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大晦日のフロントは、いつもより少しだけ騒がしかった。チェックインの列、タクシーの手配を急かす声、年越しの瞬間をどこで迎えるかを相談する家族連れ。夏場が集客のメインである海辺のリゾートホテルであることを考えれば、この時期に賑わってくれるのは大いに結構なことである。
そんな中、時計は確実に零時へ向かって進んでいる。
アヤは一つひとつの対応を、淡々と、しかし丁寧にこなしていった。
「ねえ、部屋を替えてもらえません?」
声をかけてきたのは、苛立ちを隠そうともしない中年の客だった。
聞けば、眺望が思っていたのと違う、説明が足りない、今からでも希望の眺望の部屋に替えろという。年越しイベントを控えたこの時間帯、有り難くも空室はない。
アヤは即座に状況を判断し、言葉を選ぶ。
「申し訳ございません。本日は満室となっておりまして――」
説明を終える前に舌打ちが返ってくるが、アヤは表情を変えない。アヤの感情の乏しさ・感受性の低さが逆に発揮される場面である。
「ですが、こちらのお部屋でできる限り快適にお過ごしいただけるよう、追加のご提案は可能です」
表情も、声の調子も、姿勢も、『客を精一杯もてなすホテルマン』を一切崩さぬまま、対応を続ける。
数分後、客は不満を抱えたままも引き下がった。背中を見送りながら、アヤは小さく息を吐いた。
のもつかの間、今度は
「あの~この辺で年越しそばってどこで食べられますか~?」
延びしたそんな声をかけられた。若い男女のカップルだ。
「年越しそばでしたら館内でもご用意いたしますし、地元の名店をお探しでしたら――」
全ての客に平等に接しているようでいて、先ほどの客への態度よりも表情や声色に柔らかさと朗らかさが添えていた。
振り返ればまだやや不慣れなスタッフが危うく客を怒らせそうになっていたため慌ててフォローを入れたり、酔った客を丁寧にあしらったりと、対応に追われた。
そうこうしているうちに、あっという間に年越し直前となった。
フロント前のロビーでは大勢の人が集まりざわめいている。アヤは時計を見るとスタッフに合図し、カウントダウンをスタートさせた。
0:00をまたいだ瞬間、仕掛けてあったクラッカーやバルーンが飛び出し、厳かなたたずまいだったロビーは一瞬にして派手でポップなお祭り騒ぎの色に変わった。ホテルからは宿泊客に甘酒や餅を振る舞い、そこにいる人全てが笑顔だ。
ロビーのみならず、館内のあちらこちらで、歓声が上がっていた。
「あけましておめでとうございます!」
スタッフから客へはもちろん、スタッフたちも、戦士が健闘をたたえ合うように口々に交わす。アヤもスタッフはもちろん、浮かれた客からも数人から挨拶され、目を細め会釈した。そして淡々と次の客へと視線を向ける。
たくさんの『おめでとう』が飛び交う瞬間。たくさんの人々が、大切な人・大事な仲間と新年を祝い合っている。
そんな光景を、アヤはフロント越しに見ていた。自分にも年が明けたら帰る場所があることを、ともに新年を祝える人がいることを、確かに感じながら。
玄関の鍵を開けるがちゃりという音が、深夜にはやけに大きく響く。アヤは一瞬だけ動きを止め、それからなるべく音が鳴らないよう細心の注意を払ってドアを閉めると、リビングから微かに明かりが漏れていた。同時に、鼻先をくすぐる匂い。
だしの香り。
今がもう正月であることを思い出させた。
そんな中、時計は確実に零時へ向かって進んでいる。
アヤは一つひとつの対応を、淡々と、しかし丁寧にこなしていった。
「ねえ、部屋を替えてもらえません?」
声をかけてきたのは、苛立ちを隠そうともしない中年の客だった。
聞けば、眺望が思っていたのと違う、説明が足りない、今からでも希望の眺望の部屋に替えろという。年越しイベントを控えたこの時間帯、有り難くも空室はない。
アヤは即座に状況を判断し、言葉を選ぶ。
「申し訳ございません。本日は満室となっておりまして――」
説明を終える前に舌打ちが返ってくるが、アヤは表情を変えない。アヤの感情の乏しさ・感受性の低さが逆に発揮される場面である。
「ですが、こちらのお部屋でできる限り快適にお過ごしいただけるよう、追加のご提案は可能です」
表情も、声の調子も、姿勢も、『客を精一杯もてなすホテルマン』を一切崩さぬまま、対応を続ける。
数分後、客は不満を抱えたままも引き下がった。背中を見送りながら、アヤは小さく息を吐いた。
のもつかの間、今度は
「あの~この辺で年越しそばってどこで食べられますか~?」
延びしたそんな声をかけられた。若い男女のカップルだ。
「年越しそばでしたら館内でもご用意いたしますし、地元の名店をお探しでしたら――」
全ての客に平等に接しているようでいて、先ほどの客への態度よりも表情や声色に柔らかさと朗らかさが添えていた。
振り返ればまだやや不慣れなスタッフが危うく客を怒らせそうになっていたため慌ててフォローを入れたり、酔った客を丁寧にあしらったりと、対応に追われた。
そうこうしているうちに、あっという間に年越し直前となった。
フロント前のロビーでは大勢の人が集まりざわめいている。アヤは時計を見るとスタッフに合図し、カウントダウンをスタートさせた。
0:00をまたいだ瞬間、仕掛けてあったクラッカーやバルーンが飛び出し、厳かなたたずまいだったロビーは一瞬にして派手でポップなお祭り騒ぎの色に変わった。ホテルからは宿泊客に甘酒や餅を振る舞い、そこにいる人全てが笑顔だ。
ロビーのみならず、館内のあちらこちらで、歓声が上がっていた。
「あけましておめでとうございます!」
スタッフから客へはもちろん、スタッフたちも、戦士が健闘をたたえ合うように口々に交わす。アヤもスタッフはもちろん、浮かれた客からも数人から挨拶され、目を細め会釈した。そして淡々と次の客へと視線を向ける。
たくさんの『おめでとう』が飛び交う瞬間。たくさんの人々が、大切な人・大事な仲間と新年を祝い合っている。
そんな光景を、アヤはフロント越しに見ていた。自分にも年が明けたら帰る場所があることを、ともに新年を祝える人がいることを、確かに感じながら。
玄関の鍵を開けるがちゃりという音が、深夜にはやけに大きく響く。アヤは一瞬だけ動きを止め、それからなるべく音が鳴らないよう細心の注意を払ってドアを閉めると、リビングから微かに明かりが漏れていた。同時に、鼻先をくすぐる匂い。
だしの香り。
今がもう正月であることを思い出させた。
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