
 
「今回もだいぶ強そうですね」
 
 そんな蕾生の作業を見ながら鈴心がそう評する。
 
「まあな、俺は比較できねえし、だいぶ前に永に力は使うなって言われてここまできたからマックスはわかんね」
 
「一番古い記憶では?」
 
「ええ? そうだな、ガキの頃──親父の単車くらいは余裕で持ち上げたかな」
 
 そこまで掘り下げるかと思いながらも蕾生は古い記憶を辿る。幼少の頃、父親のオートバイをふざけていじり、自分に倒れてきたので思わず掴んで放り投げた事を思い出した。
 おかげでバイクは大破してしまったが、父はそんな蕾生の力を恐れることもなく、真っ当にこっぴどく叱って夕飯を食べさせてもらえなかった。
 
「親御さんはそれをご存知で?」
 
「ん。まあ、でも、別に普通に暮らしてる。しょっちゅうドアとか壊すけど」
 
 思えば両親は蕾生の怪力に困ることはあるが恐れることはない。だから蕾生は永に会うまで自分の力が人と違うことを知らなかった。それはきっと幸せなことなんだろうと思う。
 
「そうですか。前にハル様を片手で持ち上げていたので、今回も強そうだなとは思っていました」
 
「ああ、あん時な。そういえば、途中ででかい植木はどかしたな」
 
 鈴心の言葉に初めて会った時の事を思い出す。あんなに焦ったのはバイク事件以来かもしれないと蕾生は思った。
 
「重かったですか?」
 
「全然」
 
 植木の重さなど今となってはさっぱり思い出せない。
 
「そうですか……」

 鈴心はそう相槌を打った後、押し黙った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...