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坊主頭の奇妙な校則
【11】
しおりを挟む転校二日目の朝のホームルーム。
担任の狩野紙子先生は、どうやら風邪を引いてお休みのようで、副担任の薄池 次郎先生とやらが代わりを勤めていた。
ん? 薄池?
「ああ、どうやら理事長の孫……らしいわよ」
時は進んで昼休み。
小綺麗なお弁当箱から、程よく焼かれたウインナーを箸で掴みながら、学級委員長、倉持水地が言った。
「理事長の孫……? どうりで……」
名字が同じな訳だ。
倉持学級委員長は続ける。
「こういう言い方はアレなのですけれど。いわゆる、コネ出世というやつなのでしょうね。校長も、薄池先生の扱いには困っているようですし」
そう言いつつ、ウインナーを口の中へ放り込み咀嚼する学級委員長。
なるほど、なかなかに良い教育を受けているようだ。昼食を食べる行為一つ一つに品の良さが伺える。
その上、容姿端麗……このような子の頭髪が坊主頭というのは、やはり違和感を感じてしまうなぁ……。
「ふぅ~ん……って、おいおい! 何で学級委員長とオレは一緒に昼食を食べているんだ!?」
「何でって……しっかりしてくれよ白宮ど……白宮くん。昼休みに入って早々、彼女からボクたちに『一緒にご飯どう?』という申し出があり、ボクらがそれをオッケーしたという流れじゃないか。その歳で認知症かい? 白宮ど……くん」
「ん……? あ、ああ、そうだったか……そうだったな」
やっべ……薄池先生の名字が気になり過ぎていてボーッとし過ぎちまった。
いけないいけない……何かに没頭すると、周りが見えなくなるのはオレの悪い癖だ。
「白山ど……?」と、喜田くんの敬称ミスに、すかさず探りを入れてくる倉持学級委員長。
「あらあら、不思議な敬称で呼び合うほど、仲が良くなったんですね、二人共。ど……に続く敬称といえば、何があるかしら? ねぇ、喜田くんは、白山くんのこと、何て呼んでるの?」
「あ……え、えーっと……何ても何もないよ、普通に『白宮くん』って……」
「いやいや、嘘つかないで良いのよ。そんなに恥ずかしがる必要なんてないじゃない。あだ名で呼び合うのは、仲が良い証拠だもの。教えて欲しいですねぇ、私もそれで呼んでみたいわ」
「それとも何?」倉持学級委員長は、ここぞとばかりに攻め込んでくる。
「その呼び方自体に、何らかの意味があって、その意味を――――私に知られたらマズイ――とか、そういう理由があるのかしら?」
「「!?」」
……なるほど……昨日、オレの正体がバレかけたというエピソードを話した時、凛子が少し意味ありげに頷いていた理由が分かった。
倉持水地学級委員長――コイツは危険だ。
よくよく考えてみれば、このオレが、『背後から近付いて来ている彼女に気が付かなかった』ことを、もっと異常に思うべきだった。
このオレが――気付けなかったことを。
倉持学級委員長は続ける。
「そうねぇ? 例えば……『白宮殿』というのはどうかしら? 喜田くんが、白宮くんに対してへりくだっている敬称を使っているのだとすれば……。その、へりくだっている理由こそが、私に隠したい事柄――という風に邪推できてしまうのだけれど……どうかしら?」
「…………」
「んん~? と、なると……何故、白宮くんに喜田くんがへりくだる必要があるのかなぁ? もしかして二人、殴り合いの喧嘩とかしちゃいました? それで優劣がついたから……とか……それか、もしくは――――
白宮くんが、年齢を誤魔化していて、実は年上だった――――とか?」
「…………!!」
この女……只者じゃねぇ。
ちょっとした表情の変化を疑われている。
様子を見られている。
揺さぶられている。
オレは、無表情で耐え切れる。
だけど喜田くんは――――
「……どん……」
「あら? 何かしら? 喜田くん?」
「白宮どん! って、呼んでるんです! 実は!!」
喜田くんが、食堂の机を思いっきり叩き、勢いよく立ち上がりながら、そう声を上げた。
その声と物音に、周囲の視線が集まる。
「西郷どんみたいな呼び方して良いかって話になって、白宮どんが良いって言ってくれて! それから二人きりの時だけなら、白宮どんって言っても良いぞって言ってくれたから!! だから! 話すのに躊躇したんだよ! ごめんよ! 倉持さん!」
「いやいや……喜田くん? いくら何でも、その言い分は苦しいですわよ……?」
「いいや!? 苦しくなんてないよ倉持さん!! そこまでボクたちのことを疑うのなら! 正直に話そう! 何を隠そう! このボクは……ボクは――――
西郷隆盛の、大ファンなのだよ!!」
「な……何ですって!?」倉持学級委員が、目を大きく見開いた。
喜田くんの苦しい言い分は続く。
「王政復古のクーデター……ふふっ、この言葉の響き、たまらない」
何かよく分からないことを言っていた。
が――コレは乗るに値する賭けだ。
「もういいよ、喜田くん。そこまで自分の趣味嗜好を言わなくてもいい……。言いたくないことを、これ以上言わなくてもいい……」
オレは、彼の肩にそっと手を当てながら、少し悔やむような演技をしながら、その話に乗った。
「白宮どん……」
倉持水地――この女は危険だ。
オレがそう認めた以上、全力で抵抗してやろう。
『幻想現象対策部隊』隊長を舐めるなよ、小娘。
「分かってやってくれ、倉持学級委員長。人には、一つや二つ隠したい秘密なんて持っているものだろう? 彼にとってはそれが、西郷隆盛だった……それだけの話だよ」
「そのような、取ってつけたような言い分で、私が丸め込まれるとでも?」ニヤニヤと笑みを浮かべながら、倉持学級委員長は追撃してくる。
確かに、苦しい言い分だ。
だけど……オレとしても、ここは引く訳にはいかない。
「取ってつけたように見えようが、彼が西郷隆盛マニアであることは、紛れもない事実なんだよ。それが嘘である、という証拠はあるのかい? さっきも言ったが、この事実は、喜田くんにとっては知られたくないことなんだよ。あまり追求してくるのは、やめてくれないか?」
「…………ふむ……」
顎に手を当て、何やら思考している様子の倉持学級委員長。
どうやら、反論する言葉は出てこなかったようで……「分かりました」と言った。
「喜田くん、疑ってすみませんでした」そして、そう言いながら喜田くんへ頭を下げた。
「言われてみればその通り。誰しも、言いたくない秘密、知られたくない趣味嗜好はありますわね。失言でしたわ。喜田くんは、西郷隆盛の大ファンであり、マニアだった――――その事実は、私の胸に秘めておくことにしますわ」
胸に秘める――そう言いながら、彼女はそっと、自分の胸に手を置いた。
発育豊かな……自分の胸に。
……え? 改めて見るとめちゃくちゃデカいな。
坊主頭に目を取られてしまっていたが、これは……すっご……。
「白宮どん……」
「はっ!」
倉持学級委員長のたわわな胸部をガン見していたことが、喜田くんにバレてしまった。
いけないいけない、オレとしたことが……任務中に性欲にかまけてしまうだなんて……。
当然、そんなオレの視線に、当の本人である学級委員長も気付いていたようで。
こ恥ずかしさを取り払うためか、ただ単に話を変えるためかは分からないが、「こほん……」と一回、咳払いをして見せた。
「とにかく、話はつきました。さぁ、昼食を食べましょう。お昼休みも無限にはありませんので」
そう言って、再びお弁当に手をつけはじめた倉持学級委員長。
「……だな……」と、オレと喜田くんも、それぞれ昼食を再開した。
ふぅ……何とか誤魔化しきれたようだ……。
まさか敬称一つでここまで追い込んでくるとは……本当に高校生か? この子……。
………………。
「なぁ……学級委員長……?」
「何ですか?」
「一つ質問していいか?」
「どうぞ」
「その胸何カップなんだ?」
ブッ! と、喜田くんが吹き出し、ゴホンゴホンと咳き込んでいる。
ダメだよ? ご飯は慌てず、ゆっくり食べないと。
「し、白宮どん! じょ、女子に何てことを聞くんだ!!」
あ、どうやらむせた理由は、食べ方とは別のところにあったらしい。
「すまない、失言だったな。答えたくなかったら、答えなくても――――」
「Fカップですわ」
「Fっ!?」
ていうか答えてくれるんだ。
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