そらに光る星

もやしのひげ根

文字の大きさ
4 / 19

4.名前と後悔

しおりを挟む
 ――ガチャ。

 玄関のドアを開けると、そこには先ほど見えたとおり、黒髪の少女が俯いて立っていた。
 背は150センチくらいだろうか。おかげで顔が全く見えない。

「何か用ですか」

 誰だか予想は付いているが、俺はなるべく冷たい声で問う。

「あ、あの……」

 消え入るようなか細い声。
 俺は彼女の言葉を待つ。


「わ、わたし、お父さんにここへ行けって言われて……それで、今日からここに住むことになって……」


 ハァ……。

「まあいいや。とりあえず入って」



 時刻はまだ17時過ぎ。
 このまま玄関先で話して誰かに見られてあらぬ噂をたてられてもかなわん。

 背を向けてリビングへ向かうと、後ろから

「お、おじゃまします……」

 という小さな声と共に少女が入ってくる。

 彼女はリビングまで来ると、立ったままモジモジしている。

「座れば?」

 と自分の隣を視線で指す。大きめのソファなので、2人座っても少し余裕がある。


 俺としっかりと距離をとりつつおずおずと腰をおろすのを見届けると、テーブルに広げたままの手紙を見つつ俺は口を開いた。

「名前は?」

「か、神楽坂・・・あかりです」

 名前の部分だけ、さらに声が小さくなった。聞き取るのがやっとなくらいだ。

「俺のことは聞いてるな?」

 隣を見ると、小さく首を縦に動かした。

「で、だ。お前はどうしたいんだ?」

 あかりは俯いたまま黙っている。言葉が曖昧だったか。

「聞き方を変えよう。お前はここに住みたいのか?」

「……や、やっぱり、迷惑ですか?」

「ああ、迷惑だ。ついでに言うと、俺はお前みたいのが嫌いだ」

 ハッキリと言ってやると、彼女はビクッと体を震わせる。

「じゃ、じゃあ……私……」

 涙声になっているのは気のせいではないんだろうな。彼女がおそらく立ち上がろうとしたところで言葉を続ける。

「だけど、出て行かれて警察沙汰にでもなったらもっと迷惑だ」

 あかりはその体勢のまま動きを止める。

「どうせ行くアテなんてないんだろ?」

「……」

 あかりは黙ったまま動かない。そもそも行くアテがあったらここへ来てないだろうしな。



 と、手紙と一緒にテーブルに置いたままのスマホに通知が来ているのに気づいた。スマホを手にとると、あの男からメッセージが来ていた。


『その子の母親は、仕事をしながら女手ひとつで育ててきた』

『その子がイジメられているのを知り、後悔して参ってしまっている。俺はそれを見ていられなかった』

『相談に乗ったはいいが、俺にはどうすることもできなかった』

『どうか、その子を助けてやってほしい』

『荷物は土曜日に届く。生活費ももちろん振り込む』

『迷惑をかけて本当にすまない』




 そんな内容が送られてきていた。俺はその内容に引っ掛かりを覚えた。





「なぁ、なんでイジメられてたんだ?」

 単刀直入にその問いを発した瞬間、先ほどよりも大きく体を震わせた。


「……もしかして、名前のことなんじゃないか?」

 あかりは答える代わりに、嗚咽を漏らして泣き出してしまう。やっぱりか。


 手紙にあった彼女の名前は、神楽坂 星。『星』と書いて『あかり』と読むらしい。

 名乗る時に名前の部分だけさらに声が小さかったこと、そして彼女の母親の後悔。気づくのは難しいことではなかった。

 もちろん、イジメられたのはそれだけでなく、彼女の性格等もあるだろうが、名前というのはその人を表すモノ。
 珍しい名前はバカにされやすいというのも、



 なるほど、こいつも親に狂わされた一人というわけか。
 ……だからといって同情はしないけどな。


「お前はこのままでいいのか?そんなんじゃ学校を移ったってまたイジメられる可能性はあるんだぞ?」

 彼女はいまだ泣き止まぬまま、首を横に振る。

 俺は軽く息を吐き出し、彼女に告げる。

「……ここに住まわせてやってもいいが、条件がある」

 彼女はピクっと小さく反応した。




「お前の意思を言葉でちゃんと示せ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

処理中です...