魔術少女と呪われた魔獣 ~愛なんて曖昧なモノより、信頼できる魔術で王子様の呪いを解こうと思います!!~

朝霧 陽月

文字の大きさ
30 / 94

第30話 大地の大精霊1

しおりを挟む
 帰りたい、ああ帰りたい、帰りたい……。

 突然、現れた大精霊様のお陰で私の予定は見事にぶっ壊れました!!
 まぁ元々なんかあれば吹っ飛ぶような、雑な計画ではあったけれどね……!!

 でもさ、よりよって大精霊様が出てくるとかなくないです?
 そんなわけで、帰りたい気持ちばかりがあふれてくる……帰りたいわー。


 そう思う私とは裏腹に、大精霊様の瞳はコチラへと向けられて動かない。

「…………」

 ……一応魔術でバッチリ正体は隠せてるはずなのに、そんなに見つめられると
見透みすかされてるようで不安になるのですがー!!


「……ここから立ち去りなさい」

 森に響き渡る、凜とした大精霊様の声。


 はい、よろこんで帰ります!!
 と、言いたいところだけど大精霊様が一瞥いちべつして声を向けたのは私ではなく近くにいた下級精霊たちだった。

 あれ、さっきまでこっち見てましたよね!?
 だからその台詞も是非、私に向けてお願いできませんかねー?

 そしてさっきまで元気にお喋りしてた精霊たちが何も言わずに、この場から去って行く。

 ああ、待ってー!! 私も連れてって!!

 ……確かにさ、大精霊様に会おうと思っていたけどそれは今じゃないからね!?
 何より向こうから来るとか嫌な予感しかしないんですよ……!!


「さて、それではお話しましょうか?」

 再びこちらへ視線を向けた大精霊様はニコリともせずに言った。

 嫌です、嫌な予感がするのでーっ!!

 そう思うものの流石にそれは言えないので、とりあえず無言を貫く。

 そして大精霊様は返事もしない私のことを意に介した様子もなく口を開いた。

「ねぇ、アナタ勝手に私の森に入ったうえに私の精霊たちまで集めてどういうつもりかしら?」

 えっ、精霊を集めたことはともかく森に立ち入るのって許可がいるんですか!?
 だとしたら何処どこにどうやって許可を得ろと言うつもりで?
 まず大精霊様は森の中にいるから無理ですよね?
 おかしくありません? しかも少し前まで眠っておられましたよね?

 ええ、思っていても口には出しませんけどね!?

「しかもわざわざ魔術で正体を隠してるなんて良くないんじゃないかしら……あの子たちは誤魔化ごまかせても私をだますことは出来ないわよ?」

 え……正体を隠すのは良くないって、どの口で言ってるんでしょうかね?
 それを言ったら、いつか正体を偽って騙し討ち的に訪ねてきて、呪いをかけた大精霊様の方がはるかに悪質では? それを考えると私の用途はとってもクリーンで、そのような悪意はないわけですよ!? そこのところ、よろしくお願いしますー!!

 ……はい、ここまで全て現実逃避です!!

 ああ、どうしよう……なんて答えればいいかまったく思いつかない……。

「さぁ、その魔術を解きなさい」


 ん……? あれ、誤魔化すことは出来ないと言われた時はドキッとしたけど……術を解かせようとするってことは、もしかして正体隠しの魔術を使っていることは分かっていても私の正体自体はバレてない……!?

 ………………ふ。

 ふふ……!! 自慢でしかないけど、私の正体隠しの魔術は超一級品、格上でも通用するように改良に改良を重ねてきた自信作なのですよ!!

 まぁ大精霊様が本気を出せばどうにかできると思うけど、それを躊躇ためらわせる程度には外から手を出すのが面倒に組んでいたつもりだったんですよねー。
 しかし個人的に実証じっしょう実験をするにしても限界があるわけで、まさか大精霊様に試せるとは……あれ、実際に大精霊相手でもちゃんと通用することが分かったのは大きな収穫では!? 大変だ、記録付けないと!! 日時に状況と条件を記録しなきゃ……っと、今はそれを喜んでる場合じゃなかった……。

「………………」

 一旦内心の大興奮をグッと抑えて、そーっと大精霊様の様子を伺う。すると彼女は黙ってこちらを見ているようだった。
 これはもしかして私の反応待ち……?


 ……うん、それじゃあどうしようかな。
 出来れば帰ってしまいたいけど、それは許してもらえないだろうしな……。

 うーん、うーん…………。


 あ……もしかして私の正体がハッキリ分かってこの状況って利用できるんじゃない?

 自分が知ってるけど、相手が知らない情報は武器になる……そういうのが得意なわけじゃないけど、私が取れる行動は限られているし出来る限りやってみようかな。

 よし、決めた。

「失礼ながらそれは出来ません……私はさる御方おかたのご命令でここに訪れており、正体を明かさないように厳命げんめいされておりますから……」

 実のところ、私には大精霊様がわざわざここまで来た理由に少なからず心当たりがある。
 むしろ有り過ぎる位にはある……。

 ならこう言えば、大精霊様は上手く勘違いしてくれるんじゃないかな……?
 たぶん、恐らく、あるいは……!!

 そうすると案の定、彼女の表情に変化が見られた。

「ふーん、さる御方ね……じゃあなんの為に来たの何が目的?」

 その顔にはやや驚きがあったものの、そこには一種の納得のようなものが読み取れた。

 お……これはイケたのでは?

 しかしどうしようー。使っておいてなんだけど、さる御方の性格とかほとんど把握してないんですよねー。
 むしろアチラの方が詳しいハズなのでうっかりボロが出たりしたら……うん、その時はその時だね!!
 というワケで開き直ってガンガンいっちゃうぞー!

「それはもちろんこの森に起きている異変の調査です……大精霊様もお心当たりがお有りでは……?」

「…………」

 返事はないが、代わりに大精霊様はわずかに不快さを表情ににじませていた。

 ふむ、やっぱり異変への自覚はあったわけか……となると、分かっていながらどうにかしなかったのか……はたまた、どうにか出来なかったのかどっちなのかな?

 とりあえず現状では判断できないから次だね……。

「それともう一つ、1000年前のあの件について出来る限り調べて来るようにと……」

 この言葉については一種のけだ……さて、一体どんな反応が帰ってくるだろうか。

「……そう」

 大精霊様は一見静かに頷いたが、そこには何か嫌なものを感じさせた。
 あら……?

「ふふ、今更ね……」

 そして、そんな言葉とともに浮かべた笑みは恐ろしく冷たいものだった。

 うん、完全に良くない発言だったみたいですね!?

 しかし後戻りは出来ないので、ここは押し通るのみ……!!

「今更と言われても、分からないものは分かりませんので……それにこの案件については貴方様以上にお詳しい方はおられないのでは?」

「……それはどういう意味かしら?」

 大精霊様はまだ冷え冷えとした笑顔を浮かべている。そんな笑顔ならさっきまでの無表情のがマシなので止めて頂けませんかね……?

「可能であれば、当事者である貴方様に直接お話を伺いたいという意味で御座います」

 当事者って勝手に断言ちゃったけど、間違っていないよね?
 私の発言に大精霊様は露骨ろこつに顔を歪めた。

「勝手に訪ねて来たくせに図々しいのね……」

 いえ、別に訪ねてきたわけではなく大精霊様が勝手に出てきただけです。
 私は特に会いたくなかったので、そこはお間違いなきように……!!

「……ですが、いいでしょう」

 お……? もはや期待してなかったけど、この反応は?

「1000年前のあのこと……特別に話してあげるわ」

 おお、やった!?

「ご配慮のほど、恐悦至極きょうえつしごくに存じます……」

 全く配慮なんてされた覚えはないけど、とりあえずこう言っておこう……。ほら、世の中って何かと建前が大事ですからね?
 しかしもう駄目かと思ったけど、本人から直接話しが聞けるって!!

 これはやったんじゃないかな……!?

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

処理中です...