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第七章 エピローグ
第9話 夏へ
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「やあ、待たせてしまってすまない」
待ちわびた人物が二階から降りてきた。よれよれのワイシャツにしわしわのズボンを隠すように白衣を纏っている皓矢だった。
「ほんとだよ、ブツは? 大丈夫なの?」
寝癖も直っていない様に永が呆れながら言うと、皓矢は目の下の隈を擦りながら桐の箱を渡す。
「もちろん。はい、どうぞ」
蓋を開けると、絹の緩衝布の上に二つの鏃が並べられていた。それを覗き込んだ蕾生にはただの石ころにしか見えなかった。
「うん、確かに」
永が満足げにそれを確認してカバンにしまう。
それを見届けた後、続けて皓矢は蕾生に細長い布袋を差し出した。
「それから蕾生くんにはこれを」
「なんだよ、これ? ──木刀?」
紐で括られた部分を解いて中の物を取り出す。一見なんの変哲もない木刀で、柄頭に根付のようなものが付いている。皓矢はいつになく自信を込めて説明した。
「そう。お祖父様が作った萱獅子刀のレプリカがあっただろう? それを木刀に作り替えたものだ」
「えっ!!」
「刀だったものを木刀に!?」
蕾生と永が驚いて声を上げると、皓矢は少し言いにくそうに続けた。
「あーっ、と。実はレプリカの萱獅子刀は竹光でね。外見はお祖父様の趣味と見栄でああなっていたんだ。竹にキクレー因子を宿らせていたものを木に移し直しただけだよ。以前のままの見た目では学生の君達には持ち辛いだろうと思ってね」
「くっそお、僕らは竹光にびびってたのか! マジ、ジジイ許さん!」
永が憤然としている横で、蕾生と鈴心は木刀をしげしげと見つめた。
「確かに、見た目日本刀じゃ持ち歩けないよな」
「そうですね、木刀なら剣道部員で通りそうです」
二人が素直な感想を述べていると、不貞腐れた永はぶちぶち呟いていた。
「お土産持った修学旅行生みたいだけどねー」
「はは。ちなみにそいつの名は白藍牙とつけた。強そうだろう?」
永の文句を軽く受け流して、皓矢は拳を握り得意げに言う。そのネーミングセンスは鈴心を唸らせた。
「お兄様、鈴心は感動しました」
「いやあ……だいぶダサ……」
永の負け惜しみはその場で無いものとされた。
「このぶら下がってる飾りは?」
柄頭の根付を摘んで蕾生が聞いた。水色の石が白い丈夫な紐で周りを編まれたものだった。
「それは僕からの餞別。お守りだと思ってくれればいい。元気で行って、無事に帰っておいで」
「ああ、わかった」
皓矢の期待に応えるべく、蕾生は力強く言う。託された木刀──白藍牙を背負うとなんだか背筋が伸びるような気持ちになった。
「すずちゃん! お腹出して寝たらだめだからね!」
「そんなことしません!」
星弥の言葉に鈴心が真っ赤になって怒る。そのやり取りを笑いながら見届けた後、永はまっすぐ前を向いて言った。
「──よし、行こう」
「ああ」
蕾生もその視線の先を見据える。
鈴心が深く頷いて歩き出す。
暑い日差しが三人を照りつけた。
長い夏休みが始まろうとしている。
第一部 了
転生帰録2 へ続く
待ちわびた人物が二階から降りてきた。よれよれのワイシャツにしわしわのズボンを隠すように白衣を纏っている皓矢だった。
「ほんとだよ、ブツは? 大丈夫なの?」
寝癖も直っていない様に永が呆れながら言うと、皓矢は目の下の隈を擦りながら桐の箱を渡す。
「もちろん。はい、どうぞ」
蓋を開けると、絹の緩衝布の上に二つの鏃が並べられていた。それを覗き込んだ蕾生にはただの石ころにしか見えなかった。
「うん、確かに」
永が満足げにそれを確認してカバンにしまう。
それを見届けた後、続けて皓矢は蕾生に細長い布袋を差し出した。
「それから蕾生くんにはこれを」
「なんだよ、これ? ──木刀?」
紐で括られた部分を解いて中の物を取り出す。一見なんの変哲もない木刀で、柄頭に根付のようなものが付いている。皓矢はいつになく自信を込めて説明した。
「そう。お祖父様が作った萱獅子刀のレプリカがあっただろう? それを木刀に作り替えたものだ」
「えっ!!」
「刀だったものを木刀に!?」
蕾生と永が驚いて声を上げると、皓矢は少し言いにくそうに続けた。
「あーっ、と。実はレプリカの萱獅子刀は竹光でね。外見はお祖父様の趣味と見栄でああなっていたんだ。竹にキクレー因子を宿らせていたものを木に移し直しただけだよ。以前のままの見た目では学生の君達には持ち辛いだろうと思ってね」
「くっそお、僕らは竹光にびびってたのか! マジ、ジジイ許さん!」
永が憤然としている横で、蕾生と鈴心は木刀をしげしげと見つめた。
「確かに、見た目日本刀じゃ持ち歩けないよな」
「そうですね、木刀なら剣道部員で通りそうです」
二人が素直な感想を述べていると、不貞腐れた永はぶちぶち呟いていた。
「お土産持った修学旅行生みたいだけどねー」
「はは。ちなみにそいつの名は白藍牙とつけた。強そうだろう?」
永の文句を軽く受け流して、皓矢は拳を握り得意げに言う。そのネーミングセンスは鈴心を唸らせた。
「お兄様、鈴心は感動しました」
「いやあ……だいぶダサ……」
永の負け惜しみはその場で無いものとされた。
「このぶら下がってる飾りは?」
柄頭の根付を摘んで蕾生が聞いた。水色の石が白い丈夫な紐で周りを編まれたものだった。
「それは僕からの餞別。お守りだと思ってくれればいい。元気で行って、無事に帰っておいで」
「ああ、わかった」
皓矢の期待に応えるべく、蕾生は力強く言う。託された木刀──白藍牙を背負うとなんだか背筋が伸びるような気持ちになった。
「すずちゃん! お腹出して寝たらだめだからね!」
「そんなことしません!」
星弥の言葉に鈴心が真っ赤になって怒る。そのやり取りを笑いながら見届けた後、永はまっすぐ前を向いて言った。
「──よし、行こう」
「ああ」
蕾生もその視線の先を見据える。
鈴心が深く頷いて歩き出す。
暑い日差しが三人を照りつけた。
長い夏休みが始まろうとしている。
第一部 了
転生帰録2 へ続く
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