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第3話 嵐は突然に 3
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夜の森で迷い、嵐に遭った挙げ句の果て辿り着いたのは、カストリヤ王国の王子さまのお城でした。
「な、なんと王子殿下で有らせられたのですね…。先程までの失礼な行い大変申し訳ありませんでした、どうかお許し頂きたく……」
今までに自分が本当に失礼なことをしたかどうかは全く分からない。何故なら瞬間的に頭が真っ白になってしまったからだ。ようやく暖まってきていた指先も、一気に冷たくなった気がする。
「いや、そんなに畏まる必要はないから普通に接してくれないか」
「普通ですか……」
そう言われても、自分は王子という存在が自体苦手なので中々難しい。
「名乗っておいてなんだが、なんなら王子と思わなくても構わない」
そこまで言うのかと流石に驚いた。私の主観であるが、上流階級の人間にとって自分のメンツを保つために相手に身分相応の扱いを求めるのは当然だ。
初対面の相手にそこまで言うとのは、相当な変わり者か相当に気さくな人物くらいだ。
「努力します……」
そこまで言わせてしまったからには、なるべく努力はしたい。
しかし一方で、私の苦手意識と一度聞いてしまった事実は無くならない。これが最大限の頑張ったうえでの私の返答だった。
そしてコチラが必死に答えてることが伝わってしまったらしく、獣人さん改めアルフォンス王子は苦笑を浮かべていた。
「実際、今の私の身分なんて有って無いようなものだからな気にしないでくれ…。名前も気軽にアルと呼んでくれないか?」
「えっと……じゃあ、アルフォンス様でどうでしょうか」
彼は私の返答に少し悩んだのち渋々と言った様子で頷いた。
「まぁ、それでも構わないが……その代わりもっと色々な話をしてくれないか」
また悩むような素振りを見せたアルフォンス様は、やや間を開けたのちにおずおずと口を開いた。
「キミは確か魔術師なのだろう、だから魔術の話などは、どうだ?」
「……もちろん、構いませんよ」
空気を変えるべく何か面白いものはないかと考えたら、すぐあるものに思い当たって荷物から取り出した。
「それは本か……?」
「確かに本ですが、普通の本じゃありませんよ」
本の横に付いている上下に動くダイヤルを目当てのページの目盛りまで動かし、ボタンを押すと本が開いた。
「!? 物が出てきたぞ」
「はい、これは中にモノをしまっておく魔術道具なんですよ」
アルフォンス様が驚いてくれたことに安心しつつ、本から出てきた手帳とペンケースを手に持ってみせた。
「液体は直接入れられないなどの多少の制約はありますが、この本の中にモノをしまうことでスペースを取らなくなるだけでなく、本そのものの重さだけで持ち運びが可能になる優れものです。使い方も簡単で、しまいたいページの上にモノを置いて開け閉めするだけです」
「おぉ……」
手に持ったものをページの上に再び置き、本を閉じたり開けたりを繰り返すと、魔術道具にすっかり釘付けのアルフォンス様は感嘆の声を上げた。
獣のような容姿で大きな身体を持つ、一見厳めしい彼が子供のように喜ぶ姿はなんだかおかしくて、私は自然と顔が綻んでしまっていた。
「よろしければ、アルフォンス様も使ってみますか?」
「いいのか?」
「はい、もちろんどうぞ」
その後、アルフォンス様は本を開けては閉め開けては閉めと、横から見ているだけで伝わってくるくらい楽しそうに繰り返していた。
よく見ると彼の尻尾も揺れていた。
その姿はまるで犬のようで、とても微笑ましく思えてずっと眺めていた。
しばらくの間、本をパカパカしているアルフォンス様を眺めていた私だったが、突然彼がハッとしたように顔を上げたので驚いて眼をしばたいてしまった。
「どうかしましたか?」
「いや、すっかり夢中になってしまってすまない……」
「別に構いませんよ、アルフォンス様の楽しそうな姿を見ているだけで私も楽しかったですから」
「……っ」
基本的に私は動物が大好きなので、その喜ぶ姿を見るだけで嬉しくなってしまう。だからきっと今の自分の顔もニコニコしていることであろう。
「時間を取らせてすまなかった、そろそろ部屋に案内しよう」
アルフォンス様はさっと立ち上がり、私に本を返すと先にスタスタと歩き出してしまった。
「えっ、ちょっと待ってくださいよ」
広げてしまった荷物をかき集めて、私は慌てて彼のあとを追った。
―――――――――――――――――――――――――――……
どうにかアルフォンス様の姿を見失わず部屋にたどり着くことが出来た私は、「ここの部屋だ」と一言だけ告げて、歩き出した時と同様にサッサと立ち去ってしまう彼の姿を見送ってから部屋の中に入った。
部屋の扉を閉め、テキトーに持っていた荷物を整理している所でふと思い出したことがあった。
カストリヤ王国は人間の国である筈だと言うことに……。
先程までは全く思い出すことも出来なかったことだったが、一度思い出してしまうとどうにも気になって仕方がない。
ならば、あの獣人のような王子はなんなのだろう。
本来ならば獣人の王族などいないはずだ……何か特別な事情があることだけは間違いない。
寝るための身支度を済ませて、ベッドの中に入っても色々な考えが頭を巡ってしまった。しばらく悶々としたところで余計なことを考えるべきではないと思い直して頭を振った。
自分がわざわざ考える必要もないことよりも、今の自分に必要なことを考えよう。
例えば明日、部屋を貸してくれた彼にどうお礼すればいいかについてだ。
普通に考えたら相応の礼金を払って済ますところであるが、何となくそうじゃない方がいい気がしていた。王子様を名乗っていただけあって金銭の類は足りているかもしれないからだ。
魔術に興味があるようだから、礼金相当以上の魔術道具でも譲ろうか…。それとも魔術師として、何か手伝えることがあればそれでもいいかもしれない……。
そんなことをボンヤリと考える内に、自分はいつの間にか眠りに落ちてしまっていたのだった。
「な、なんと王子殿下で有らせられたのですね…。先程までの失礼な行い大変申し訳ありませんでした、どうかお許し頂きたく……」
今までに自分が本当に失礼なことをしたかどうかは全く分からない。何故なら瞬間的に頭が真っ白になってしまったからだ。ようやく暖まってきていた指先も、一気に冷たくなった気がする。
「いや、そんなに畏まる必要はないから普通に接してくれないか」
「普通ですか……」
そう言われても、自分は王子という存在が自体苦手なので中々難しい。
「名乗っておいてなんだが、なんなら王子と思わなくても構わない」
そこまで言うのかと流石に驚いた。私の主観であるが、上流階級の人間にとって自分のメンツを保つために相手に身分相応の扱いを求めるのは当然だ。
初対面の相手にそこまで言うとのは、相当な変わり者か相当に気さくな人物くらいだ。
「努力します……」
そこまで言わせてしまったからには、なるべく努力はしたい。
しかし一方で、私の苦手意識と一度聞いてしまった事実は無くならない。これが最大限の頑張ったうえでの私の返答だった。
そしてコチラが必死に答えてることが伝わってしまったらしく、獣人さん改めアルフォンス王子は苦笑を浮かべていた。
「実際、今の私の身分なんて有って無いようなものだからな気にしないでくれ…。名前も気軽にアルと呼んでくれないか?」
「えっと……じゃあ、アルフォンス様でどうでしょうか」
彼は私の返答に少し悩んだのち渋々と言った様子で頷いた。
「まぁ、それでも構わないが……その代わりもっと色々な話をしてくれないか」
また悩むような素振りを見せたアルフォンス様は、やや間を開けたのちにおずおずと口を開いた。
「キミは確か魔術師なのだろう、だから魔術の話などは、どうだ?」
「……もちろん、構いませんよ」
空気を変えるべく何か面白いものはないかと考えたら、すぐあるものに思い当たって荷物から取り出した。
「それは本か……?」
「確かに本ですが、普通の本じゃありませんよ」
本の横に付いている上下に動くダイヤルを目当てのページの目盛りまで動かし、ボタンを押すと本が開いた。
「!? 物が出てきたぞ」
「はい、これは中にモノをしまっておく魔術道具なんですよ」
アルフォンス様が驚いてくれたことに安心しつつ、本から出てきた手帳とペンケースを手に持ってみせた。
「液体は直接入れられないなどの多少の制約はありますが、この本の中にモノをしまうことでスペースを取らなくなるだけでなく、本そのものの重さだけで持ち運びが可能になる優れものです。使い方も簡単で、しまいたいページの上にモノを置いて開け閉めするだけです」
「おぉ……」
手に持ったものをページの上に再び置き、本を閉じたり開けたりを繰り返すと、魔術道具にすっかり釘付けのアルフォンス様は感嘆の声を上げた。
獣のような容姿で大きな身体を持つ、一見厳めしい彼が子供のように喜ぶ姿はなんだかおかしくて、私は自然と顔が綻んでしまっていた。
「よろしければ、アルフォンス様も使ってみますか?」
「いいのか?」
「はい、もちろんどうぞ」
その後、アルフォンス様は本を開けては閉め開けては閉めと、横から見ているだけで伝わってくるくらい楽しそうに繰り返していた。
よく見ると彼の尻尾も揺れていた。
その姿はまるで犬のようで、とても微笑ましく思えてずっと眺めていた。
しばらくの間、本をパカパカしているアルフォンス様を眺めていた私だったが、突然彼がハッとしたように顔を上げたので驚いて眼をしばたいてしまった。
「どうかしましたか?」
「いや、すっかり夢中になってしまってすまない……」
「別に構いませんよ、アルフォンス様の楽しそうな姿を見ているだけで私も楽しかったですから」
「……っ」
基本的に私は動物が大好きなので、その喜ぶ姿を見るだけで嬉しくなってしまう。だからきっと今の自分の顔もニコニコしていることであろう。
「時間を取らせてすまなかった、そろそろ部屋に案内しよう」
アルフォンス様はさっと立ち上がり、私に本を返すと先にスタスタと歩き出してしまった。
「えっ、ちょっと待ってくださいよ」
広げてしまった荷物をかき集めて、私は慌てて彼のあとを追った。
―――――――――――――――――――――――――――……
どうにかアルフォンス様の姿を見失わず部屋にたどり着くことが出来た私は、「ここの部屋だ」と一言だけ告げて、歩き出した時と同様にサッサと立ち去ってしまう彼の姿を見送ってから部屋の中に入った。
部屋の扉を閉め、テキトーに持っていた荷物を整理している所でふと思い出したことがあった。
カストリヤ王国は人間の国である筈だと言うことに……。
先程までは全く思い出すことも出来なかったことだったが、一度思い出してしまうとどうにも気になって仕方がない。
ならば、あの獣人のような王子はなんなのだろう。
本来ならば獣人の王族などいないはずだ……何か特別な事情があることだけは間違いない。
寝るための身支度を済ませて、ベッドの中に入っても色々な考えが頭を巡ってしまった。しばらく悶々としたところで余計なことを考えるべきではないと思い直して頭を振った。
自分がわざわざ考える必要もないことよりも、今の自分に必要なことを考えよう。
例えば明日、部屋を貸してくれた彼にどうお礼すればいいかについてだ。
普通に考えたら相応の礼金を払って済ますところであるが、何となくそうじゃない方がいい気がしていた。王子様を名乗っていただけあって金銭の類は足りているかもしれないからだ。
魔術に興味があるようだから、礼金相当以上の魔術道具でも譲ろうか…。それとも魔術師として、何か手伝えることがあればそれでもいいかもしれない……。
そんなことをボンヤリと考える内に、自分はいつの間にか眠りに落ちてしまっていたのだった。
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