魔術少女と呪われた魔獣 ~愛なんて曖昧なモノより、信頼できる魔術で王子様の呪いを解こうと思います!!~

朝霧 陽月

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第12話 魔術師の宣言 2

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「私とて呪いを解きたいとは思っている……!!」

 どうやら呪いを自体は解きたいとは思っているようだ。

「ならばどうして……!?」

 その言葉に対してセルバンさんは勢いよく食らいついた。
 まぁそう思いますよね、私も疑問です。

「……わざわざ無関係の者を厄介ごとに巻き込むべきではないのではないか、そう思ったのだ」

 なんと、さっきほどの言葉の意図は私のことを気遣った故の発言だったらしい。
 自分の方が大変な状況なのに、そこで他人を気遣えるなんて……と思わず感心してしまった。

「しかし昨日は協力をお願いすると仰ってくれたではありませんか……!!」

 へぇ昨日のうちに色々と相談もしてたのか……。

「あくまで考えると言っただけだ!!」

 もはや不機嫌さを隠す気すらないアルフォンス様の声は、無視できないダメージを私の耳にも与えてくる。
 このままでは二人の言い争いがますます過熱していくのは目に見えているし、そろそろ止めたほうが良さそうだね。

「お二方とも少々よろしいでしょうか?」

 軽く手を上げて二人のやり取りに割って入った。
 絵面的には獣人と燭台の間に入るというなんとも間抜けなもののような気もするが、燭台と会話していた時点ですべて今更だ。

「その解呪へ協力についてですが、私の心は話を聞き終えた時から決めておりました」

 その台詞に言い争っていた二人だけではなく、部屋全体へ緊張が走ったのが感じられた。
 長きにわたり呪いに苛まれてきた彼らにとってきっとその願いは一つだろう……だから全員に聞こえるようにはっきりと宣言して見せた。

「その呪い、私が解いてみせましょう」

 一瞬の間を置いたのち、部屋の中にドッと歓声が響いた。とても短い言葉であったが、誰もがその言葉を喜んでいるようだった。

 ただ一人アルフォンス様だけを除いては……。
 彼だけは何故か呆然とした表情で私を見つめている。

「……何故、わざわざ?」

 むしろコチラが、そんな顔をしているのか聞きたい。
 彼は今、一体どういう心境なのだろうか。

 私がそんなことを考えていると、しばらく悩むような素振りを見せていたアルフォンス様は苦々しい顔で口を開いた。

「それに実は言っていなかったが、この話は魔術の研究を行う全ての国に相談を持ちかけて断られている……知らずに関われば不利益を被ることにもなるだろう」

 ああ、ふーんなるほど……そんな事情もあるのか。

「話して下さり、ありがとうございます。それについては問題ないので大丈夫です、お気になさらずどうぞ」

 だってそれらの国の中に、間違いなくうちは含まれていないだろうし。

「ああ、分かってるこれで断るのも仕方ないことだ…………は?」

「だから問題ありませんので、変わらずお話をお受けします」

私がそう答えると、アルフォンス様は明らかに戸惑ったような反応を見せた。

「そもそも旅の目的だってあるだろうに、わざわざ厄介ごとを背負い込むことはないのではないのか?」

 本人がそう言い切った今、その部分は別に気にする部分ではない気がするんだけど。
 そこまで気になるのなら説明せざるを得ないか。

「旅の目的は元々、急ぎのものではありませんのでお気になさらず……それよりもコチラのほうが重要だと判断したまでです」

「だが、それだけで面倒な人助けをする理由にはならないだろう」

 いまだに納得出来ない様子のアルフォンス様は更に言い募る。
 ああ、もうっアルフォンス様が色々言うから喜んでいた皆さんも静かになってきちゃったじゃない……この人は一体どうしたいのかな。

「助ける理由は恩返しです。私自身嵐に晒され危険なところ助けて頂き、ベッドや食事まで提供して下さいました。この恩に対して何もしないというのであれば、我が名にも傷が付くというもの……だから無視など出来ないのです」

 お願いだからこれ以上は、何も言わないで頷いてほしいな。

「名に傷がつく、理由は名誉のためか……」

 なに天邪鬼なの? 流石にちょっとイライラしてきたぞ。

「違います、私は義理堅い人間なので他人に何かしてもらったのに、それに何も返せないというのは嫌なだけです。ついでに困っている人を見捨てるなんてしたら、後々どうなったか気になりすぎて死にそうになるので助けることを信条にしてるだけです!!」

 言い方がやや幼稚な気もするが、これは仕方ない不可抗力だ。ここまで言って分かってもらえなかったら、もうヤケになって人助けが好きで好きで仕方ないとでも言うしかないな。

「でも、だとしてもだ!! わざわざ傍にいるなんて恐ろしくはないのか!?」

 私の言葉を受けたアルフォンス様は、大声で今まで堪えていたものを吐き出すようにそう言った。

 は? なに、急に話の方向性が変わったの。

「えーっと、恐ろしいとはなんのことでしょうか……」

 話の展開についていけない私は真正直に訪ねるしかなかった。

「そんなの他でもない、動く調度品もそうだが……何より、この獣の姿だ……」

 その言葉は、後になるにつれ声が段々と小さくなり言い終えた時にはすっかり俯いてしまっていた。

 ああ、そういえばさっき聞いた昔話の中で、呪われた容姿のせいで随分と酷い目にあったらしいこと言っていた。考えてみれば先程の不自然な言動といい、その経験のせいで私にも不信感を抱いているのかも知れない。

 それならば、私がやるべきこと一つしかない。

「確かに最初は少し驚きましたけれども……」

 アルフォンス様の俯いた顔にそっと手を添えて、こちらを向かせる。

「私はアルフォンス様のその容姿を一度たりとも恐ろしいと思ったことはありませんよ」

 そして彼の眼をまっすぐと見て、心からの自分の気持ちを伝えた。

「…………」

 しかしアルフォンス様は私と目を合わせたまま微動だにせず無言を貫いた。

「アルフォンス様?」

 あまりに反応がなく不安になったため、彼の顔に添えてない方の手をひらひらと目の前で振って見せた。
 すると突然、私からパッと距離を取り、身を翻すと声をかける隙もない速さでこの部屋から出て行ってしまった。

 あまりに突然の出来事に、私はしばらくアルフォンス様が出て行った扉をしばらく見つめていたが、ふと彼の顔に触れた手の感覚を思い出し自分の手のひらを見返した。


 見た目以上にモフモフな、いい毛並みだったな……。
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