皇帝殺しの悪女が、前世で殺した皇帝に求婚された

朝霧 陽月

文字の大きさ
6 / 13

第六話 罪の記憶

しおりを挟む
 幼くして即位した皇帝カリストは皇帝とは名ばかりの傀儡で、ほとんどの実権を持っては居なかった。
 それはその皇帝に相手が都合よくあてがわれた前世の私、コルディリネも同じようなものだった。

 本人の意思とは関係なく取り決められた結婚。だけど勘違いでなければ私たちは、それなりにお互いを大切に思いあっている関係性だった。
 お互いに自由のない似た境遇ゆえの仲間意識か、とにかくそこに特別な絆があったことは間違いなかった。それが例え恋愛感情ではなかったとしても、そこには確かに愛があった。

 だけど、所詮それだけでそれ以上ではない。そこに私たちは、なんの力も権利も持っていなかった。
 だから外から介入されれば、その関係性は容易に壊れてしまう。

 ある時、私は彼を殺せと命じられた。家族や大切な弟を人質に取られて。
 情報すらも制限されていて、細かい事情などは知らないが、どうやら別に皇帝に仕立て上げたい相手ができたらしい。

 勝手にカリストを皇帝にしたくせに、要らなくなったら切り捨てる。なんとも勝手な話だった。だけど私に断る選択肢などなかった。カリストが彼らの駒の一つならば、私も同じだったから。

 だから私はいつも彼と過ごす時間の紅茶に毒を仕込んだ。後はカリストがそれを口にすれば、全てが終わる話だった。
 なのに——

「陛下、私は今日の紅茶に毒を仕込みました。なのでただちに捕えてください」

 私にとって人質になった家族と同じくらい大切な彼を、見殺しにすることなんて出来なかった。だから毒を仕込んだことを自ら告白して、せめてカリストが死ぬのだけでも阻止しようとしてしまった。
 このあと私がどうなるとしても、そちらの方がよいと思ったのだ。

「……脅されたのかい?」
「はい」
「ああ、きっと人質も取られているのだろうね」

 カップに入った毒入りの紅茶を目の前にして、カリストは笑顔でそう問いかけてくる。
 自分を殺そうとしたことを告白されたというのに、その様子は随分とのんびりしていて、まるで世間話をしているような雰囲気だった。

「ねぇ、コルディリネ。僕を殺せば君は助かるのかい?」
「一応、そのような約束になっておりますが、私にはもうその気は……」
「そう、ならよかった」
「何をおっしゃって……え?」

 私が目を向けた時には、彼はもう毒入りの紅茶に口をつけている所だった。

「だ、ダメです、やめてくださいー!!」

 叫んだところでもう遅く、紅茶を飲み干した彼はカップを置くと私に向かって柔らかく微笑んだ。

「ど、どうして……」
「結婚して以来、僕から君に出来ることは何もなかった。でもこれを飲めば君のことを救うことができるのだろう? それならば僕は、喜んで毒だって飲み干そう」
「や……」
「今までありがとう、コルディリネ」

 最後にそれだけ告げると、彼はぐらりと倒れ込んでしまった。毒が効いたのだろう。

 それ以降のことは正直あまり覚えていない。
 ただ当然大騒ぎになって、調査が行われた結果、私が犯人だと断定された。

 そう、私は最初からカリストと一緒に始末する予定だったのだ。そんなことに後から気付き、私は大々的に皇帝殺しの悪女として伝播された末に処刑された。脅しに利用された家族は、皇帝を害した一族として先に殺され、私のしたことは何の意味もないまま終わってしまった。

 最後の最後に残されたのは、コルディリネの悪女としての悪名と、愚かで救いようのない私自身だけだった。
 ごめんなさいカリスト、ごめんなさい。私だけが死ねばよかったのに、貴方を殺してしまって……最後まで貴方に何もできなかったのは、私の方。
 だからせめて、生まれ変わっても残っていたこの罪の記憶だけは忘れず、貴方に懺悔し続けますので。

 そう……思っていたのに……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

星森
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

煤かぶり姫は光の貴公子の溺愛が罰ゲームだと知っている。

朝霧心惺
恋愛
「ベルティア・ローレル。僕の恋人になってくれないかい?」  煌めく猫っ毛の金髪に太陽の瞳、光の貴公子の名を欲しいがままにするエドワード・ルードバーグ公爵令息の告白。  普通の令嬢ならば、嬉しさのあまり失神してしまうかもしれない状況に、告白された令嬢、ベルティア・ローレルは無表情のままぴくりとも頬を動かさない。  何故なら———、 (罰ゲームで告白なんて、最低の極みね)  黄金の髪こそが美しいという貴族の価値観の中で、煤を被ったような漆黒の髪を持つベルティアには、『煤かぶり姫』という蔑称がある。  そして、それは罰ゲーム結果の恋人に選ばれるほどに、貴族にとっては酷い見た目であるらしい。  3年間にも及ぶ学園生活も終盤に迫ったこの日告白されたベルティア、実家は伯爵家といえども辺境であり、長年の凶作続きにより没落寸前。  もちろん、実家は公爵家に反抗できるほどの力など持ち合わせていない。  目立つ事が大嫌いでありながらも渋々受け入れた恋人生活、けれど、彼の罰ゲームはただ付き合うだけでは終わらず、加速していく溺愛、溺愛、溺愛………!!  甘すぎる苦しみが、ベルティアを苦しめる。 「どうして僕の愛を疑うんだっ!!」 (疑うも何も、そもそもこの恋人ごっこはあなたへの罰ゲームでしょ!?)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...