幻想プラシーボの治療〜坊主頭の奇妙な校則〜

蜂峰 文助

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坊主頭の奇妙な校則

【33】

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 そもそもの話……オレは、この【坊主頭……もとい、スキンヘッドの幻想プラシーボ】において、感染源に相当する人物は一人だと思っていた。

 何故そう思ったのか?

 それは、ここ薄池高校内でしか、【スキンヘッドの幻想プラシーボ】は蔓延していないと思っていたからだ。

 ここで、【幻想プラシーボ】について、更に踏み込んだ話をしよう。

 以前オレは、【今回の一件】を第2フェーズを終えたところと明言した。

 この第2フェーズというものは、感染範囲の度合いを現している。

 第1フェーズ――感染源の周りにいる人たちへの感染。
 第2フェーズ――学校や職場や施設など、一コミュニティ範囲の感染。
 第3フェーズ――街や市を覆い尽くす範囲の感染。
 第4フェーズ――一都道府県を覆い尽くす範囲の感染。
 第5フェーズ――地方範囲を覆い尽くす範囲の感染。
 第6フェーズ――西日本、東日本など一国の半分を覆い尽くす範囲の感染。
 第7フェーズ――一国を覆い尽くす範囲の感染。
 第8フェーズ――隣国にも甚大な被害をもたらす範囲の感染。
 第9フェーズ――世界の半数の国を巻き込む範囲の感染。
 第10フェーズ――世界中を覆い尽くす範囲の感染。

 以上、10フェーズ。
 10段階の枠組みで、感染範囲は定義されている。

 さて、ここで重要なのは、フェーズが一つ繰り上がることにより、何が変わるのか?
 否――――何を変えなければ、次なるフェーズへの進化ができないのか? だ。


 答えはそう……だ。


【幻想プラシーボ】は、その思い込みを信じる者が多ければ多いほど、強力になり、範囲が広がる。
 と言ったのは前述の通りだが。

 数が増え、【幻想プラシーボ】が強さを増すと、その思い込みに対して、熱狂的な支持者が現れる。

 その熱狂的な支持者が――――新たな感染源に位置づけられる。

 感染源が増える。という訳だ。

 だが、そうは言っても、それは単なるコピーに過ぎない。
 簡単に言うと、劣化版であり、偽物だ。

 オリジナルの感染源者――――その【幻想プラシーボ】を生み出した人物のことを、オレたちは『正感染源者』と呼び。

 対して、コピーの如く増えた感染源者のことを『偽感染源者』と呼ぶ。

 この『偽感染源者』については、興味深いデータが取られているそうで。

 第1フェーズ、第2フェーズはともかくとして、第3フェーズではは一人、第4フェーズでは更に二人。それ以降のフェーズへと移行する際には、四人、八人、十六人、三十二人……と、倍に倍にと増えていくそうだ。

 このデータを元に。

 感染範囲拡大の危険性を、『偽感染源者』の数で判断したり。

 感染範囲を見て、『偽感染源者』の数を割り出したり。

 している訳だが…………今回の一件において、オレは完全に、後者を見誤っていた。

 感染範囲を、見誤っていた。

 オレはてっきり……【スキンヘッドの幻想プラシーボ】は、薄池高校内だけで収まっている状況なのだと、思っていた。

 だから――――感染源者は一人だけだと、鷹を括っていたのだ。

 ところがどっこい、そうではなかった。

【スキンヘッドの幻想プラシーボ】は既に、薄池高校の外に出て、外のとある施設を覆い尽くしていた

 いや、違う。

 むしろ、のだ。


 ゆえに、【坊主頭の幻想プラシーボ】は既に、第3フェーズへと移行していた。

 移行の準備は、整っていたのだ。

 それがゆえに――――感染源者は二名。


 つまり、オレは……オレたちは、前提から間違っていた。

 舞台は最初から、薄池高校だけではなかったのだ。

 では、その発症源となった、本当の場所とはどこなのか?



 病院である。


 それもただの病院ではない。

 何を隠そう、我が二年A組の担任……狩野 紙子先生の実子――――


 狩野 筆火ひつかちゃんが入院している、病院なのだ。


 狩野先生はよく、学校を休んでいた。

 その理由が、『家庭の事情』というのは、耳に挟んでいた。

 後から思えば、一番はじめに容疑の目を向けなかったことが不思議なくらいの情報だった。

 ファーストコンタクトが転校生紹介の時のアレだったので、随分と彼女に対しての警戒度を下げてしまっていた節がある。

 逆を言えば、オレからの警戒度を下げるために、あんな行動に出た、可能性すらも感じられた。

 だって、誰が思うよ?

 愛する我が子が、に合っている最中に、……誰が想像する?
 誰が想像できる。

 地獄の中で笑うようなものだ。

 地獄のような心の傷を置いながら、笑っていたようなものだ。

 大事にしていないから、笑えていた訳ではない。

 大事に……大切に、我が子のことを思うからこそ、彼女は笑っていたのだ。

 痛む心を押えながら、仕事場である、この薄池高校という場において、狩野 紙子は狩野 紙子として、笑顔を振り撒き、職務を全うしていた。

 プロであるし。

 その心の強さこそ、彼女が立派な母親であることの証明であると……オレは思う。
  
 ……彼女が、【坊主頭の幻想プラシーボ】及び【スキンヘッドの幻想プラシーボ】を発症させた理由……それは――――




「薬の副作用で、髪の毛が減少していく娘さんに対する心遣い」



 オレは言った。

 本人に向かって……オレが、オレたち『幻想現象対策部隊』が導き出した結論を、ストレートに、包み隠さず言ってのけた。

「それが……あなたが、【坊主頭の幻想プラシーボ】を発症した理由ですね?」
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