魔術少女と呪われた魔獣 ~愛なんて曖昧なモノより、信頼できる魔術で王子様の呪いを解こうと思います!!~

朝霧 陽月

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第11話 魔術師の宣言 1

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「知らなかったとは言え、いきなりに逆さまにしたり振ったりして申し訳ありませんでした」

 振り回してしまったことはもはやどうにもならない事実だったが、少しでも誠意を見せようと椅子から立ち上がって燭台さんに頭を下げた。

「いえ、座って下さい。確かに少し驚きましたが気にしていないので謝らないで下さい」

「はい……」

 果たして少し驚いた程度で済むものなのだろうか……やや疑問が残るものの本人がそう言っている手前、私は素直にその言葉を受け取ることにした。
 椅子に腰をかけ直し、そのやり取りはそこまでとしてアルフォンス様に向き直って、新たな疑問をぶつけた。

「アルフォンス様は先程、使用人達と言いましたが、やはり近くにある他の調度品も元は使用人で間違いないですね?」

「ああ、そうだ」

 肯定の言葉とともに燭台さんの載った棚に目をやるアルフォンス様。それにつられて一緒に棚をみると並んでいた調度品がわずかにカチャカチャと動いた。

「……もう動いても構わないぞ」

 その言葉を皮切りに調度品たちは、さっきまでの比じゃないほどにガチャガチャと動き出した。
 そして私のことも気になっていたのだろう、口々に私に向かって話しかけるものも多かった。が、一気に言葉を発する者だからその一つ一つは全く聞き取れるものじゃなかった。

 いやー凄い、口なんて見当たらないのにどうやって声を出しているんだろう
 結構ちゃんと声が出るなんだね、聞き取れないけどー

「……一斉に話しかけるのは止めてさしあげろ」

 私がくだらないことを考えていたところ、苛立ち混じりのアルフォンス様の一言で声どころか物音一つしないほどに辺りは静まり返った。
 ついでに室温も若干下がった気がする。

 アルフォンス様って割と短気なのね……そういえばさっきの話しの中でそんなこと言っていたかな……。

「確かに一気に話されるのは困りますけど、皆さんの話自体は是非お聞きしたいです。ですから、誰かしらお話をお聞かせ願えないでしょうか」

 賑やかすぎるのも困るけど、静かすぎるのも困る。
 まだまだ事情を聞きたいので誰か話しを聞かせて欲しい。

「それでは私がまずお話させていただいてもよろしいでしょうか?」

 そんな中、そう声を発したのは先程の燭台さんだった。
 よかった、ここで誰も返事してくれなかったら本格的に場の空気をどうするか考えなきゃならなかったからね……。

「はい、お願いします」

 返事をすると燭台さんは自分が乗っていた棚をおりて、飛び跳ねるように床を移動して私の目の前のテーブルの上に飛び乗ってきた。

 えっ何それ? 割とジャンプ力が高いし、そんな風に飛んだり跳ねたり出来るの?

「改めて自己紹介をさせていただきます。わたくしはアルフォンス様の執事を務めさせて頂いておりますセルバンと申します」

 うやうやしくお辞儀をしてくれた燭台さんは、どうやら執事さんだったらしい。
 確かに雰囲気や身のこなしを見るとなんとなく分かる気がする……どんな見方をしても燭台は燭台だと言われればお仕舞いだけどね。

「ご丁寧にありがとうございます。もうご存じかも知れませんが、私は魔術師のリアと申します」

 昨日から見ていたのなら当然知っているとは思うけど、一応きちんと名乗っておいた。

「はい、存じております……。実はリア様に私からお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか」

 その声音には緊張したような真剣な色が帯びていた。
 一体何を聞くつもりなのだろうか、そう思いつつも私は頷いた。

「ええ、私に答えられることであればお答えいたします」

「それではリア様……先程の話を聞いて貴女様は専門家としてどうお考えになりましたか。この呪いを解けると思われましたでしょうか……?」

 先程よりも更に真剣な声音で丁寧な言い回しながらも、そこには苦しげで何処か縋るような感情が滲んでいた。

 ああ、そういうことか。
 私という魔術師の存在は、長年呪いに苦しんできた彼らにとって希望なんだ。
 それなら、私もいい加減に答えることなんて出来ないな。

「大精霊を名乗るものが掛けた呪い……まだ分からない部分も多いですが、魔術的な観点から調べていけば解呪できる可能性はあると思います」

「そうですか……ですが魔術師に頼ろうにも、我が国ではその存在自体希少でその結果魔術的な分析は全くできておりませんでした……」

 はっきり聞いたのはこれが初めてだけど、話しの流れからなんとなくそれは察していた。

「そこでリア様。貴女様の魔術師としての腕を見込んで、これら呪いの解呪をお願い致したく存じます……!!」

 そこで燭台執事のセルバンさんは、ひれ伏すような姿を見せて私に懇願してきた。
 燭台の姿でその姿勢は相当厳しいだろうに……と思ってしまう程度には彼は苦しそうであった。
 とりあえずその体勢は一旦止めて頂こうと、口を開きかけたところで。

「余計なことをするな……!!」

 という、声が耳に飛び込んできたのだった。
 驚いて声の元へと顔を向けると、そう発したのはアルフォンス様だった。

 先程の騒ぎを鎮めたときもやや不機嫌そうだったが、今度はそれに拍車をかけて不機嫌さというか、もはや威圧感のようなものを放っている。

 いやいや、なんで? 何が気に入らないの……まさか呪いを解いて欲しくないの?
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