健康ですな!

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健康ですな!

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『健康ですな!』

世の中には、病気で悩む人が多いものですが――
まれに、「健康すぎて悩む」なんていう、奇特な人もおります。

このお爺さんがそうです。

年の頃は喜寿をとうに越えておりますが、背筋はしゃんと伸び、歯は全部自前。
朝は五時に起きて散歩十キロ。帰ってきては庭の草取り、昼には腕立て百回。
夜は九時に寝て、朝まで一度も起きません。

本人いわく、

「近所のじいさんばあさんは、ここが痛い、あそこが悪いと不健康自慢!
 わしゃ何で病気になれんのかねえ」

――と、そんなことを真剣に嘆いているしまつ。

ある日、意を決して町の病院へ行きました。

「先生、実はわたくし、ちょっと具合が……」
「どこが悪いんです?」
「いや、悪いところがないんです」
「……はい?」
「みんな腰が痛いとか、血圧が高いとか言うのに、わしだけピンピンしてる。
 生まれてこの方、風邪一つひかず健康すぎてちょいと不安でしてな。
 これは、何かおかしいのではないかと」

先生、しばらく黙って爺さんを見ていましたが、やがてうなずきました。

「なるほど。では、一通り調べてみましょう」

まずは聴診器をあてます。

「ふむ……心臓、実に快調。呼吸音も澄みきっている。――健康ですな!」
「そうでしょ!」

次に血液検査。少し時間をおいて結果を見た先生は、うなり声を上げます。

「コレステロールも血糖も完璧。肝臓も腎臓も理想的な数値。――健康ですな!」
「そうでしょ!」

最後に尿検査。先生が紙をかざして光に透かして見ます。

「うん、これはもう、黄金色の芸術品です。――健康ですな!」
「そうでしょ!」

三度繰り返せば、さすがの先生も笑ってしまいました。

そして言いました。

「お爺さん、あなた、どこも悪いところがありませんね」
「それがいかんのです!」
「いかん?」
「他の老人は薬を飲んだり杖をついたりしてるのに、わしだけ朝から晩まで元気。
 なんだか仲間外れみたいで……」
「はあ……」

先生、腕を組んでしばらく考え、やがて真顔で言いました。

「ではこうしましょう――病名を申し上げます」
「おお、何かありましたか」
「あなたは、“オイ・シラーズ”ですね」
「なんですかそれは!」
「健康すぎて老化が起こらない、珍しいタイプの病です」
「そ、そんな病気が……」
「今の医学書には載ってません。あなたが第一号です」
「光栄なのか、なんなのか……」

看護師がそっと口をはさみます。
「先生、それ治療法は?」
「ありません。放っておくと、百歳を越えるでしょう」
「それ、治らなくてもいいんじゃ……」

爺さん、しばし黙って天井を見上げ、ぽつりと。

「先生、わし、病気になりたくて来たんじゃが……
 どうやら“老化しない”という病気にかかったようですな」

先生、ニヤリと笑って言いました。
「大丈夫、安心してください。百二十歳は越えませんから」

病院を出た爺さん、いつもの道をいつも通りに歩いて帰りました。
けれど、その足取りは、どこか誇らしげ。

「わしは“オイ・シラーズ”だ」と、胸を張って。

いやはや、世の中には――
治せないほど健康な人も、いるもんでございますな。
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