歌を忘れたオートマタ

海棠 楓

文字の大きさ
23 / 34

23

しおりを挟む
「俺はお前の歌が聴きたい……いや、違うな。自由に歌えるようになって欲しい」
 心にある気持ちを正直に告げた。シャンテの瞳が、ほんのわずかに揺れたように見えた。
「お前が歌いたいって思うなら、何があっても、俺はそばにいる。もう歌う気がないなら、歌わなくていい。歌う自由・歌わない自由を取り戻して欲しいんだ」
「で、でも、また歌えなくなったらどうしよう、壊れたら捨てられる」
 シャンテの手がそっとロイの袖をつかんだ。その手はかすかに震えていた。静かになだめるように、しかし力強く、ロイの無骨な手はシャンテの冷たい手を握り返した。そしてひときわ大きく息を吸い込み、怖がる彼の肩を、強く引き寄せた。
「昔何を言われたかは知らない、けど俺は『いらない』なんて絶対言わない。たとえいつか歌えなくなったって捨てたりするもんか。俺は、ずっとお前の隣にいる」
「壊れたら何度だって直してやるよ!」
 それまで二人の様子を興味深そうに見守り、何やら懸命に記録していたガブも口を挟んだ。


 ぽたり、とシャンテの目から涙がこぼれた。そして、時間が止まったかのような静寂の中で彼はそっと、震える唇を開いた。
 一音目は、息のようにかすかだった。けれど次第に音を紡ぎ、確かな“歌”へと姿を変えていく。


 I’m not alone anymore
 In your light, I found my voice
 No longer singing for someone else
 But for myself, at last
 Because you’re here with me

 心から零れ出す、よろこびの歌。その旋律は、整備室の壁を震わせ、ロイとガブの胸を熱く打った。その声は、男の声でも女の声でもない。まるでどこにも属さない、空気の震えそのもののような――それでいて、芯のある、伸びやかな響き。それは真っ白なキャンバスに、一滴ずつ色がしみ込んでいくみたいに、聴く者の心を静かに染めていく。
 ​おそらくかつて誰かが学習させたのであろうその歌は、まさしく今歌われるに相応しいものであった。誰かに届かせるための祈りであり、ずっと胸の奥に秘めていた願いのような――。
 ロイは、息を呑んだ。言葉にできない何かが、胸を締めつけた。 
 
 歌い終えたシャンテは呪縛から解き放たれたように晴れ晴れしく、誇り高きヴォカノイドそのものであった。
 半ば放心状態でロイはひたすら拍手を送り、ガブは目頭を押さえている。そしてロイはシャンテの元に寄ると、彼の手をしっかりと握りしめた。​
「ありがとう、シャンテ。一緒に、前へ進もう」
 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

貧乏子爵のオメガ令息は、王子妃候補になりたくない

こたま 療養中
BL
山あいの田舎で、子爵とは名ばかりの殆ど農家な仲良し一家で育ったラリー。男オメガで貧乏子爵。このまま実家で生きていくつもりであったが。王から未婚の貴族オメガにはすべからく王子妃候補の選定のため王宮に集うようお達しが出た。行きたくないしお金も無い。辞退するよう手紙を書いたのに、近くに遠征している騎士団が帰る時、迎えに行って一緒に連れていくと連絡があった。断れないの?高貴なお嬢様にイジメられない?不安だらけのラリーを迎えに来たのは美丈夫な騎士のニールだった。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布
BL
執着ヤンデレ攻め×一途受け

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

処理中です...