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「俺はお前の歌が聴きたい……いや、違うな。自由に歌えるようになって欲しい」
心にある気持ちを正直に告げた。シャンテの瞳が、ほんのわずかに揺れたように見えた。
「お前が歌いたいって思うなら、何があっても、俺はそばにいる。もう歌う気がないなら、歌わなくていい。歌う自由・歌わない自由を取り戻して欲しいんだ」
「で、でも、また歌えなくなったらどうしよう、壊れたら捨てられる」
シャンテの手がそっとロイの袖をつかんだ。その手はかすかに震えていた。静かになだめるように、しかし力強く、ロイの無骨な手はシャンテの冷たい手を握り返した。そしてひときわ大きく息を吸い込み、怖がる彼の肩を、強く引き寄せた。
「昔何を言われたかは知らない、けど俺は『いらない』なんて絶対言わない。たとえいつか歌えなくなったって捨てたりするもんか。俺は、ずっとお前の隣にいる」
「壊れたら何度だって直してやるよ!」
それまで二人の様子を興味深そうに見守り、何やら懸命に記録していたガブも口を挟んだ。
ぽたり、とシャンテの目から涙がこぼれた。そして、時間が止まったかのような静寂の中で彼はそっと、震える唇を開いた。
一音目は、息のようにかすかだった。けれど次第に音を紡ぎ、確かな“歌”へと姿を変えていく。
I’m not alone anymore
In your light, I found my voice
No longer singing for someone else
But for myself, at last
Because you’re here with me
心から零れ出す、よろこびの歌。その旋律は、整備室の壁を震わせ、ロイとガブの胸を熱く打った。その声は、男の声でも女の声でもない。まるでどこにも属さない、空気の震えそのもののような――それでいて、芯のある、伸びやかな響き。それは真っ白なキャンバスに、一滴ずつ色がしみ込んでいくみたいに、聴く者の心を静かに染めていく。
おそらくかつて誰かが学習させたのであろうその歌は、まさしく今歌われるに相応しいものであった。誰かに届かせるための祈りであり、ずっと胸の奥に秘めていた願いのような――。
ロイは、息を呑んだ。言葉にできない何かが、胸を締めつけた。
歌い終えたシャンテは呪縛から解き放たれたように晴れ晴れしく、誇り高きヴォカノイドそのものであった。
半ば放心状態でロイはひたすら拍手を送り、ガブは目頭を押さえている。そしてロイはシャンテの元に寄ると、彼の手をしっかりと握りしめた。
「ありがとう、シャンテ。一緒に、前へ進もう」
心にある気持ちを正直に告げた。シャンテの瞳が、ほんのわずかに揺れたように見えた。
「お前が歌いたいって思うなら、何があっても、俺はそばにいる。もう歌う気がないなら、歌わなくていい。歌う自由・歌わない自由を取り戻して欲しいんだ」
「で、でも、また歌えなくなったらどうしよう、壊れたら捨てられる」
シャンテの手がそっとロイの袖をつかんだ。その手はかすかに震えていた。静かになだめるように、しかし力強く、ロイの無骨な手はシャンテの冷たい手を握り返した。そしてひときわ大きく息を吸い込み、怖がる彼の肩を、強く引き寄せた。
「昔何を言われたかは知らない、けど俺は『いらない』なんて絶対言わない。たとえいつか歌えなくなったって捨てたりするもんか。俺は、ずっとお前の隣にいる」
「壊れたら何度だって直してやるよ!」
それまで二人の様子を興味深そうに見守り、何やら懸命に記録していたガブも口を挟んだ。
ぽたり、とシャンテの目から涙がこぼれた。そして、時間が止まったかのような静寂の中で彼はそっと、震える唇を開いた。
一音目は、息のようにかすかだった。けれど次第に音を紡ぎ、確かな“歌”へと姿を変えていく。
I’m not alone anymore
In your light, I found my voice
No longer singing for someone else
But for myself, at last
Because you’re here with me
心から零れ出す、よろこびの歌。その旋律は、整備室の壁を震わせ、ロイとガブの胸を熱く打った。その声は、男の声でも女の声でもない。まるでどこにも属さない、空気の震えそのもののような――それでいて、芯のある、伸びやかな響き。それは真っ白なキャンバスに、一滴ずつ色がしみ込んでいくみたいに、聴く者の心を静かに染めていく。
おそらくかつて誰かが学習させたのであろうその歌は、まさしく今歌われるに相応しいものであった。誰かに届かせるための祈りであり、ずっと胸の奥に秘めていた願いのような――。
ロイは、息を呑んだ。言葉にできない何かが、胸を締めつけた。
歌い終えたシャンテは呪縛から解き放たれたように晴れ晴れしく、誇り高きヴォカノイドそのものであった。
半ば放心状態でロイはひたすら拍手を送り、ガブは目頭を押さえている。そしてロイはシャンテの元に寄ると、彼の手をしっかりと握りしめた。
「ありがとう、シャンテ。一緒に、前へ進もう」
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