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第六話 罪の記憶
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幼くして即位した皇帝カリストは皇帝とは名ばかりの傀儡で、ほとんどの実権を持っては居なかった。
それはその皇帝に相手が都合よくあてがわれた前世の私、コルディリネも同じようなものだった。
本人の意思とは関係なく取り決められた結婚。だけど勘違いでなければ私たちは、それなりにお互いを大切に思いあっている関係性だった。
お互いに自由のない似た境遇ゆえの仲間意識か、とにかくそこに特別な絆があったことは間違いなかった。それが例え恋愛感情ではなかったとしても、そこには確かに愛があった。
だけど、所詮それだけでそれ以上ではない。そこに私たちは、なんの力も権利も持っていなかった。
だから外から介入されれば、その関係性は容易に壊れてしまう。
ある時、私は彼を殺せと命じられた。家族や大切な弟を人質に取られて。
情報すらも制限されていて、細かい事情などは知らないが、どうやら別に皇帝に仕立て上げたい相手ができたらしい。
勝手にカリストを皇帝にしたくせに、要らなくなったら切り捨てる。なんとも勝手な話だった。だけど私に断る選択肢などなかった。カリストが彼らの駒の一つならば、私も同じだったから。
だから私はいつも彼と過ごす時間の紅茶に毒を仕込んだ。後はカリストがそれを口にすれば、全てが終わる話だった。
なのに——
「陛下、私は今日の紅茶に毒を仕込みました。なのでただちに捕えてください」
私にとって人質になった家族と同じくらい大切な彼を、見殺しにすることなんて出来なかった。だから毒を仕込んだことを自ら告白して、せめてカリストが死ぬのだけでも阻止しようとしてしまった。
このあと私がどうなるとしても、そちらの方がよいと思ったのだ。
「……脅されたのかい?」
「はい」
「ああ、きっと人質も取られているのだろうね」
カップに入った毒入りの紅茶を目の前にして、カリストは笑顔でそう問いかけてくる。
自分を殺そうとしたことを告白されたというのに、その様子は随分とのんびりしていて、まるで世間話をしているような雰囲気だった。
「ねぇ、コルディリネ。僕を殺せば君は助かるのかい?」
「一応、そのような約束になっておりますが、私にはもうその気は……」
「そう、ならよかった」
「何をおっしゃって……え?」
私が目を向けた時には、彼はもう毒入りの紅茶に口をつけている所だった。
「だ、ダメです、やめてくださいー!!」
叫んだところでもう遅く、紅茶を飲み干した彼はカップを置くと私に向かって柔らかく微笑んだ。
「ど、どうして……」
「結婚して以来、僕から君に出来ることは何もなかった。でもこれを飲めば君のことを救うことができるのだろう? それならば僕は、喜んで毒だって飲み干そう」
「や……」
「今までありがとう、コルディリネ」
最後にそれだけ告げると、彼はぐらりと倒れ込んでしまった。毒が効いたのだろう。
それ以降のことは正直あまり覚えていない。
ただ当然大騒ぎになって、調査が行われた結果、私が犯人だと断定された。
そう、私は最初からカリストと一緒に始末する予定だったのだ。そんなことに後から気付き、私は大々的に皇帝殺しの悪女として伝播された末に処刑された。脅しに利用された家族は、皇帝を害した一族として先に殺され、私のしたことは何の意味もないまま終わってしまった。
最後の最後に残されたのは、コルディリネの悪女としての悪名と、愚かで救いようのない私自身だけだった。
ごめんなさいカリスト、ごめんなさい。私だけが死ねばよかったのに、貴方を殺してしまって……最後まで貴方に何もできなかったのは、私の方。
だからせめて、生まれ変わっても残っていたこの罪の記憶だけは忘れず、貴方に懺悔し続けますので。
そう……思っていたのに……。
それはその皇帝に相手が都合よくあてがわれた前世の私、コルディリネも同じようなものだった。
本人の意思とは関係なく取り決められた結婚。だけど勘違いでなければ私たちは、それなりにお互いを大切に思いあっている関係性だった。
お互いに自由のない似た境遇ゆえの仲間意識か、とにかくそこに特別な絆があったことは間違いなかった。それが例え恋愛感情ではなかったとしても、そこには確かに愛があった。
だけど、所詮それだけでそれ以上ではない。そこに私たちは、なんの力も権利も持っていなかった。
だから外から介入されれば、その関係性は容易に壊れてしまう。
ある時、私は彼を殺せと命じられた。家族や大切な弟を人質に取られて。
情報すらも制限されていて、細かい事情などは知らないが、どうやら別に皇帝に仕立て上げたい相手ができたらしい。
勝手にカリストを皇帝にしたくせに、要らなくなったら切り捨てる。なんとも勝手な話だった。だけど私に断る選択肢などなかった。カリストが彼らの駒の一つならば、私も同じだったから。
だから私はいつも彼と過ごす時間の紅茶に毒を仕込んだ。後はカリストがそれを口にすれば、全てが終わる話だった。
なのに——
「陛下、私は今日の紅茶に毒を仕込みました。なのでただちに捕えてください」
私にとって人質になった家族と同じくらい大切な彼を、見殺しにすることなんて出来なかった。だから毒を仕込んだことを自ら告白して、せめてカリストが死ぬのだけでも阻止しようとしてしまった。
このあと私がどうなるとしても、そちらの方がよいと思ったのだ。
「……脅されたのかい?」
「はい」
「ああ、きっと人質も取られているのだろうね」
カップに入った毒入りの紅茶を目の前にして、カリストは笑顔でそう問いかけてくる。
自分を殺そうとしたことを告白されたというのに、その様子は随分とのんびりしていて、まるで世間話をしているような雰囲気だった。
「ねぇ、コルディリネ。僕を殺せば君は助かるのかい?」
「一応、そのような約束になっておりますが、私にはもうその気は……」
「そう、ならよかった」
「何をおっしゃって……え?」
私が目を向けた時には、彼はもう毒入りの紅茶に口をつけている所だった。
「だ、ダメです、やめてくださいー!!」
叫んだところでもう遅く、紅茶を飲み干した彼はカップを置くと私に向かって柔らかく微笑んだ。
「ど、どうして……」
「結婚して以来、僕から君に出来ることは何もなかった。でもこれを飲めば君のことを救うことができるのだろう? それならば僕は、喜んで毒だって飲み干そう」
「や……」
「今までありがとう、コルディリネ」
最後にそれだけ告げると、彼はぐらりと倒れ込んでしまった。毒が効いたのだろう。
それ以降のことは正直あまり覚えていない。
ただ当然大騒ぎになって、調査が行われた結果、私が犯人だと断定された。
そう、私は最初からカリストと一緒に始末する予定だったのだ。そんなことに後から気付き、私は大々的に皇帝殺しの悪女として伝播された末に処刑された。脅しに利用された家族は、皇帝を害した一族として先に殺され、私のしたことは何の意味もないまま終わってしまった。
最後の最後に残されたのは、コルディリネの悪女としての悪名と、愚かで救いようのない私自身だけだった。
ごめんなさいカリスト、ごめんなさい。私だけが死ねばよかったのに、貴方を殺してしまって……最後まで貴方に何もできなかったのは、私の方。
だからせめて、生まれ変わっても残っていたこの罪の記憶だけは忘れず、貴方に懺悔し続けますので。
そう……思っていたのに……。
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