初恋の香りに誘われて

雪白ぐみ

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第五話〜見えない距離〜

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 一緒にランチする約束をしてから三日後、たまたまお互いの空きコマが重なり、大学近くのタイ料理屋さんへ二人で行く事になった。


「華奈ちゃんごめんね、ちょっと行ってくるね」

「ぜーんぜんいいよ! 私はシホちゃんのところ行ってくる。だから、こっちの事は気にせずランチデート楽しんで来て♡」

『デート』の部分をやけに強調された気がして、慌てて否定する。

「違うデートじゃないの! お昼一緒に食べるだけ!」

「はいはい。いってらっしゃい」






 満面の笑みの華奈ちゃんに送り出され、待ち合わせ場所まで急いで向かう。

 私の姿を見るなり、青山君が爽やかな笑顔で手を上げた。

「ごめん待たせちゃって」

「いや俺も今来たとこ」

 待ち合わせのカップルのようなやり取りに、なんだか胸の奥がくすぐったい。

「じゃあ行くか」


 約束したタイ料理のお店は、通りを挟んで徒歩数分の場所にある。
 お昼より少し早めの時間帯に入った為、店内はいつもより空いており、「空いている席にどうぞ」と案内された私達は明るい窓際の席を選んだ。
 ミルクティーのような彼の髪色が、陽に照らされキラキラと輝いて見える。

 
 綺麗……なんて、一瞬目を奪われてしまった。
 おっといけない、いけない。

 青山君はお店の人が持ってきてくれたお冷を少し口に含むと、メニュー表を見ながら「何がおすすめ?」と私に尋ねる。

「いつも決まったやつ頼んじゃうからそんなに詳しくないんだけど、パッタイがやっぱり定番で美味しいよ」

「パッタイ?」

「焼きそばみたいなやつ。エビとニラが乗っていて美味しいよ」

「それも美味そうだけど、俺どうしようかな、フツーにグリーンカレーにするかな。でもな……」

「半分こする?」

 あれ? 迷ってるのかと思って思わず提案しちゃったけど変な事言った?
 メニューを眺める彼の動きが一瞬止まったように見えた。
 半分こなんて、何度もしてたから抵抗なく言っちゃったけど、今となってはおかしい事なのかな。


「じゃあ俺、おすすめのパッタイにするかな」

「……私もそうする」

 彼は私の言葉を聞くとすぐにメニュー表をパタっと閉じ、店員に声を掛けた。

「パッタイを二人前ください。そうだ、飲み物は?」

 フルフルと頭を横に振る。

「じゃ、それで」


 *


 パッタイはいつも通りの味で美味しかったし、青山君も美味しいと言って残さず食べた。
 おすすめを喜んでもらえて何より。

 それで良かった、筈なのに。

 彼はパッタイの上に散らしてあったパクチーを全てお皿の隅に寄せていた。

 パクチー苦手だったのかな。
 言ってくれたら、私パクチー好きだからもらったのに。
 それにパクチー苦手なのも知らなかった。
 それも言ってくれたら、パクチー抜きを頼んだのに。
 私が最初にパクチー乗ってるよって教えてあげれば良かった。
 
 苦手なら食べるよって、声をかければ良いだけの話だけど、なぜかあの時はそれも躊躇われた。



 友達だから、もちろんお会計も個別にした。
 別にどれも何て事はない、普通のやり取り。

 それなのにどうしてだろう、彼が遠い。

 これからは仲の良い友人として付き合えるのだろうか、連絡を取る内にそんな事を考えていたけど、やはりそれは甘過ぎる考えだったのかもしれない。

 もし、もしもだけど、彼からあの宝物を返してもらったら、今の関係はそこで終わってしまうのだろうか。
 もう連絡を取ったり、こうして会う事も無くなるのだろうか。
 そう考えると、なぜか鎖骨の下の辺りがキュッと締め付けられたように苦しくなった。
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