11 / 94
第11話 魔術師の宣言 1
しおりを挟む
「知らなかったとは言え、いきなりに逆さまにしたり振ったりして申し訳ありませんでした」
振り回してしまったことはもはやどうにもならない事実だったが、少しでも誠意を見せようと椅子から立ち上がって燭台さんに頭を下げた。
「いえ、座って下さい。確かに少し驚きましたが気にしていないので謝らないで下さい」
「はい……」
果たして少し驚いた程度で済むものなのだろうか……やや疑問が残るものの本人がそう言っている手前、私は素直にその言葉を受け取ることにした。
椅子に腰をかけ直し、そのやり取りはそこまでとしてアルフォンス様に向き直って、新たな疑問をぶつけた。
「アルフォンス様は先程、使用人達と言いましたが、やはり近くにある他の調度品も元は使用人で間違いないですね?」
「ああ、そうだ」
肯定の言葉とともに燭台さんの載った棚に目をやるアルフォンス様。それにつられて一緒に棚をみると並んでいた調度品がわずかにカチャカチャと動いた。
「……もう動いても構わないぞ」
その言葉を皮切りに調度品たちは、さっきまでの比じゃないほどにガチャガチャと動き出した。
そして私のことも気になっていたのだろう、口々に私に向かって話しかけるものも多かった。が、一気に言葉を発する者だからその一つ一つは全く聞き取れるものじゃなかった。
いやー凄い、口なんて見当たらないのにどうやって声を出しているんだろう
結構ちゃんと声が出るなんだね、聞き取れないけどー
「……一斉に話しかけるのは止めてさしあげろ」
私がくだらないことを考えていたところ、苛立ち混じりのアルフォンス様の一言で声どころか物音一つしないほどに辺りは静まり返った。
ついでに室温も若干下がった気がする。
アルフォンス様って割と短気なのね……そういえばさっきの話しの中でそんなこと言っていたかな……。
「確かに一気に話されるのは困りますけど、皆さんの話自体は是非お聞きしたいです。ですから、誰かしらお話をお聞かせ願えないでしょうか」
賑やかすぎるのも困るけど、静かすぎるのも困る。
まだまだ事情を聞きたいので誰か話しを聞かせて欲しい。
「それでは私がまずお話させていただいてもよろしいでしょうか?」
そんな中、そう声を発したのは先程の燭台さんだった。
よかった、ここで誰も返事してくれなかったら本格的に場の空気をどうするか考えなきゃならなかったからね……。
「はい、お願いします」
返事をすると燭台さんは自分が乗っていた棚をおりて、飛び跳ねるように床を移動して私の目の前のテーブルの上に飛び乗ってきた。
えっ何それ? 割とジャンプ力が高いし、そんな風に飛んだり跳ねたり出来るの?
「改めて自己紹介をさせていただきます。わたくしはアルフォンス様の執事を務めさせて頂いておりますセルバンと申します」
うやうやしくお辞儀をしてくれた燭台さんは、どうやら執事さんだったらしい。
確かに雰囲気や身のこなしを見るとなんとなく分かる気がする……どんな見方をしても燭台は燭台だと言われればお仕舞いだけどね。
「ご丁寧にありがとうございます。もうご存じかも知れませんが、私は魔術師のリアと申します」
昨日から見ていたのなら当然知っているとは思うけど、一応きちんと名乗っておいた。
「はい、存じております……。実はリア様に私からお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか」
その声音には緊張したような真剣な色が帯びていた。
一体何を聞くつもりなのだろうか、そう思いつつも私は頷いた。
「ええ、私に答えられることであればお答えいたします」
「それではリア様……先程の話を聞いて貴女様は専門家としてどうお考えになりましたか。この呪いを解けると思われましたでしょうか……?」
先程よりも更に真剣な声音で丁寧な言い回しながらも、そこには苦しげで何処か縋るような感情が滲んでいた。
ああ、そういうことか。
私という魔術師の存在は、長年呪いに苦しんできた彼らにとって希望なんだ。
それなら、私もいい加減に答えることなんて出来ないな。
「大精霊を名乗るものが掛けた呪い……まだ分からない部分も多いですが、魔術的な観点から調べていけば解呪できる可能性はあると思います」
「そうですか……ですが魔術師に頼ろうにも、我が国ではその存在自体希少でその結果魔術的な分析は全くできておりませんでした……」
はっきり聞いたのはこれが初めてだけど、話しの流れからなんとなくそれは察していた。
「そこでリア様。貴女様の魔術師としての腕を見込んで、これら呪いの解呪をお願い致したく存じます……!!」
そこで燭台執事のセルバンさんは、ひれ伏すような姿を見せて私に懇願してきた。
燭台の姿でその姿勢は相当厳しいだろうに……と思ってしまう程度には彼は苦しそうであった。
とりあえずその体勢は一旦止めて頂こうと、口を開きかけたところで。
「余計なことをするな……!!」
という、声が耳に飛び込んできたのだった。
驚いて声の元へと顔を向けると、そう発したのはアルフォンス様だった。
先程の騒ぎを鎮めたときもやや不機嫌そうだったが、今度はそれに拍車をかけて不機嫌さというか、もはや威圧感のようなものを放っている。
いやいや、なんで? 何が気に入らないの……まさか呪いを解いて欲しくないの?
振り回してしまったことはもはやどうにもならない事実だったが、少しでも誠意を見せようと椅子から立ち上がって燭台さんに頭を下げた。
「いえ、座って下さい。確かに少し驚きましたが気にしていないので謝らないで下さい」
「はい……」
果たして少し驚いた程度で済むものなのだろうか……やや疑問が残るものの本人がそう言っている手前、私は素直にその言葉を受け取ることにした。
椅子に腰をかけ直し、そのやり取りはそこまでとしてアルフォンス様に向き直って、新たな疑問をぶつけた。
「アルフォンス様は先程、使用人達と言いましたが、やはり近くにある他の調度品も元は使用人で間違いないですね?」
「ああ、そうだ」
肯定の言葉とともに燭台さんの載った棚に目をやるアルフォンス様。それにつられて一緒に棚をみると並んでいた調度品がわずかにカチャカチャと動いた。
「……もう動いても構わないぞ」
その言葉を皮切りに調度品たちは、さっきまでの比じゃないほどにガチャガチャと動き出した。
そして私のことも気になっていたのだろう、口々に私に向かって話しかけるものも多かった。が、一気に言葉を発する者だからその一つ一つは全く聞き取れるものじゃなかった。
いやー凄い、口なんて見当たらないのにどうやって声を出しているんだろう
結構ちゃんと声が出るなんだね、聞き取れないけどー
「……一斉に話しかけるのは止めてさしあげろ」
私がくだらないことを考えていたところ、苛立ち混じりのアルフォンス様の一言で声どころか物音一つしないほどに辺りは静まり返った。
ついでに室温も若干下がった気がする。
アルフォンス様って割と短気なのね……そういえばさっきの話しの中でそんなこと言っていたかな……。
「確かに一気に話されるのは困りますけど、皆さんの話自体は是非お聞きしたいです。ですから、誰かしらお話をお聞かせ願えないでしょうか」
賑やかすぎるのも困るけど、静かすぎるのも困る。
まだまだ事情を聞きたいので誰か話しを聞かせて欲しい。
「それでは私がまずお話させていただいてもよろしいでしょうか?」
そんな中、そう声を発したのは先程の燭台さんだった。
よかった、ここで誰も返事してくれなかったら本格的に場の空気をどうするか考えなきゃならなかったからね……。
「はい、お願いします」
返事をすると燭台さんは自分が乗っていた棚をおりて、飛び跳ねるように床を移動して私の目の前のテーブルの上に飛び乗ってきた。
えっ何それ? 割とジャンプ力が高いし、そんな風に飛んだり跳ねたり出来るの?
「改めて自己紹介をさせていただきます。わたくしはアルフォンス様の執事を務めさせて頂いておりますセルバンと申します」
うやうやしくお辞儀をしてくれた燭台さんは、どうやら執事さんだったらしい。
確かに雰囲気や身のこなしを見るとなんとなく分かる気がする……どんな見方をしても燭台は燭台だと言われればお仕舞いだけどね。
「ご丁寧にありがとうございます。もうご存じかも知れませんが、私は魔術師のリアと申します」
昨日から見ていたのなら当然知っているとは思うけど、一応きちんと名乗っておいた。
「はい、存じております……。実はリア様に私からお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか」
その声音には緊張したような真剣な色が帯びていた。
一体何を聞くつもりなのだろうか、そう思いつつも私は頷いた。
「ええ、私に答えられることであればお答えいたします」
「それではリア様……先程の話を聞いて貴女様は専門家としてどうお考えになりましたか。この呪いを解けると思われましたでしょうか……?」
先程よりも更に真剣な声音で丁寧な言い回しながらも、そこには苦しげで何処か縋るような感情が滲んでいた。
ああ、そういうことか。
私という魔術師の存在は、長年呪いに苦しんできた彼らにとって希望なんだ。
それなら、私もいい加減に答えることなんて出来ないな。
「大精霊を名乗るものが掛けた呪い……まだ分からない部分も多いですが、魔術的な観点から調べていけば解呪できる可能性はあると思います」
「そうですか……ですが魔術師に頼ろうにも、我が国ではその存在自体希少でその結果魔術的な分析は全くできておりませんでした……」
はっきり聞いたのはこれが初めてだけど、話しの流れからなんとなくそれは察していた。
「そこでリア様。貴女様の魔術師としての腕を見込んで、これら呪いの解呪をお願い致したく存じます……!!」
そこで燭台執事のセルバンさんは、ひれ伏すような姿を見せて私に懇願してきた。
燭台の姿でその姿勢は相当厳しいだろうに……と思ってしまう程度には彼は苦しそうであった。
とりあえずその体勢は一旦止めて頂こうと、口を開きかけたところで。
「余計なことをするな……!!」
という、声が耳に飛び込んできたのだった。
驚いて声の元へと顔を向けると、そう発したのはアルフォンス様だった。
先程の騒ぎを鎮めたときもやや不機嫌そうだったが、今度はそれに拍車をかけて不機嫌さというか、もはや威圧感のようなものを放っている。
いやいや、なんで? 何が気に入らないの……まさか呪いを解いて欲しくないの?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる