【書籍化&完結】おそらく、僕だけ違うゲームをしている。【2月中頃発売】

鵩 ジェフロイ

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本編

236:触発されて

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 ……まぁ、そこに僕がいるかどうかが重要なのではなく、あくまで対外的な象徴が必要というのはある程度理解できなくもないので、二人の考えるようにしてもらおう。

 気づけば、この場に僕とバラムしかいなくなってしまいどうしようか……と思っていたところに、既知の香りが鼻腔をかすめる。

「なんだ、神にはならなかったのか」
「……どうして、ここに……」

 眼前に流れてきた紫煙をたどって振り返ると、白髪混じりのグレーヘアを後ろに流し、年を重ねた顔には大きな傷が残る、威厳を漲らせた女性が立っていた。
 ユヌの傭兵ギルドと職業ギルドのギルドマスター、ゾーイだ。

 ……こう言ってはなんだが、現時点では並の者ではこちらには来られないはずだ。……並ではない、ということか。

 傍にいるバラムも、僅かに緊張感を帯びる。

「なにを不思議そうな顔をしている?」

 暗い灰色の目が愉快そうに眇められる。

「いや、ここは解放したばかりだし、そう簡単に来ることができない場所なのにどうしてここに、と思って……」
「ふむ……それは私もこちらの世界に縁があり、多少なりとも世界を渡る術を心得ているからだ。これで満足か?」
「縁……?」
「気になるなら、その上等な『眼』で視てみるといい」
「む……」

 あまり知己のある人たちは情報を視ないようにしていたのだが、本人からそう言われたのでほんの少しだけ視てみる。


名前:ゾーイ・アリシス・ネフェロマ
年齢:342
性別:女
種族:真貴人族
職業:古代魔法使い、傭兵ギルドマスター:ユヌ、職業ギルドマスター:ユヌ、ギルド連盟大幹部
称号:【灰の厄】【ネフェロマ王家正統継承者】


「…………うぅん……」

 また、情報量の多い……。

 ……ま、まぁ、全体的にもの凄く高貴な出自なのであろうことは伝わってくる。
 しかし、これだけでは何故、闇の世界に縁があるのかが分からない。……何か分かりそうな気がする称号を注視してみる。


【ネフェロマ王家正統継承者】
古き時代に闇の世界で栄えていたネフェロマ王国王家の正統なる血筋である証。


「……なるほど。こちらにも人の暮らす国があったのか」
「そういうことだ。とはいえ、とっくに守るべき領土も民も存在しない、血を繋いでいるだけの称号だがな。それに私もこちらに来たのは生まれて初めてだ」

 そう言いながらも、とくに思うところはないと言った様子で紫煙を吐き出す。

「立場としてはギルド連盟の代表として来た。こちらでもギルドを配備する為にトウノ、お前の許しを得たと証明する書状が欲しい」
「うぅん……いろいろ聞きたいことはあるが、こちらでもギルドを展開するのか?」

 僕の問いにゾーイが艶やかに笑う。

「当たり前だ。『我ら』は『国』を持たぬが故に足を運べる場所ならば、どこであろうとも拠点と人を置き、営み、情報を共有し、連携する。その繋がりの網こそが『我ら』であり『国』だ」
「……ふぅむ」

 結局……国も民も持っているんじゃないか。しかも、一番滅ぼすのも滅びるのも困難な形で。

「まぁ……ギルド連盟の理念は分かったが、何故ギルド配備の許しを僕に乞うのだろうか?」

 別に僕にそんな権限はないと思うんだが。

「相変わらず見通しが甘いぞ、トウノ。お前は確かに神ではないが、神を創り、管理することができ、意志疎通が可能な者がまつりあげられないわけがないだろう」
「……ぐ」

 図星を突かれ、呻いてしまう。というか、なんで僕が神を創ったことや管理者になったことを知っているんだ。

「周りもお前の権威を高めようと画策しているのではないか?」
「ぐぅっ……!」

 さらに、追撃を受けてダメージを負う。

「諦めろ。望まずとも傅かれる“星”に生まれたのだ。お前も私も」
「うぅ……」

 僕は完全に精神的にノックアウトされ、肩をガックリと落とす。ゾーイにここまではっきり言われると誤魔化す逃げ道が絶たれたような気になる。

 ……僕を慰めるように大きな手がうなじを撫でてくれる。

「故に、こちらでギルドの網を広げるにはお前の許可があれば一番話が早い。安心しろ、ジェフリーが書状の下書きと契約書を用意している」

 そう言って懐から円筒状の入れ物を出すとこちらに放られる。
 急なことに反応出来ずにいると、バラムがしっかりキャッチしてくれた。

「それをそのまま写すか、変えたい部分があればジェフリーと直接話し合え。この件の契約と許可証の確認は奴に全権を委任している。最終的な契約書と許可証も奴へ送れ」
「……分かった。そうしよう」
「よし」

 ジェフのことだから、さぞかし双方に利があるように見える絶妙なラインの契約書なのだろう。……油断は出来ないので、一応ちゃんと目を通してノーナとシルヴァにも相談するが。……デキマでもいいかもしれない。

 許可証の発行を受けたことで、ギルド指名クエスト依頼の通知が来る。

 ……一応、これもクエスト扱いなんだな。

「トウノ」
「うん?」
「お前はそれほど重くは捉えていないのだろうが……よくやった。すべての意志ある者は再び安らぎを拝領出来るだろう」
「…………ああ」

 ……確かに、これで月から『慰め』も『安らぎ』も再び皆に与えられることだろう。……こればかりは、全ての意志ある者たちが寿ことほぐことなのかもしれない。

「さて、用も済んだ。私は久しぶりの逢瀬を楽しむ。さらばだ」
「ああ。…………逢瀬?」

 颯爽と身を翻し、去っていくゾーイの隣に、先ほどまで影も形も無かったはずの、長い絹のような白髪の淑女がしなだれかかっていた。

 ゾーイも彼女の細い腰を抱き、淑女を甘く見つめ、自らの顔を寄せ────。

 ……いつの間にかたちこめていた霧の中に、ゾーイと淑女は消えていった。

「……帰るか。僕たちも」
「……だな」

 ……なんだか見せつけられてしまい、僕もバラムと触れ合いたくなってきた。思えば、月の修復に何日もかかってしまったので、バラムと通じ合った時の交わり以降、触れ合えていない。

「いい加減、限界だ」
「うわ」

 そう言うと、バラムが僕を横抱きに抱え上げる。

「……うん、僕も」

 同じ気持ちだったのが嬉しくて、バラムの首に抱きつく。
 すると、もの凄い速さで景色が過ぎ、月の前へと移動していた。

 そして二人で月に触れ、僕の世界へと転移した。


「ん……んむ、ふ……うん……」

 ちゅっ、ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅっ……

 森を抜け、家の扉をくぐる間も惜しく、僕たちはベッドに沈みこむまでの間も深く口づけをしていた。

「ん……は、ぁ……バラム……」
「は、ツグハル……」

 お互いの名を呼び、呼ばれると、胸の奥が震え、バラムのそれと共鳴して得もいわれぬ快楽が背筋を駆け抜ける。

 僕たちを隔てるものをなくしたくて、気づけばお互いに一糸纏わぬ姿になって、肌を重ねあっていた。

 暗闇の中で、体温がとけあって境界が曖昧になっていく。それがたまらなく……。

「ぁ、気持ちいい……んん……」
「……ああ、気持ちいい」

 ドロドロに甘くとけあった先で、大きな熱に貫かれ、身体の制御が僕の手を完全に離れる。バラムに揺さぶられるままにただ、身体を震わせ、声をあげることしか出来なくなってしまう。

 それでも、愛しい存在と繋がっているという実感にたまらなく心が満たされて、溢れて、また頬を濡らした。

 激しい動きとは裏腹に、赤みのある錆色の目が優しく細められて僕の頬を舐める。

 顔を這う熱い舌を唇で追い、なんとか捕まえてちゅうと吸う。

「あぅっ……!」

 その直後、僕を貫く熱の質量が増して、お腹を抉る衝撃に身体が跳ねる。

「っ! お前っ」
「んんっ! ぁ、ひっ、あっ、あ、あっ」

 ずぶっ、ずぶっ、ぐちゃっ、ぬぢゅっ、ぬぶっ……!

 バラムにガッチリと抱えられ、激しく突き上げられる。

 嵐のような快楽に、一気に限界に向かって追い詰められ────。

「バラ、ム、あ、もう、イッ……あぁぁっ!」
「ツグハルっ……ぐっ……!」

 最奥を穿たれ、意識が、僕の中心が、弾ける。中に勢いよく精が吐き出されるのを感じ、それにまた身体が震える。

 バラムが僕をぎゅうぎゅうに抱きしめながら、ぐっ、ぐっ、と何度も腰を押しつけてくるのが……なんだか、くすぐったくて目の前の頭を抱えて、唇を落とす。

「はぁ……」

 現実ではこんなことはたぶん無いと思うが、バラムの精を受けてさらに身体の疼きが増す。中の熱もすでに固さを取り戻している。


 再びとけあう僕たちを暗闇が優しく覆い隠していた。


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