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第一章 契約ではなく、約束しましょう

ジェイドさんにお願いします!

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ああ、やってしまったわ。

 無知な自分のせいで、契約解除できないようなやり方でジェイドさんを私の奴隷にしてしまったんだ。
 人を売買するのだからもっと責任感を持って、よく勉強してから契約しないといけないのだったわ。


 私は社会経験のなさから、非常に甘い判断をしてしまったのだと後悔した。
 けれど、後悔は先に立たず。

 それならば、自分のしてしまった行動に、これから責任を持たなくっちゃ!
 いつまでもクヨクヨしてなんかいられない。

 だって、私はせっかく健康な体にしてもらって、素敵な獣人さんに会わせてもらったんだもの。
 この国の獣人さんは奴隷で、私が開放してもジェイドさんが自由になれない制度なのなら。

 私、改めてジェイドさんに、私の奴隷になってもらえないか頼んでみよう!

 そう思い直した私は、ジェイドさんに向かって深々と頭を下げた。

「ジェイドさん、本当にごめんなさい。私の無知のせいで、あなたを私に縛ってしまったのですよね。ですがこうなってしまったのも何かのご縁だと思うんです。だからジェイドさん、私、改めてあなたに申し込みます。どうか、私の奴隷になっていただけませんか? 今は無一文で甲斐性のない私ですが、主人としてあなたを守り、大切にすると誓いますから」

 私が謝罪し、私付きの奴隷さんになってもらいたいとお願いしたところ、ジェイドさんはポカンと口を開いて固まっていた。......そりゃそうだよね、もう、断る術のない彼に、お願いしたって意味ないもの。だけどそれでも、私の気持ちの問題というか、決意表明と言うか。一応彼にも承諾して欲しいなっていう希望もあったりして言ったんだけど。


 しばらく放心状態のようだったジェイドさんが、私のお願いには答えず聞き返してきた。

「......は? 無一文? 甲斐性がない? ......どういうことだ??」

 私は痛いところを聞き返されて、申し訳ない気持ちで答えた。

「はい。言葉の通りです。詳しく言いますと、住むところもないし、着るものもないです。それどころか今日の夕食の当てもまだありません。そしてもちろん頼れる身寄りもおりません」

「............マジか」

「でも! 絶対に、ジェイドさんにひもじい思いはさせません! 私はジェイドさんの主人ですから、なんとしてでも食事は手に入れます。しばらくは野宿になるかもですが、働いてお金が入ったら、ちゃんと住むところも借りてジェイドさんが安心安全に暮らせるようにします。 だからどうか、私と一緒にいても良いって言ってくれませんか......?」

 私が力説して懇願すると、ジェイドさんは困ったような表情(に見える)で呟いた。

「あんたの言うことは、言葉は分かるんだが話が全然理解できねえ」

「舞です! 私のことはまいって呼び捨ててください!」

「......なんで奴隷の俺がさん付けで呼ばれてんのに、主のあんたが呼び捨てなんだよ。ホント話が全然見えねえ」

「だって、ジェイドさんは私より年上ですよね? 年上の人に〝さん〟をつけるのは当然のことでしょう?」

「............」

 なぜかジェイドさんが黙りこくってしまった。

 ......やっぱり私みたいな女の奴隷になるのが嫌なんだろうか?


 そこで私はハッと閃いた。


 ーーそうよ、人に大事なお願いごとをするのに、手ぶらなんて失礼よね!

「ジェイドさん!」

「......なんだ」

「ちょっとそこで待っててくれますか? すぐに戻って来ますから!」

 私は彼の返事も確認しないで、市場の方へと走って行った。





「おばさん! 売り物としてはダメだけど、まだ食べられるような果物があったらタダで分けてもらえませんか?」

 私は先ほどパイナップルジュースを買ったお店のおばさんに声をかけた。

「おやおや。ジュースを買ってくれたお嬢ちゃん。こんな時間なのに、まだ帰ってなかったのかい?」

 おばさんは、そう言った後、微笑んで続けた。

「お嬢ちゃんだろ、熊の獣人を買ったのは」

「え、なんで知ってるんですか?」

 おばさんに掛けられた言葉に驚いて、私は聞き返した。

「お客から聞いたんだよ。前から柄の悪い金物屋が、熊の奴隷を虐待して楽しんでいたのは有名な話でね。みんな可哀想だとは思っていたんだがね、あんな熊そのものの獣人は恐ろしくて誰も助けることができなくてねぇ。だから小さな少女があの熊獣人を買ったって、ちょっとした噂になったってわけさ」

 みんなあの場から消えたように見えていたけど、遠巻きに見ていたのかしら。ーーそれにしても、ジェイドさんはあんなにかっこ良くて可愛らしいのに、なんで恐ろしいなんて言うのかしら?

 私が考え事をしているうちに、おばさんが自分の店以外の店主にも声をかけてくれた。なので思ったよりたくさんの食べ物を分けてもらうことができた。

「サービスは今日限りだよ。 あの奴隷に食べさせてやるんだろ? いつもは残り物は、自分たちの奴隷の餌にしているからあげられないんだ。だけどお嬢ちゃんの勇気に敬意を表して、みんなが分けてくれたんだからね」

「あ、ありがとうございます! このご恩は決して忘れません!」

 私はお店の人たちの優しさに感激しながらあちこちに頭を下げて回った。
 みんななぜか、私に恐縮していたけどなんでかな?


 熊の獣人はたくさん食べるだろうからと、両手に抱えるほどの食べ物を持たせてもらい、私はよたよたしながらジェイドさんの元に戻った。

「ジェイドさん、私からのプレゼントです! 今はこれしか用意できないけれど、今後はもっと頑張って、美味しいものを食べさせてあげられるよう頑張ります。だからどうか、私と一緒に居てもいいって言ってくれませんか?」

 私はもらった食料を、全てジェイドさんに捧げてもう一度お願いした。


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