魔術少女と呪われた魔獣 ~愛なんて曖昧なモノより、信頼できる魔術で王子様の呪いを解こうと思います!!~

朝霧 陽月

文字の大きさ
3 / 94

第3話 嵐は突然に 3

しおりを挟む
 夜の森で迷い、嵐に遭った挙げ句の果て辿り着いたのは、カストリヤ王国の王子さまのお城でした。

「な、なんと王子殿下で有らせられたのですね…。先程までの失礼な行い大変申し訳ありませんでした、どうかお許し頂きたく……」

 今までに自分が本当に失礼なことをしたかどうかは全く分からない。何故なら瞬間的に頭が真っ白になってしまったからだ。ようやく暖まってきていた指先も、一気に冷たくなった気がする。

「いや、そんなに畏まる必要はないから普通に接してくれないか」

「普通ですか……」

 そう言われても、自分は王子という存在が自体苦手なので中々難しい。

「名乗っておいてなんだが、なんなら王子と思わなくても構わない」

 そこまで言うのかと流石に驚いた。私の主観であるが、上流階級の人間にとって自分のメンツを保つために相手に身分相応の扱いを求めるのは当然だ。
 初対面の相手にそこまで言うとのは、相当な変わり者か相当に気さくな人物くらいだ。

「努力します……」

 そこまで言わせてしまったからには、なるべく努力はしたい。
 しかし一方で、私の苦手意識と一度聞いてしまった事実は無くならない。これが最大限の頑張ったうえでの私の返答だった。

 そしてコチラが必死に答えてることが伝わってしまったらしく、獣人さん改めアルフォンス王子は苦笑を浮かべていた。

「実際、今の私の身分なんて有って無いようなものだからな気にしないでくれ…。名前も気軽にアルと呼んでくれないか?」

「えっと……じゃあ、アルフォンス様でどうでしょうか」

 彼は私の返答に少し悩んだのち渋々と言った様子で頷いた。

「まぁ、それでも構わないが……その代わりもっと色々な話をしてくれないか」

 また悩むような素振りを見せたアルフォンス様は、やや間を開けたのちにおずおずと口を開いた。

「キミは確か魔術師なのだろう、だから魔術の話などは、どうだ?」

「……もちろん、構いませんよ」

 空気を変えるべく何か面白いものはないかと考えたら、すぐあるものに思い当たって荷物から取り出した。

「それは本か……?」

「確かに本ですが、普通の本じゃありませんよ」

 本の横に付いている上下に動くダイヤルを目当てのページの目盛りまで動かし、ボタンを押すと本が開いた。

「!? 物が出てきたぞ」

「はい、これは中にモノをしまっておく魔術道具なんですよ」

 アルフォンス様が驚いてくれたことに安心しつつ、本から出てきた手帳とペンケースを手に持ってみせた。

「液体は直接入れられないなどの多少の制約はありますが、この本の中にモノをしまうことでスペースを取らなくなるだけでなく、本そのものの重さだけで持ち運びが可能になる優れものです。使い方も簡単で、しまいたいページの上にモノを置いて開け閉めするだけです」

「おぉ……」

 手に持ったものをページの上に再び置き、本を閉じたり開けたりを繰り返すと、魔術道具にすっかり釘付けのアルフォンス様は感嘆の声を上げた。
 獣のような容姿で大きな身体を持つ、一見厳めしい彼が子供のように喜ぶ姿はなんだかおかしくて、私は自然と顔が綻んでしまっていた。

「よろしければ、アルフォンス様も使ってみますか?」

「いいのか?」

「はい、もちろんどうぞ」

 その後、アルフォンス様は本を開けては閉め開けては閉めと、横から見ているだけで伝わってくるくらい楽しそうに繰り返していた。
 よく見ると彼の尻尾も揺れていた。
 その姿はまるで犬のようで、とても微笑ましく思えてずっと眺めていた。



 しばらくの間、本をパカパカしているアルフォンス様を眺めていた私だったが、突然彼がハッとしたように顔を上げたので驚いて眼をしばたいてしまった。

「どうかしましたか?」

「いや、すっかり夢中になってしまってすまない……」

「別に構いませんよ、アルフォンス様の楽しそうな姿を見ているだけで私も楽しかったですから」

「……っ」

 基本的に私は動物が大好きなので、その喜ぶ姿を見るだけで嬉しくなってしまう。だからきっと今の自分の顔もニコニコしていることであろう。

「時間を取らせてすまなかった、そろそろ部屋に案内しよう」

 アルフォンス様はさっと立ち上がり、私に本を返すと先にスタスタと歩き出してしまった。

「えっ、ちょっと待ってくださいよ」

 広げてしまった荷物をかき集めて、私は慌てて彼のあとを追った。


―――――――――――――――――――――――――――……


 どうにかアルフォンス様の姿を見失わず部屋にたどり着くことが出来た私は、「ここの部屋だ」と一言だけ告げて、歩き出した時と同様にサッサと立ち去ってしまう彼の姿を見送ってから部屋の中に入った。
 部屋の扉を閉め、テキトーに持っていた荷物を整理している所でふと思い出したことがあった。

 カストリヤ王国は人間の国である筈だと言うことに……。

 先程までは全く思い出すことも出来なかったことだったが、一度思い出してしまうとどうにも気になって仕方がない。

 ならば、あの獣人のような王子はなんなのだろう。

 本来ならば獣人の王族などいないはずだ……何か特別な事情があることだけは間違いない。

 寝るための身支度を済ませて、ベッドの中に入っても色々な考えが頭を巡ってしまった。しばらく悶々としたところで余計なことを考えるべきではないと思い直して頭を振った。


 自分がわざわざ考える必要もないことよりも、今の自分に必要なことを考えよう。

 例えば明日、部屋を貸してくれた彼にどうお礼すればいいかについてだ。
 普通に考えたら相応の礼金を払って済ますところであるが、何となくそうじゃない方がいい気がしていた。王子様を名乗っていただけあって金銭の類は足りているかもしれないからだ。
 魔術に興味があるようだから、礼金相当以上の魔術道具でも譲ろうか…。それとも魔術師として、何か手伝えることがあればそれでもいいかもしれない……。

 そんなことをボンヤリと考える内に、自分はいつの間にか眠りに落ちてしまっていたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...