幻想プラシーボの治療〜坊主頭の奇妙な校則〜

蜂峰 文助

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坊主頭の奇妙な校則

【32】

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 薄池高校への潜入捜査七日目――もとい、潜入捜査最終日。

 登校すると、やはり、オレが予想していた通りの光景が拡がっていた。

 全校生徒、全員が坊主頭だったのに対して……今は、見渡す限りの全員が――――


 スキンヘッドになっていた。


 髪の毛のかの字もない。

 ツルツルピカピカの、スキンヘッドに。

 坊主頭から……スキンヘッドへ。

【幻想プラシーボ】の変化…………否、強化である。

 こうなった要因は明らかである。


 感染源である人物の思い込み方が、変わったから。


 人間の髪型は――――坊主頭ではなく、スキンヘッドこそが至高だと、考えを改めたのであろう。

 改めなくてはならない状況に追いやられた……が、正解かもしれないが。


 土日を挟んでの今日だ……皆、準備万端にスキンヘッドにして来た。

 何にせよ、こうなってくると、坊主頭のカツラは何の意味もなさない。

 頭皮に髪の毛が少し見えるだけでアウト――という価値観になっているだろうから。

「おや? 白宮くん。頭に髪の毛が残っているよ? どれどれ、私が剃ってあげよう」

 と、小太りな男性教員に話し掛けられた。

 ほら……やっぱりこうなった。

 こうなると、最早、カツラは必要ないな。

 そんな訳で、オレはカツラを取った。

 小太りな男性教員に、自慢の白髪短髪を見せつけるかのように、カツラを脱ぎ捨てた。

「秋だけど、暑苦しくてたまらなかったんだよなぁ、カツラコレ

「あっ……ああああぁぁあー! か、髪……髪の毛が!!」

「綺麗な白髪だろ? 驚くなかれ、コレ、地毛なんだぜ?」

「そっ! 剃らせろぉー!!」

 バリカンを手に、錯乱し、飛び掛ってきた小太りの男性教員。

「あら……よっと」

「げふっ!」

 オレはそのバリカンを躱し、腕を掴み、一本背負いの如く、小太りの男性教員を地面へと叩き付けた。

 倉持学級委員長ではないけれど、オレもまた当然、武術の心得があるのだ。

 小太りな男性教員は、白目を向いて気絶したが、これで解決――とはならない。

 周囲にいた生徒たち、はたまた校舎内にいる生徒及び教員たちが、目を光らせ、バリカンを構え、錯乱した眼差しで、オレのことを見つめている。

 目的地は一階。

 この大勢のバリカンを躱しながら、目的地へ辿り着くのは難しいか?

 否――――


 靴を履き替えなければ……楽勝だ!!

「う、うぉおおおおぉおおーっ!! 髪だ! 剃れっ! 剃れぇー!!」
「逃がすな!! とり囲めぇー!!」
「髪があるのは法律違反だぁぁあーっ!!」
「どんな手を使っても良い!! この薄池高校内から! 髪の毛をなくせぇえぇええーっ!!」

 周囲の洗脳されている者たちが、一斉にバリカンを構えて襲いかかってくる。

 おお、怖い怖い。

 すると、右耳に装着していたワイヤレスイヤホンが、ピピッ! と音を鳴らした。

『どうやら始まったみたいね』流れてくる声は、凛子のものだった。

「おう……最終決戦開幕だ」

 そう返事しながら、走り出すオレ。
 同じくして、ポケットのスマートフォンがピロンと音を立てた。

 ポケットからスマートフォンを取り出し、画面を確認。

 薄池高校の見取り図に、青い点が一つ、数多もの赤い点が着いているものが表示されている。

 青い点が今のオレの位置。
 赤い点が、オレの白髪を剃ろうと襲いかかってくる洗脳者たちそれぞれの位置だ。

『今から、目的地までの最適ルートを記載するわ』

「頼んだ」

 向かう先に現れる、洗脳者たちのバリカンを躱しつつ、スマートフォンの画面に目を向けるオレ。

 先程の見取り図に黄色い矢印が表示された。

 この矢印の通りに進めば、最短ルートで目的地まで辿り着ける。

「さっすが! 頼りになる相棒だぜ!」

『どういたしまして』

 凛子は続ける。

『赤坂さんと倉持さんの方にも、喜多くんが最適ルートの案内を提示をしているわ。あの二人が目的を果たすまで、ゆっくりと、迫り来るバリカンを躱しつつ、目的地へ向かってちょうだい』

「了解!」

 さぁ、こっからは根比べだ。

 オレの大事な白髪を守るためにも、躱し続けるぜ。

『それにしても、あなたが

「まったくだぜ、でないと、流石のオレもこの変化には対応できなかった。絶対、パニクってたぜ!」

 迫り来る多数のバリカンを躱し、いなしつつ、オレは少しずつ前へ前へと進んでいく。

『赤神さんの親友への想いも、あなたの思い切った行動も、無駄ではなかった、ということね』

「ああ!」

 全部――――無駄じゃなかった。

 何もかも、必要なことだったんだ。

 それだけでも、救いはある。


 あの時、赤神さんの親友を思っての行動があったから。
 あの時オレは、倉持学級委員長を殴って洗脳を解くことができた。
 それによって、オレたちは放課後保健室に行くことが出来た。

 だからこそオレは――――



 狩野 紙子先生に、会うことができた。


 坊主頭に生えた、わずかな髪を長いと言い。
 バリカンをその手に持っていた、狩野先生と会えたからこそ。

 今のこの状況に、対応できている。


【坊主頭の幻想プラシーボ】が【スキンヘッドの幻想プラシーボ】へと変化した理由は……――



 狩野 紙子先生が――――、だ。


 のらりくらりと追っ手のバリカンを躱し、指定された道を進んでいると……。

 喜田くんから、一通のRAINが届いた。

『赤神さんと倉持さんが、対象者の目的地への誘導を完了しました。いつでも突入OKです!』

「了解」

 いつでも突入OKか……と、なると、もうちまちま歩く必要もない。

 目的地まで、全力ダッシュだ。

 オレは、凛子が指定してくれたルートを、全力疾走で駆け抜ける。

 この学校中の人間に、自慢の白髪を狙われていたのにも関わらず、目的地までの道中、すれ違った追っ手は、その総数の十分の一程度だった。

 本当に……頼りになる相棒だぜ。


 洗脳され、バリカンを持って錯乱した人たちは、狂気的ではあるものの、その立ち振る舞い以外はただの人間である。

 すなわち、髪のある人間の居場所を、五感以外のもので察知するような特殊能力は持っていないということだ。

 要は、髪が生えている人間を見ると襲い掛かり、追いかけるものの、まかれて見失ったら、追いかけることはできない。

 そこは、普通の人間と変わらない。

 何故なら彼ら彼女らは――――普通の人間なのだから。

 少し価値観が歪められた、普通の人間なのだから。


 こうしてオレは、洗脳されバリカンを持って錯乱している多数の人間の目を盗みつつ、無事に目的地へ辿り着くことができた。


 目的地である――――保健室へと。


「え? 白宮くん……? その髪は一体……?」

 辿り着いた保健室には、の人物がいた。

 二人は言わずもがな、オレの協力者である赤神 円と倉持 水地学級委員長。

 そして……残りの二人とは――――


「他の人たちは、オレの髪を見て、間髪入れずバリカンを持って襲い掛かって来たんですけれど……あなた達は、随分と落ち着いていますねぇ? それもその筈…………だって――――


 あなた方――


「指示を出すトップの人間が、錯乱する訳にはいきませんもんね」と、オレは続けた。

 すると、残る二名の内一人が、「感染源……? 何のこと?」と言った。

 そう答えるのも無理はない。

 だって、は、その思い込みを当たり前だと思っているのだから。

 薄池高校に蔓延っている【この現象】を、至極、当たり前のことだと認識しているのだから。

 病などと……端から思っていないのだから。

 だから、『感染源』などと言われても、精々バイ菌扱いされたとしか思うまい。

 理解されない、されていないのは想定通りだ。

 そんなこと、オレは重々承知している。

 オレがこれまで、何人の【幻想プラシーボ】患者と向かい合ってきたと思っているんだ。

 そんな認識のギャップに驚いていた頃なんて……はるか昔の話だ。

 ゆえに、オレは本当のことだけ言う。

 包み隠さず、相手に慈悲なく、無慈悲に、真実を突きつける。



「単刀直入に言います。狩野先生……そして――――――



 鶴見先生。


 人間は皆坊主頭……否、【人間は皆スキンヘッドにすべきである】という認識は間違っています」


 現実へと、引き摺り戻すが如く。


「それは――――あなた達の、ただの妄想でしかありません」
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