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第77話 うっかり忘れてた例のこと
しおりを挟むや、やり遂げた……!!
ダンス頑張った、私、がんばった……偉い……。
いや、本当にね……頑張ったんですよ!?
あれだけしっかりと準備して頂いた手前、踊るのは一曲だけとは言えず、何曲も踊るハメになり……確か二桁はいってないはずだけど、それなりの時間を踊りました。
ええ……。
なんかもう、今までの人生で一番踊った気さえする……。
この一日で、これ以前の総合ダンス時間 (練習時間除く)を軽く超えてる気もする……!!
でもまぁ、私以外の皆さんは、楽しまれていたみたいで本当によかったと思います。
アルフォンス様なんてもう、今まで見たことがないほど上機嫌でいらして、それを考えると私の苦労など些細なものでございます……。
まっ、それはともかくとして、もう二度とやりたくないけどね!?
ダンス終わった後も、例の侍女お三方に、周りをぐるぐるされながら褒めちぎられたので、無駄に気疲れしてしまったし……。
そんなこんなで重要イベントも完遂し、借りている部屋に無事到着した私。
普段着への着替えも終わったところで、寝ます!!
だってもう疲れたから……一旦休みたいんですよ。割と本気で。
とりあえず必要そうなことは、目が覚めてから考えることにしましょう……そうしましょう。
そんな経緯で、すやすや寝ていた私だったが……あることが頭によぎってバッと起き上がった。
「まずい、お兄様のこと忘れてた……!!」
そうだ、まったくのんきに寝てる場合じゃなかった!!
あまり思い出したくないからって、ちょっと記憶に蓋をしてたら本気で忘れかけてた……。
確か、私が気絶する前の時点で、すぐに確認すると言っていたから、もう嘘がバレてる可能性も高い……下手したらこちらに向かっているのでは?
いや、でも私の居場所は知らないはず、だからまだなんとか……。
あ……でもアルフォンス様のことを話してしまっているから、その時点でそこから何かしらの当たりは付けられるか……。
そもそも、あのお兄様が無策で私のことを放置してくれるなんてありえないのでは……?
あ、ああああっっっ!! は、早くどうにかしないと!?
あわ、あわ、あわわわわ……。
そうして一切落ち着けないまま、少し考えた結果。
私はいつかのごとく、古城を抜け出して夜明け前の森を歩いていた。気持ち、やや早足で。
だからと言って以前とは違い、特に目的地があるわけでもなく……。
ただ強いて言うなら、あのまま私が古城にいる状態でお兄様がやってきた場合、何かしらの被害が出そうだと判断したので、そのリスクを回避するために外へ出たのだ……。
だってあのお兄様だったら、建物を丸々氷漬けにするくらいのことはするし、場合によってはもっと荒っぽいことも平然とやるだろうから……。
ああ、本当に恐ろしい…… 。
現状、全くもってどうすればいいか思い付かないけど、少なくとも私はあの人の被害を最小限に抑えなくてはならない…… 。
とりあえず、私が近くに居なきゃ被害は減る……と思っているのだけど、間違っていたらどうしよう。
少なくとも、私が狙いのはずだから他は大丈夫だよね?
いや、自分で考えておきながら、非常に不安だ……。
しかし、ここからどうしたものか……。
…………やっぱりもう一度、私からお兄様に会って話しをするしかないかな。
まったく気が進まないし、正直ちゃんと話になるかどうかも分からないけども……!!
それでも……どうにかもう一度冷静に話し合う……。
私の取れる選択肢は、現状それしかないだろう。
お兄様が絡む時点で、万が一の事態に備え、私が借りている部屋には遺書……ではなく書き置きも残してあるので、抜かりはない。
えーっと、さて、それでは肝心のお兄様を探し始めましょうかね? 正直全然、探したくはないけども……。
おそらくいるならば、もうこの付近にいてもおかしくないと思うのですが……。
あ、そうあらためて思うと寒気が……ではなく、この付近、おそらく古城に隣接する森を重点的に探せばいいと思うんですよね。おそらく、たぶん、きっと。
そこで問題になるのが探す手段なんですが……ですが……本当にどうしよう。
ただ森をうろつくだけでは、ダメだということはさすがに分かる。
だからと言って今取れる手段は……。
あっ、でも、あれなら多少は……状況的には私とすれ違って、古城の方に行かれるのが一番困るし……。
でも……うーん……。
そうして悩んだ結果、私は決めた。
「あのー、すみません!!」
野生動物避けに使っていた姿隠しの魔術を解いたうえで、大きな声を出しながらお兄様を探すことを……。
「私ですけどー!!」
しかし声を出すのまではいいが、自分の名前は出したくないし、おおっぴらに兄のことを呼ぶのもなんかイヤだった。
そうして私が選んだのはとりあえず、その辺りの言葉を避けるために『私』と言うことだった。苦渋の決断である。正直、自分でも頭が悪いと思うし……。
でもこれは仕方ない、気持ち的にどうしても嫌だったのだから……!!
「すみません、私でーす!!」
そしてそれは何も知らない人から見れば、おかしな行動を取っている人物に他ならないだろう。
それもよく分かる……だけど自分の中の折衷案が、それしかなかったのでもう諦めるほかないだろう。
「私ですよっっっ!!」
しばらく大声で叫び続けていると、目当ての人物より先に招かれざる客が姿を現した。
「グワアァァァ」
なんとそれは元気いっぱい野生の魔獣くんである。
わぁーお!! ごわごわとした黒い毛皮に、クマとオオカミを混ぜたような見た目のどっしりとした身体、森にこだまする咆吼はとても雄々しくてカッコイイ!! そして私の二倍くらいの体長があって、とっても大きいね!! 一体何を食べてそんなに育ったのかな!?
まぁ、毛皮がごわごわしてる時点で、私の好み的には不合格なんですけどね!? もふもふふわふわになって出直して来て欲しいものです!!
ああ、もう面倒くさいなぁ……今は特に余裕がないのに。
「ねぇ、今なら見逃してあげるから、どっか行く気は……うん、そんな気はなさそうだね?」
私が優しく声を掛けて上げてるというのに、ごわごわくんは、一切それを無視して勢いよくこちらに襲いかかってきた。
なんて礼儀知らずの野生動物なのだろうか……。
そんなことを考えつつ、私が渋々ごわごわくんを迎え撃とうとしたところ。そいつは突然、横腹に強い衝撃を受けて真横に吹っ飛んでいったのだった。
おや……?
そうして吹っ飛んだ、ごわごわくんは木に身体をぶつけて「グワッ」とうめき声を上げながら地面に転がったのだった。
んん、今の技には見覚えが……。
そう思った次の瞬間、私の横を疾風の如く駆け抜け、そのままごわごわくん、もとい野生の魔獣に斬りかかる人影が。はっきり顔を見たわけではないけど、その姿に私はすぐにピンと来た。
ああ、やっぱりそうだ……!!
人目を引く燃えるような赤い髪に、見惚れるような鮮やかな太刀筋、それによって巨体から滑り落ちる魔獣の首。
たった一瞬のことで、特にその三つが鮮烈に映ったのだけれど……ようするに颯爽と現れた赤い髪の彼が、一太刀で軽々と魔獣の首を切り落としたのである。
そうして魔獣の首を切り落とした彼は、その剣を鞘に収めると、すっと私の方を振り返った。
短く切り揃えられた燃えるような赤い髪に、精悍な顔立ちの青年。鋭く光る瞳は深い赤色で、その眼は真っ直ぐにこちらを見据えている。
「カイくん……!!」
たった今、易々と大きな魔獣を斃したその人は、私の幼馴染のカイくんことカイアス・グラディウスだった。
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