おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

235:まさかの繋がり

 ノーナの両脇に黒い影が舞い降りる。
 いずれも黒衣を身に纏っていて分かりづらいが、線の細さや骨格からなんとなく女性なのではないかと思う。

 ノーナから見て左側にいる女性は腰の曲がり方や僅かに出た素肌から、年老いた女性であることが分かる。派手さのない黒いロングワンピースにストールを頭から肩にかけて巻いている。

 右側にいる女性は……どちらかといえば“少女”といった見た目で、黒いことに変わりはないが、ゴシックロリィタのようなフリルが多く、他の二人よりは丈が短いドレスだ。髪型はツインテールにドレスと統一感のあるヘッドドレスで飾られている。

「この者たちはわたくしの“妹たち”ですわ。我が君」
「妹たち……?」

 姉妹ではなく? 少女がノーナの妹なのは理解できるが、明らかにノーナより年上そうな見た目の者も妹なのだろうか? と、首を捻っていると、年老いた女性が楽しそうに肩を震わせる。

「ホホホ、こんな身なりですが、間違いなくこの婆は姉上の妹ですよ。トウノ様」
「そうなのか…………え?」

 ……この声に、この笑い方……なんだか覚えがあるよう、な……。

「まさか……『レディ・ブルイヤールの図書館』の……」

 老女か? と思いつつも、信じられない気持ちでストールで見づらい顔をよく見る。……本当に老女だ。

「ホホホ。彼女の図書館にいるのは分け身ですけれど、ご無沙汰しておりますトウノ様」
「上の妹、妖糸機女はためのデキマですわ」
「ええ……」
「……」

 僕だけでなく、老女……デキマのことを知っているバラムも呆気にとられた顔をしている。

 それにしても……。

「指輪の反応が図書館では無かったから、関係があるとは全く思わなかったな……」
「ホホホ、よく知っていればこそ可能というもの。姉上は姉妹で一番悪戯好きですから」
「人聞きの悪いことを我が君に吹き込むのはよしなさい。ディー」
「ホホホ」

 妹というが、年の功的な余裕をノーナとのやり取りに感じる。

 というか。

「……シルヴァはデキマのことを知っていたのか?」

 指輪はともかくシルヴァもデキマには何の反応もしていなかったように思える。
 
『む? 知らなかったであるぞ』
「えっ……ノーナとは知己だったんだろう?」
『彼奴とは友であったが、彼奴の妹御とはほとんど顔を合わせたことが無かったである。このように三姉妹が揃うことは封印前でもほとんど無かったことであるからな!』
「そ、そうなのか」

 シルヴァもデキマを知らなかったという予想外の答えだった。どうやらこの状況はかなりレアらしい。

 それにしてもノーナにデキマに三姉妹……だいぶ、そのままだな……やっぱり運命の女神なんじゃないか……。そうすると下の妹の名前も予想がつく。

「姉様たちだけ主様と遊んでるなんてズルい」

 今まで無表情で黙っていた少女が心なしかむくれながら言う。

「こちらが下の妹、妖糸裁女たちめのモルタですわ」
「よろしく、主様」

 そう言うと、少女……モルタが可憐にドレスの両端をちょんと上げる。

「わたくしやディーと違って貴女は今まで全く動けませんでしたからね。これから存分に命の長さを誤魔化した詐称者たちの糸を裁つといいでしょう」
「本当に……私が動けないのをいいことに誤魔化している連中が多過ぎる……早く清算させて始末しないと……」

 モルタがこめかみに血管を浮かせながら、手にはモルタ自身の胴体ほどはあろうかという鋭利な糸切り鋏が握られ、ジャキジャキと物騒な音を鳴らしている。

 ……名前と運命の女神、いや三女神の権能でいくと、ノーナが運命を紡ぐ『現在』、デキマが運命を割り当てる『過去』、モルタが運命を断つ『未来』なのだろう。
 それでいうと、今までデキマ、ノーナ、モルタの順で身動きが取りづらかったというのなら、闇の世界の封印はそれだけにとどまらず、アルスト全体の『未来』が失われていた状態だったのかもしれない。

 そう考えると、早めに解放出来て良かった……のか?

「我が君、ディーは世界のありとあらゆる『知識の蔵』に分け身を置いているので我が君のこの世界での望みに適うかと」
「……えっ、レディ・ブルイヤールの図書館以外にもいるのか?」
「ホホホ、婆はあらゆる記録と過去が集まる場所におります。王都の図書館に王城や他の大陸の書庫に至るまで」

 デキマの魅力的な言葉に喉が鳴る。

「……デキマに頼めば、僕も利用出来ると?」
「ホホホ、我々を解放してくださったトウノ様の願いとあらば」
「っ!」

 ありとあらゆる書庫の膨大な本の山を幻視して胸が高鳴る。

 ……そこでふと思った。
 ネーヴェクリフは元々僕とデキマを引き合わせようとしていたのではないかと。彼女の能力だけで僕のゲーム開始時の望みはほぼ完全に満たせるし、彼女と交流を深めた先でもいつか闇の世界に至ることになったのではないかと。

 ……まぁ、結局は彼女の力を借りることが出来るようになったようなのだし良しとしよう。

「モルタはあらゆる命の終わりの時を知ることが出来、裁つことが出来ます。……我が君はあまり利用されないでしょうが、我が君に仇なす者共の撃滅や血を奉じるのに力となってくれるでしょう」
「撃滅って……」

 よほど縁のある人たちが傷つけられない限りは誰に敵視されてもそんなに興味はないので、むしろあまりモルタの力が必要にならないようにしたい。

「主様はそんなに戦わない?」
「というより戦えない、が正しい」
「それはちょっとつまらない」

 モルタがもの憂げな表情をしつつも、手慰みなのか巨大な糸切り鋏の連結を解いては連結、解いては連結と、ガッチャンガッチャンとしている。……連結を解くと二振りの刃物になり双剣のような武器になるようだ。

「我が君以外のあの方の落胤たちは皆、戦闘と世界へ広がることを大変好んでいますから、貴女は詐称者を刈り取りがてら落胤たちと世界を見てくるといいでしょう。ああ、彼らの前では彼らを『異人』と呼ぶのですよ」
「ふぅん……そうだね。そうする」

 そう言うとモルタが影にとけて姿を消す。

「ホホホ、では婆もこれで。ご用があればいつでもお呼びください」

 続いてデキマも姿を消した。

 …………改めて、このちょっとの時間で分かったノーナたち三姉妹の情報を整理すると、本当にこれで何故神ではないのか不思議すぎる。
 モルタは死神的な側面もありそうだし、デキマはファンタジーものでよくあるアカシックレコード的な力も持っていそうな気がする。ノーナは……この分だと『時』関連が怪しいだろうか。まだ確証はないが。

「やはり……まだまだ報酬は足りませんね……ふむ……では、我が君のこちらでの居城を造りましょう」
「……えっ、はい?」

 僕が思考の海に沈んでいると、ノーナがまた唐突に理解し難いことを言い出す。

「いや、僕はデキマの力をいつでも借りれるだけでも十分なんだが……」
「いいえ、闇の同胞も無法者が多いですから、我が君の威容を知らしめる象徴が必要ですわ」
「別に知らしめなくても……」

 いい、という僕の弱い制止は、ウキウキとした重低音の渋い声にかき消される。

『おお! 良いであるな! 我も一枚噛ませるである! 異人たちから刺激を受けた構想がいろいろとあるのでな』
「え゛……」

 これまでのシルヴァのセンスでいうと、ネオンがチカチカと施されたテーマパークのようになる未来が見える。

「あのおかしな飾りは却下ですが、意見は聞きましょう。では行きますよ」
『む、それは残念であるなぁ。しかし、他にもアイディアはあるであるぞ!』
「ちょっと、待っ……」

 止める間もなく二人は月の向こう側へと去っていってしまった。なにか建てるにしてもほどほどにして欲しいと念じる。一応、盟友の絆から伝わってはいるはずだ。

 ……汲んでくれるかは分からないが。

 『ラスダン』とか不穏な単語が聞こえてきた気がするが……。



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ラスダン → ラストダンジョン
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