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第七章 エピローグ
第8話 家族
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とうとう一学期が終わった。蕾生にとってはとても長いものだった。
ただのオカルトマニアだと思っていた永に転生の運命を聞かされ、鈴心と星弥に出会い、銀騎詮充郎との邂逅を果たした後、鵺化を乗り越えた。今では敵だった銀騎皓矢の協力で呪いの解明をしようとしている。
たった三ヶ月ほどで蕾生の意識も変わった。自分の中の訳がわからない力から目を背け、永の言う通りに生きていけばいいのだと考えていたあの頃は、きっと堕落していたのだろう。
今では──たいそうな事は言えないが──少しは前向きになれた気がする。自分の中心に永がいるのはこれからも変わらない。けれど、自分の生きる意味を永に押し付けるのではなく、自分が永とともに生きたいのだと思う様になった。
馬鹿な自分はこれからも永に面倒をかけるだろう。その分、永も鈴心も星弥も──自分の周りにいてくれる人達くらいは守りたいと思う。いつか鈴心が「強くなれ」と言ったその意味がやっとわかった。
「ライくん? 何考えてんの?」
すぐ横を歩いていた永は、無言で歩き続ける蕾生を見かねて目の前で手を振った。
「え、あ、別に」
「あー、通知表が全滅だったからおばさんに怒られたんでしょ! それともおじさんにもかな? 怒ると閻魔様みたいだもんね!」
カラカラ笑って事実を言い当てる永に、蕾生は内心コノヤロウと思っていた。
「あのな、こんだけ色々あっていい成績がとれる訳ないだろ。どんな変態だよ」
「どうも、変態です」
恭しくお辞儀をして見せる永に蕾生は持っていたカバンを振り回す。
「ちなみに、その理論だと銀騎さんもリンも変態だね!」
「俺の周りは理不尽なヤツばっかりだよ!」
カバンを華麗に躱して永はご機嫌で付け足す。期末考査で星弥に十点の差をつけて学年一位をとったのでとにかくルンルンなのだ。そこは蕾生にとっても高みの戦いなので別にどうでも良かった。
問題は本来なら中学生のはずの鈴心も──転入生のくせに──三十番だったことだ。成績表を見せながら涼しい顔で「ライは後ろから数えた方が早いですね」と言ってのけた小憎らしい顔を、蕾生は絶対に忘れない。
「まあまあ、そんな怒らないで。せっかくの旅立ちが台無しだよ」
「お前が怒らせたんだろ……」
今日はいよいよ雨都梢賢の実家に行く。二人は支度を整えて鈴心を迎えに銀騎家に向かっている。
「じゃあ、三人とも気をつけて行ってきてね」
銀騎の邸宅に着くと、鈴心はすでに玄関で待機していた。
星弥が鈴心のワンピースのリボンを直した後、見送りの言葉をかける。
「じいさんはまだ気がつかないのか?」
あれから数週間経ったが、詮充郎の容体について芳しい話を聞かない。蕾生は最後に確認してみたが、星弥は残念そうに頷いた。
「うん……でも、お祖父様はずっと走りっぱなしだったから、長めにお休みしてもいいと思うの」
「……」
詮充郎には散々なことをされたはずだが、それを恨んでいない星弥の言葉を蕾生は黙って聞いた。
「わたしね、お祖父様にはとっても感謝してるの。わたしやすずちゃんにしたこととか、他にもいろいろ悪いことしてきたと思うけど、お祖父様がわたしを孫として引き取ってくれたから、今のわたしがある」
星弥は自分の胸を叩いてはっきりと言う。それは孫が祖父を慕う、単純で純粋な思いだった。
「お母様や兄さんの元に預けてくれて、何不自由なく育ててくれたから、わたしはこれまで自分のことだけ考えて生きてこれた。それって当たり前なのかもしれないけど、幸せな環境だって思うの」
「そうだな」
蕾生も自分の環境と重ねて考える。特殊な力がある子どもを持った両親は、それを苦にすることなく個性として受け入れてくれた。本当に単純で純粋な家族としての接し方で。それが普通のこととして、当たり前に享受できることはやはり恵まれている。
「お祖父様が目覚めたらね、おかえりなさいって言うんだ。家族だから」
星弥の優しい決意に、鈴心も永も満足げに微笑んだ。
ただのオカルトマニアだと思っていた永に転生の運命を聞かされ、鈴心と星弥に出会い、銀騎詮充郎との邂逅を果たした後、鵺化を乗り越えた。今では敵だった銀騎皓矢の協力で呪いの解明をしようとしている。
たった三ヶ月ほどで蕾生の意識も変わった。自分の中の訳がわからない力から目を背け、永の言う通りに生きていけばいいのだと考えていたあの頃は、きっと堕落していたのだろう。
今では──たいそうな事は言えないが──少しは前向きになれた気がする。自分の中心に永がいるのはこれからも変わらない。けれど、自分の生きる意味を永に押し付けるのではなく、自分が永とともに生きたいのだと思う様になった。
馬鹿な自分はこれからも永に面倒をかけるだろう。その分、永も鈴心も星弥も──自分の周りにいてくれる人達くらいは守りたいと思う。いつか鈴心が「強くなれ」と言ったその意味がやっとわかった。
「ライくん? 何考えてんの?」
すぐ横を歩いていた永は、無言で歩き続ける蕾生を見かねて目の前で手を振った。
「え、あ、別に」
「あー、通知表が全滅だったからおばさんに怒られたんでしょ! それともおじさんにもかな? 怒ると閻魔様みたいだもんね!」
カラカラ笑って事実を言い当てる永に、蕾生は内心コノヤロウと思っていた。
「あのな、こんだけ色々あっていい成績がとれる訳ないだろ。どんな変態だよ」
「どうも、変態です」
恭しくお辞儀をして見せる永に蕾生は持っていたカバンを振り回す。
「ちなみに、その理論だと銀騎さんもリンも変態だね!」
「俺の周りは理不尽なヤツばっかりだよ!」
カバンを華麗に躱して永はご機嫌で付け足す。期末考査で星弥に十点の差をつけて学年一位をとったのでとにかくルンルンなのだ。そこは蕾生にとっても高みの戦いなので別にどうでも良かった。
問題は本来なら中学生のはずの鈴心も──転入生のくせに──三十番だったことだ。成績表を見せながら涼しい顔で「ライは後ろから数えた方が早いですね」と言ってのけた小憎らしい顔を、蕾生は絶対に忘れない。
「まあまあ、そんな怒らないで。せっかくの旅立ちが台無しだよ」
「お前が怒らせたんだろ……」
今日はいよいよ雨都梢賢の実家に行く。二人は支度を整えて鈴心を迎えに銀騎家に向かっている。
「じゃあ、三人とも気をつけて行ってきてね」
銀騎の邸宅に着くと、鈴心はすでに玄関で待機していた。
星弥が鈴心のワンピースのリボンを直した後、見送りの言葉をかける。
「じいさんはまだ気がつかないのか?」
あれから数週間経ったが、詮充郎の容体について芳しい話を聞かない。蕾生は最後に確認してみたが、星弥は残念そうに頷いた。
「うん……でも、お祖父様はずっと走りっぱなしだったから、長めにお休みしてもいいと思うの」
「……」
詮充郎には散々なことをされたはずだが、それを恨んでいない星弥の言葉を蕾生は黙って聞いた。
「わたしね、お祖父様にはとっても感謝してるの。わたしやすずちゃんにしたこととか、他にもいろいろ悪いことしてきたと思うけど、お祖父様がわたしを孫として引き取ってくれたから、今のわたしがある」
星弥は自分の胸を叩いてはっきりと言う。それは孫が祖父を慕う、単純で純粋な思いだった。
「お母様や兄さんの元に預けてくれて、何不自由なく育ててくれたから、わたしはこれまで自分のことだけ考えて生きてこれた。それって当たり前なのかもしれないけど、幸せな環境だって思うの」
「そうだな」
蕾生も自分の環境と重ねて考える。特殊な力がある子どもを持った両親は、それを苦にすることなく個性として受け入れてくれた。本当に単純で純粋な家族としての接し方で。それが普通のこととして、当たり前に享受できることはやはり恵まれている。
「お祖父様が目覚めたらね、おかえりなさいって言うんだ。家族だから」
星弥の優しい決意に、鈴心も永も満足げに微笑んだ。
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